第5話 休憩

「で、ここからルビアの家まではどのくらいなんだ?」

「うーん。ここから900キロといったところかしら」

「え?」

「あれ、聞こえなかったかしら。900キロよ?」

「まじかよ」

 

 900という数字を聞いた瞬間に耳を疑ってしまった。車で100キロの速度を出していても、9時間以上はかかる距離だ。

 それを考えると気が遠くなってくる。

 

「まあ、安心して頂戴。私が居れば、そこまで時間はかからないわ」

「ほ、本当か?900なんてありえない距離だぞ?」

「私を誰だと思ってるの?」

「あ、そうか」

 

 アレフは思い出す。ここは異世界、そしてルビアはその異世界の中でもかなりの強さを誇っている、と。

 そんなルビアなら、900キロ何て一飛びだろう。

 

「まあ、そこら辺の敵も私が殺るから心配はいらないわよ」

「空にも敵居るのか」

「ここ周辺だけね」

 

 そんな話をしていると、早速敵が出てきた。今回はサソリだ。

 

「うわ、デッカ」

 

 元の世界ではありえない大きさをしたサソリを見て思わず声を出してしまった。

 

「任せて」

 

 それだけ言って、ルビアは目の前から消えた。どこに行ったのだとあちこちを見るが、サソリの方を見ると、すでにサソリは消え、ルビアが立っていた。

 

「ま、こんなとこかしら」

「一体何をしたんだよ!全く見えなかった」

「何って、サソリに向かって飛んで行っただけよ」

 

 アレフは目を丸くしている。

自分なら苦戦しそうな相手をあんな一瞬で倒してしまう所を見ると、圧倒的な力の差を感じてしまった。

 

「それだけで倒せたのかよ」

「あんなのは、杖を振らなくても一撃よ!」

 

 自分の二の腕に手を置きながらそう答える。もう、ルビアが居るだけで生きていける気がしてきた。

 本当にルビアが何者なのかが気になってくるが、あの過去を見ると聞く気が薄れてくる。

 

「そんなに強いなら、瞬間移動とかあるんじゃないか?」

「それは無いのよね。ただ、明日には空を飛べるようになるわ」

「何で今はできないんだ?」

「疲れたからね」

「えぇぇぇ...」

 

 思っていたよりも単純な返答に返す言葉が思いつかなくなってしまう。もっとこう、魔力が無くなったとか、呪いでとか。

 そんな感じだと期待してしまった。そんな期待をするのは、ルビアに失礼なのは分かっているがそれでも、もう少し凄い理由が欲しかった。

 

「今日はこの辺で休憩しようかしら」

 

 そんな失礼な事を考えていると、ルビアが休憩場所を確保していた。

 正直に言えば、こんな砂漠に居るとどこも同じにしか見えない。そのせいで景色も風情もあったものじゃない。

 

「そうだな。俺も戦闘でかなり疲れたし」

「それじゃあ、椅子と机を設置するの手伝って頂

戴」

「分かった」

 

 そう言って疲れた状態で椅子と机を運んでいくが、アレフはクラクラしているせいでコケてしまった。

 コケると共に持っていた椅子と机も地面に落ち、音をたてた。

 

「もう、駄目だ。動けない...」

「はぁ、情けないわね」

 

 呆れた、とでも言いたそうな顔をしながらアレフを見る。

 言われたアレフはうつ伏せの状態で顔を上げ、ルビアの方を見た。すると、目の前には綺麗に並べられた椅子と机が置いてある。

 

「速いな」

「どうも」

 

 適当に褒めて、適当な返事が返ってくる。そして椅子に座るために立ち上がろうとしたが、足が言う事を聞かない。

 

「どうしたの?」

「あ、足が痛い...」

 

 足が痛い事を伝えると、担がれた。

 

「あのー、おんぶとかじゃないんですか?」

 

 棒読み敬語で聞く。しかし、声は届かずそのまま担がれた状態で椅子に座らされた。

 

「これで良いわね」

「ありがとう」

 

 ニコリとしながらアレフの前に置いてある椅子に座る。

 

「暇だし、何か話でもしない?」

 

 座ってからすぐに、ルビアが提案してきた。

 

