第一章

第2話 受験申請

 目が覚めると、人のいない公園のベンチに座っていた。


「おぉ……、こういうところで目覚めるのか」


 周囲を見渡す。魔力感知でも探ってみたが、肉眼で見える場所に人はいない。遠くの方に数人いるが、とてもではないが私のことなど見えないだろう。

 誰も私がここにいきなり現れたことは見ていないらしい。


 服装はレビィ神が言った通り、いつも通りだ。

 動きやすいズボンに、ポリエステルのTシャツと長袖の上着。帽子もかぶっているし、普段右目を隠している眼帯もある。この眼帯がないと暮らしにくくなるからうれしい。眼帯なんてなかなか売ってないしな。

 ただし、装備品は銃一丁とスマホだけ。それ以外は何も持っていない。

 その銃は今は亜空間に入っているらしい。スマホはポケットに入っていた。


 現在時刻は公園に立っているあの時計を見るに朝九時だ。


 まずはどこに向かうべきだろうか。

 ま、普通に考えたら役所だな。身分を証明するものをもらいたい。

 私の所属する支部に来たあの異世界人も、まずは役所に向かって身分を得たというし。

 懸念点は、この世界がスキル至上主義で、私がスキルを所持していないことだが……なんとかなるだろう。


 近くに地図が書かれているパネルがあったので、それを参考に一番近くの役所に向かう。なんでだかこの世界の文字を読むことができるので、特に困らなかった。

 特に説明をレビィ神から受けなかった辺り、これは標準装備なのかもしれないな。



~~~~~



 無事役所につき、ハンター協会への紹介状をもらうことが出来た。支援金ももらえたぞ。

 この世界にもハンターという職業があってよかった。それがなかったら私は一気に無能になるからな。安心安心。

 この世界でも異世界人が来ることがままあるらしく、異世界人だと紹介したとき驚かれたが、マニュアルがないわけではなさそうだった。ただし慣れていないのか数時間を取られたが。役所内にウォーターサーバーがあってよかった。

 ただし家などは紹介されなかったので、自分で見つけろということだろう。さすがにたまに来る異世界人にそこまで世話を焼けないだろうから不満はない。テキトウなネカフェにでも泊まるとしよう。


 と、あそこが協会だな。私の世界のと大して見た目は変わらない。ビルの横に室内運動場が併設されている。

 本当に違う点はスキルの有無だけっぽいな。


 扉を開けると、左側に事務スペースがあり、右側は来訪者用の机や椅子が置かれた待合スペース、受付はその境目にある……まあ、よく見るような間取りの空間が広がっていた。

 それぞれの椅子は仕切りで区切られており、仕切りの上には担当業務を示す小さな看板が掲げられていた。そのうちの一つの、「新規ハンター登録」に向かう。

 新規ハンターになるためには、筆記と実技両方の試験を合格しなければならない。魔物の生態などは地球と大して変わらなそうだし、筆記は心配していないが、実技がどのようなものになるのかが不明で少し怖い。


 時刻は一時くらい。お昼時だからか、人影は見られない。


「すいません。ハンター登録をしたいのですがいいでしょうか」

「はい。席にお掛けください」


 私は受付の女性に声をかけ、促されるまま席に座る。

 懐かしいな。初めて登録しに行ったときは緊張してうまく文字が書けなかった……今回は二回目だし、そうでもないけれど。


「役所からの紹介状があるのですが……」

「紹介状、ですか?」

「はい。これです」


 と、私は役所からもらった紹介状を見せる。

 それには、異世界人であるということ、もとの世界での職業がハンターであることを証明する、という文書が書かれていた。


「あ、異世界人……なるほど。もともとハンターとして働かれていたのですね?」

「そうですね。ただここでやっていけるかはよくわかりませんが」

「いえいえ。経験があるだけでもありがたいです。ただ、その……スキルはお持ちなのでしょうか?」


 受付嬢は申し訳なさそうに私に聞いてくる。


「持っていませんね。魔力はありますが」


 ……さっきから、協会内の人の視線が気になるな。会話を盗み聞いていたな、これは。椅子がきしむ音がする。私がスキルを所持していない、といったあたりで動揺が広がったのも感じる。

