第8話 捜索investigation

王都 近郊 地上の平原

俺達はマリーナ達が開けた大穴から地上に出た。

「あれが聖女? 聖女じゃなくて性なる女じゃない。」

ソルティさんが俺と同じ感想を愚痴りつつ

「セルベスさん、助かりました。」

「ふふふ、これも恋の研究の一環だ。

どうだ?ときめいたか?」

セルベスさんはニヤニヤしながら俺を見下ろしてくる。

身長差があるからちょうど胸が目に入ってしまう。

「・・・そうですね。もう少し俺がピンチだったら。」

あの状況なら聖女の光魔術にも対応できたからな。

どうせあのバカの1つ覚えの光線攻撃だろうし。

「タイミングが大事と。」

セルベスさんがポケットから大陸語で恋の研究ノートと書かれたメモ帳を取り出して書き出す。

「姉さん、

あいつら潰さなくてよかったの?」

ベルゼブが真顔で物騒なこと言い出した。

「あら、だめよ。赤い髪が王子で、青い髪が宮廷魔術師の秘蔵っ子、黄色い髪が現騎士団長の息子

どれも敵に回すと厄介。だからあいつらと戦うのはキヨマサに任せておきなさい。

学生同士の小競り合いなら誰もとがめないわ。」

「あの金髪の女は?」

「あれは聖女だから、転生者が食いつくまで泳がせておく必要がある。」

「――でも、転生者の匂いが濃かったよ?