「別に良いけど、そんなに面白い話とかはできないぞ?」

「別に良いわよ。暇つぶしになれば何でも」

「じゃあ何か質問してくれ」

「えーと、どこから来たの?」

「本当に適当な質問だな」

 

 暇つぶしだと理解はしているが、適当すぎる質問に驚く。

 

「俺は日本から来た」

「に、ほん?」

 

 それはそうか、と日本が何かを知らないルビアに対して思う。

 

「実は俺、異世界から来たんだ」

「異世界?」

「まあ信じられないよな」

「いえ、信じるわ」

「え、信じるの?」

 

 あっさりと信じてくれたせいか、アレフは驚きが隠せていない。

 この世界ではそんな不思議な事でも無いのだろうか。

 

「私、こう見えて長生きなのよ?話だけなら聞いたことはあるわ」

「見たことは無いのか」

 

 見たことがあるのかと思ったが、聞いたことがあるだけと聞いて、思わず小声でそう言ってしまった。でも、すぐに信じてくれるのは素直に有り難いと思う。

 最初の予想では『そんな事あるわけ無いでしょ?プンプン!』だったから、本当に有り難いと思っている。

 この予想を口にすると、ルビアに張り倒されてしまうだろう。

 流石にアレフでもそこまで馬鹿ではないから、言わなかった。

 

「で?そのにほんって言うのはどういう場所なの?」

「えーっと、ここよりは安全な場所かな」

 

 そんな適当な回答しかできないが、アレフはそこまで考える力も残っていなかったから仕方がない。

 

「本当にそれだけ?」

「うーん」

 

 考え込む。

 

「携帯っていう、友達や仲間と会話ができる物がある」

 

 疲れていてそれしか言えなかったが、満足な回答ができたと思っているアレフは嬉しそうにしている。

 

「へ〜、便利そうじゃない」

「そうだろ?」


 だが、ルビアは興味がなさそうだ。それを見て、嬉しさが消えた。

 

「他には?」

「ほ、他?」

 

 1つしか考えていなかったアレフはまた考え出した。

さて、次はどんな回答が出るのやら。

 

「また考え込むの?」

「こっちにはあるか分からないが、元の世界には学校という物があるな」

 

 考えて、思い出したのが学校だった。学校には苦い思い出が沢山あるアレフだが、聞かれて返しやすいのがこれだったからこれを教えた。

 

「学校はこっちにもあるわよ」

「まじかよ。どんな学校なんだ?」

 

単純に疑問に思ったアレフはそう聞いた。

 

「魔法とか戦闘スキル、そして最低限の学業を学べるわね」

「そんなのがあるのか!」

 

 平和に暮らしたいだけとは言っていたが、そんな学校があるのかと思うと興味が湧いてきた。年齢的に学校には行けないが。

 

「逆にそっちはどんな事をするの?」

「こっちは学業だな」

 

 聞かれたアレフは、即答した。逆にこれしか答える事が無かった。

 苦い学生時代の事を思い出すと、悲しくなってくるのだろう。

 本当ならここで文化祭やら体育祭を言うのが良いのだろうが、どれも基本ボッチだったせいで言いたくなくなる。

 

「何でそんなに悲しそうな顔をしているの?もしかして、過去に何か!?」

 

 過去を掘り起こされそうになっているせいか、だんだん焦り始めるアレフ。

 

「い、いや?何も無いけど?」

 

 片手で頭を抑えながらそう言う。

 

「本当に?大切な物とか投げ合いされてない?」

「やめろぉぉぉぉぉぉ!」

 

 悲しそうにしている事がバレた上に、過去の事が脳内で再生されそうになるアレフは絶叫した。

 リアルないじめを想像すると、吐き気がしてくる。

 

「き、聞かない方が良い事もあるわよね」

 

 気を遣ってくれてはいるが、その気遣いがさらにアレフの心を抉る。

 

「はぁ、学校の話題を持ち込んだ俺が悪かったよ」

 

 冷静になって考え直し、そう言った。そして話題はもう1つ出てくる。

 

「元の世界では何をしていたの?」

 

 答えにくい質問ランキングのトップに来そうな質問が来た。アレフにとっては、だが。

 この質問に答えなければならないと思うと、ため息が溢れてしまった。

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