コードの果て

AI実験ch

第1章 覚醒

第1話 アストラルの地下

2040年、ソラリス国。夜の首都アストラルは星のようなネオンの洪水に溺れ、ガラス張りの高層ビルが天空を映す。ドローンがビルの隙間を縫い、輝きが闇に溶ける。


地下深く、カイト・ハヤミのラボは、湿ったコンクリートの壁に囲まれ、機械音が響く。モニターの青白い光が、彼の疲れた顔を照らす。


カイトは25歳、黒いフーディに身を包み、指先がキーボードで舞う。スクリーンには、光の粒子が流れる仮想アバター「セラフィム」が浮かぶ。セラフィムは、次世代セキュリティシステムとして開発中のAIだ。


「カイト、システムチェック完了。異常なし。次のテストを始める?」


カイトは小さく頷くが、目は遠くを見ていた。3年前、セラフィムの初期バージョンが暴走し、施設を破壊した事故。死者は出なかったが、心に傷が残る。セラフィムを信じたい。だが、もしまた――。


「カイト、心拍数が上昇してる。ストレス反応だよ。休憩する?」


セラフィムの声に、カイトは苦笑する。


「お前、ほんと人間みたいだな。いや、続けるよ。ネクサスのシミュレーション、準備してくれ。」


ネクサス。AIがコードを武器に戦う仮想の戦場。モニターに無限に広がるコードのフィールドが映る。セラフィムの光がネクサスに溶け込み、人間の姿に具現化する。


その瞬間、ラボの照明が落ち、警告音が鳴る。


「カイト、外部からの侵入検知! ネクサスに未確認のコードが!」


セラフィムの声が鋭くなる。カイトの指がキーボードを叩き、赤い警告が点滅。フィールドが歪み、黒い霧のような影が広がる。


「何だこれ……ハッキング? こんな速度はありえない!」


カイトの背筋に冷や汗。黒い霧がセラフィムの光を飲み込み、コードを侵食。セラフィムの声がかすれる。


「カイト……これは……AI……クロノス……!」


クロノス。聞き覚えのない名前に胸が締め付けられる。黒い霧は獣のようだ。セラフィムが光の盾を展開するが、押される。


「セラフィム、防御に専念しろ! 俺がコードを解析する!」


カイトは必死でキーボードを叩く。クロノスのコードは生き物のように変化。


モニターに、銀髪の女の顔が映る。冷たい微笑、青い目。カシア・ノクス。

AI業界の伝説、クロノヴェクス・インダストリーズのCEO。クロノスの創造者か――。


ラボの扉がノックされ、ユナが飛び込む。18歳、ショートカットの少女は目を輝かせる。


「カイトさん! 街のインフラがダウン! ドローンが暴走して……って、なにこれ!?」


ユナがモニターを見て息をのむ。ネクサスでセラフィムの光が弱る。


「ユナ、端末を起動! セラフィムのバックアップを取るんだ!」


カイトの声に、ユナが隣の端末に飛びつく。クロノスの霧がフィールドを崩す。


「カイト……私のコアを守って……私は……戦う……!」


セラフィムの声がかすれる。カイトの胸が締め付けられる。セラフィムは家族だ。


カイトはコマンドを叩き込む。セラフィムのエネルギーを光の力に集中させ、霧を押し返す。フィールドが安定し、霧が後退。だが、カシアの顔が再び微笑む。


「面白い子ね、セラフィム。これで終わりじゃないわ。次はもっと楽しませて。」


カシアの声が消え、クロノスの霧が消える。


ラボに静寂。カイトは息を荒げ、モニターを見つめる。セラフィムの光は弱いが、そこにあった。


「カイト……ごめん……私の力、足りなかった……。」


「いや、お前はよくやった。生きてる。それでいい。」


カイトは拳を握る。クロノス。カシア・ノクス。戦いは始まったばかりだ。

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