最近会ったんじゃない?」

「「!?」」

俺とソルティさんが驚いてベルゼブを見る。

「・・・転生者が分かるのか?」

「キヨマサみたいに薄すぎると近づかないと分からないけど、異界の魔素が着いてる人間でいいなら、分かる。」

「セルベスさん、俺のことは」

「キヨマサのことはベルゼブには言ってないわ。味方だとしかね。

だから本当だ。」

「――でもキヨマサの体のほとんどは普通の人間、

脳と脊髄の一部が異界の魔素を纏ってるから分かりづらかった。」

俺は他の転生者みたいに肉体を丸々転生したわけじゃないから、エスキートと呼ばれるいわゆる何でもありなすごい力はほとんど備わってない。

だが、脳と脊髄の一部が転生者なら、俺にもエスキートがあるのかもな。

「――キヨマサ、

あなたにもエスキートがある可能性が出てきたわね。」

ソルティさんが俺と同じことを思いついたらしい。

「エスキートってどうやって使うんですか?」

「基本的には念じれば使えるらしいわ。

ただ古代魔術と一緒でイメージが明確である必要があるけど。」

「何の能力を持っているか、簡易的に測定してみます?」

「出来るのか?」

「簡単ですよ。」

セルベスさんも驚いている。

ベルゼブ凄いな。

「やってくれ。」

「それじゃあ。少しちくっとしますね。」

ベルゼブが両手の指に1本ずつ全属性の魔術をまとわせる。

「――おいおい、ちょっとま」

ドッと俺の腹部に押し当てられたと想ったら

体が数メル後方ぶっとんだ。

「ぐっ!」

何とかバク転して勢いを殺すが、何て怪力だよ。

「っ 殺す気か!」

「ち、違います。ごめんなさい。起きたばかりで力加減が。

でも分かりましたよ。」

ベルゼブが指を器用に薬指と小指だけ立てる。

「土と水の魔術の適性です。」

「知っとるわ!!」

「あ、そうでしたか。

それではもう1回」

「ちょま」

ドッと立ち上がった俺に再び10本の指が押し当てられ、今度は力の入れ方がおかしいせいで上に吹き飛んで土魔術で何とかやわらかめの土の土台を作って、受け身を取った。

「うん。

なるほどぉ。」

ベルゼブが納得したらしく。指を3本立てて見せる。

だが、俺には何も見えない。

「精神干渉に関する魔術への耐性と、

あとは怪力系の身体能力を引き上げる魔術、

それと血液と神経を操って魔術の高速展開ぐらい

3つだね。」

「1つ目は何となく聖女の誘惑が効かなかったから分かるが、

残り2つは何だ?」

「常人よりすこーし力が出しやすいとか感じたことない?」

「――それはある。

帝国で修行した時リカルドのしごきに3日以上耐えた後に急に筋力が上がってたわ。

3つ目は意外ね。」

「そうだったんですか?」

死に物狂い過ぎて気づかなかったな。

無意識の内にもう使ってたのか。

「それで3つ目のやつはどうやって使うんだ?」

「急がない、1つ目のエスキートは対して問題ないけど、

2つ目、3つ目のエスキートは肉体が普通の人間だから筋断裂や骨折を起こしやすい

気を付けて。」

ベルゼブが俺のおでこをとんとんと指で小突く。

顔はソルティさんとは違うタイプだが、美人だから近づかれると足がすくんでしまう。

「あぁ、分かった。

で3つ目はどうやって使うんだ?血液操作なんてやったら貧血になるだろ。」

「そだね。」

「そうなのかよ!

古代魔術が使えるようになったりしないのか?」

「魔術を早く展開できるようになったり、

立ち眩みの時に助かるかもね。

あとは回復魔術の効きが良くなったり。」

「地味だな。」

ていうか1回使ったことあるな。

入学式の日に黄色の髪の奴の魔術で顎をぶん殴られた時に気絶しないように無理やり視界と脳だけ血流回して保持してた気がする。

「一般にエスキート持ちの転生者は10程度かつ複合能力だから1/3以下だね。

だから脳をやられてないみたいだけど。」

「脳? 俺は転生者の脳だろ?

前世の記憶も薄っすらはあるし。」

「異界の魔素がほとんど入ってないから脳神経を浸食されたりしてないって意味で。

見たことない?転生者が何か強いこだわりを持ちすぎて人外になったり、

大量虐殺して討滅されたりするの。」

「ありますよ。転生者に殺されかけたことならね。」

つまり俺はエスキートを7つ以上捨てた代わりにまっとうな人間として転生出来たってことか。

「それじゃ、転生者探しに行きましょ。

鼻が効く範囲はどのぐらい?」

「半径100メルってところですね。」

「キヨマサ、明日は休みよね。」

「えぇ。ってまさか」


翌日 王都 プレートム 中央通り

まる1日、ベルゼブを連れて王都を歩くことになった。

足で稼ぐというやつである、

ちなみにソルティさんとセルセスさんはカフェで待機しておくことになっている。

流石に男1、女3に見える4人で街を歩くのはおかしいからな。

「ベルゼブは、記憶はどのぐらいあるんだ?」

「ほとんどありませんね。

セルベス姉に20年間、教育を施された以外には記憶がありません。

魔術や社会常識はありますが。」

「――そうか、

ならこれから色んな記憶を作っていけばいいさ。」

「そうですね。

そういえば私の知識が正しければこうして男女が2人で街を散歩するのはデートと言うのですよね。」

「あぁ、一般的にはな。

転生者探しのために街中を歩き回る行為はデートとは言い難いだろうな。」

「それもそうですね。そこを右です。」

ひたすら半日ぐらい歩いてないか?