 それほどこの世界ではスキルは一般的なんだな。ちょっと不安になってきた。


「と、とりあえず、こちらの用紙に記入をお願いします」


 受付嬢は、私に個人情報を書くらしい用紙を差し出してきた。

 名前、年齢、性別……大体は普通の事だな。


「出身と……ス、スキルの欄は書かないで結構です」


 明らかに気まずそうだ。


 使用武器はともかく、使用魔術の欄もあるな。

 私はだいたいの初歩魔術なら使えるのだが、それを全部書く必要があるのだろうか。正直、全部覚えてないんだよな。


「これって、初歩魔術みたいにまとめてもいいんですかね?」

「えーと……その位の魔術全般を扱えるなら」

「わかりました、ありがとうございます」


 楽でいいね。

 私が扱える魔術はかなり多いのでまとめられるのはありがたい。

 使用武器は魔導式銃、と。


「終わりました」

「はい。確認します。……魔導式銃が武器という話ですが、今お持ちですか?」

「ああ、持ってます」


 そういえば出してなかった。

 いや、ハンター登録をしてなかったら銃法に引っかかったかもしれないしよかったのか。


 銃を亜空間から取り出す。

 それを見た受付嬢がポカンとしている。

 しまった。ここでやるとスキルか何かと勘違いされかねない。


「あ、これはその、転移のときにもらった特典といいますか、決してスキルや魔術ではありません」

「あ、そ、そうだったんですね。びっくりしちゃいました」


 誤解は解けたようだ。


「最後に魔力測定をさせていただきます」


 受付嬢が出してきたのは、台形の屋根を横に倒したような箱で、こちらに傾いた斜面が手前にあり、その奥に少し背の高い四角い箱がくっついているものだ。斜面部分は液晶のようなものが張られている。ただし、画面はついていない。

 なじみ深い魔力測定器だ。


「こちらの機器に手を置いてください。魔力の大きさによってこの結晶の色が変化します。指標はこちらをご覧ください」


 色見本のような、細長い形状の紙を測定器の横に置く。

 区分が存在し、大きく分け、黄、緑、青、紫、赤、の五段階だ。黄色が少なく、赤が大きい。

 結晶は奥の直方体の飛び出た部分に収められているものだ。まさに結晶という形である。


 機器に手を置く。いくら多くとも、いきなり赤色になるわけではない。徐々に色が変化していく。

 無色の結晶は黄色、緑色、青色、と変化していき、最終的に赤色になった。


「赤色ですね。……はい。これで一旦記入は終了です。お疲れさまでした。受験届を発行しますので少々お待ちください」


 受付嬢は奥に引っ込んでいく。

 うん。問題なく試験を受けられそうだ。


「お待たせしました。では、明日の朝八時から試験をしますので、その時にこの届をもって隣の試験会場に向かってください」


 数分経って戻ってきた受付嬢はそういうと、私に受験番号やらなにやらが書かれた届を渡してくる。

 先ほど記入した個人情報が書かれている。スキル欄もあるが、そこには「ナシ」との記載がある。無くさないようにしなくては。


「了解です。ありがとうございます」


 ポケットにたたんで突っ込む。


「登録お疲れさまでした。……試験頑張ってくださいね」


 受付嬢はあいまいに微笑んで私にそういう。

 スキルがないから、まさか受からないとでも思っているのだろうか。

 そりゃあ、スキルがあるこの世界ではきっと強さの程度は相対的に見れば下がっているだろう。

 だが舐めないでほしい。私は地球ではニュースで顔を見るくらいには有名だったし強かったハンターなんだ。試験くらい合格してやるさ。



~~~~~

〈設定〉

魔物がおり、基本的に自衛が求められる世界なので、銃は違法ですが刀類は所持を許されているようです。

なので、銃刀法ではなく銃法です。

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地球産のバケモノ、異世界でも無双する。 イノウエ @inoue-san2357

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