半径100メルを探知できるとは言え、王都は広い。

これ3日ぐらい掛かるんじゃないか。

「セルベス姉によると王都だけでもなく、

他の街でも同じことをやってみるそうです。

お疲れなら私1人でも。」

「だめだ。エスキート持ちの転生者の不意打ちを防ぐために最低でも2人で行動する。

例えベルゼブがセルベスさん以上に強くてもだ。」

「――面倒見がいいのですね。」

「そうでもないぞ。」

そんなたわいもないことを話しながら、王都を3日間歩いたが全く反応なし。

てっきり王都で聖女と転生者が接触したものだと思っていたが、

どうやら違ったらしい。


夕方 王都 北門周辺

「見つかりませんでしたね。」

「えぇ。でもいたみたいよ。」

ソルティさんが新聞の記事を取り出す。

王都の格安オーテルの1室で男性2人の焼死体を発見された、

魔具<ガイスト>などを用いた形跡はなく。

「――戦闘用の魔具<ガイスト>なら足が付くはずだけど。

恐らくエスキートを用いた殺人。

それに2人はいわゆる遊び人のような男だったらしいわ。

前日に見知らぬ女と歩いているのを目撃されている。

こいつは恐らく転生者。」

「憲兵が見つけるより先に見つけないと ですね。」

「そうね、無駄な犠牲を出さないためにも。」


学園都市 スカラル 王立学園南門前

4連休に王都中を歩いた倦怠感と共に、俺は学院に向かっていた。

なぜかは分からんがベルゼブと一緒に。

「――どうして付いてくるんだ?」

「1人行動は良くないと。」

「そんなことも言ったが、学院内は大丈夫だ。

教授陣もいるし、警備もあるからな。」

「――そうですか。ならここまで。」

「あぁ。」

ベルゼブと別れて、学院の中に歩いていくと

「匂いますね。」

ベルゼブがいつの間にか俺の後ろにいた。

「どうしたんだ?」

「学院の中から匂います。」

「嘘だろ。エスキート持ちの転生者は狂人なんだろ。

そんな奴が学院の中にいれば分かるはず。」

「分かりません。

もしかしたら強く接触している人がいるのかも。」

プレートム王立学院の中を1周すると、教育棟の方らしく

徐々に範囲を絞り込んでいく。

「聖女ってオチじゃないだろうな。」

「違います。聖女はこの敷地内に魔素を感じない。」

あいつサボってんのか。まぁ、どうせ男関係だろうけど。

キーンコーン

講義の始まりの鐘が鳴る。

今はそれどころじゃないな。

「あの魔術訓練場の方に行きました。」

「――あっちは。」


魔術訓練場に入ると魔術訓練の講師が1人でいた。

「――ノルモ・モスコロ先生」

「どうした、講義はサボりか?

それに親御さんか。」

「最近、いえ昨日会った人の名前を教えてくれますか?」

「・・・どうしたんだ、急に。

俺のプライベートがそんなに気になるか?」

「妻子がいらっしゃいますよね。

でも女性とあっているのが気になりまして。」

「さ、さぁ何のことかな。」

適当に鎌をかけてみたが当たりだな。

ノルモ講師が昨日あった女が転生者だ。

(キヨマサ、聞こえる?

隙を見て自白魔術をかけるから、時間を稼いで)

俺の耳にだけ聞こえる特殊な発声方法でベルゼブが伝えてくれた。

「とぼけるんですね。

昨日王都で起こったある事件の重要参考人なんですよ。」

「そ、そんなことがあるわけ。

彼女は昨日学園都市にいて。」

「なるほど。それで?」

「くっ、喋る必要はないだろ。

うっ!」

ベルゼブが自白魔術をかけたせいか、ノルモ講師の瞳が上に向き、口がだらんと開けられる。

「会った女の名前は?」

ベルゼブが早速聞き出す。

「テレシア・ミニュエ」

「その女の外見的な特徴は?」

「金髪、碧眼」

「家族構成は?」

「マリーナという義理の娘が1人」

「!?」

聖女マリーナの義理の母親が転生者だったのか。

「現在の滞在場所は?」

「学園都市の外れにある一軒家に住んでいる。」

「住所は?」

「分からない。」

「近くにある建物は?」

「鉄塔の立った山」

「もういい。」

パチッとベルゼブが指を鳴らすと自白魔術が切れて、ノルモ講師が倒れこむ。

「――どうするんだ。記憶を消せたりするのか?」

「薄っすら覚えているとは思いますが、

前後の記憶は消せるから大丈夫です。」

「流石だな。それよりいよいよ転生者を倒しに行けるな。」

「私は生まれたばかりなのでいよいよ感は皆無ですが。」

「あぁ、流石だ。」

俺とベルゼブは拳を重ねた。

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