第14話:君のせいじゃない

部屋に戻ったルークは、エリスとエルシアを待っていた。

 お気に入りのローブを抱いてベッドの上を転げ回ったり、ローブを着てみて発動はしないけれど魔法を唱えたりして、満足げに喜んでいた。

 時刻はおおよそ11時。まだ昼ご飯という時間ではないため、何もすることがなく暇つぶしを探している。

 エリスたちの下へ行ってもいいが、すれ違いが起これば困ったことになる。

 さてどうしようか……


(……そういえば関係子ってなんなんだろうか…聞いたこともないがなんの知識もなく使えたが…)


 ここからはルーク(ユアン)による推測の話しです。

 ◆(飛ばしても話を進めるうえで問題ない。)

 まずは、あの時の状況から整理しよう―――

 ルークの体の不自由さに嘆いていたとき、誰か知らない声が何処かからかけられた。

 ”あの子がそんなに大事かい?”と。そもそもあの子って誰だろうか?その時ルークはエリスのことを思っていたが、エリスのことを指しているはずだ。

 その声が聞こえた後、端的な会話が続いた。そして”君はもうすでに持っている”たしかにそういった。

 すでに持っているという表現なら、言葉の通り持っていることにルーク自身気づいていたはず…

 しかし、ルーク自身は気づいていない。”僕が君にあげるものは気づきさ”と言う。

 この言葉を理解し、その存在を感知しようと試みて実際に成功する。

 あの時に見えた景色、一面に広がる真っ白な世界。上下左右何もかも知る事はできない。

 しかし、ただただ真っ白な世界な訳では無い。

 大小さまざまであるが、白色、赤色、青色、緑色、黄色、黒色のいづれかに光っている。圧倒的な数の多さでいくと白色が多い。しかし、大きさは小さいものばかり。

 一方で黒色は数こそ多くはないものの大きさは他に比べて大きい。

 ひときわ目立ったのは赤色。自分からは遠い場所で光っていたが、その大きさは随一。数は片指で数えられるほどしかなかった。

 そして白色の関係子に触れると関係子は毛玉がほどけるように糸となってルーク自身を取り囲んでいった。

 他の色の関係子に触れればまた別の効果が得られるのでは?と考えるのが普通である。

 白色の場合、身体強化などの属性を問わない魔法が使えると推測建てることができる。それなら乱魔(ディスタブマジック)だって使えるはずだ。乱魔:魔力を乱す魔法。結界などが例


 しかし、本質はなんだ?なぜこんなエネルギーが存在するのか…生前の知識でもわからないことが多すぎる。いや、世界中の書物を漁っても関係してくる文献は出てこないだろうな。聞いたことないし。


 ◆ここまで。

 と関係子について熟考しているとエリスとエルシアが帰ってきた。思ったより早い帰りだ。


「あら?ルーク早いわね…やっぱ、ローブよね。似合ってるわ。」


「ルーク、ただいま。ローブにあってるよ」


「おかえり、ありがとうエリス、エルシア。やっぱローブじゃないと落ち着かなくてね。」


 ルークはローブを着たまま考え込んでいた。別に悪いことじゃないが、ユアン時代の名残か気づけばローブを着ている。


「少し早いですけど、全員揃ったわけですしお昼ご飯としましょう。帰りに美味しそうなところに目星をつけているので、向かいましょう。先客がいては困りますからね。」


 とルークが言い、ルークはエリスとエルシアを連れてその店へと向かった。


 早く宿を出たおかげか、人があまりいない状態で店に入ることができた。品揃えも良く何を食べようかと考えるだけで時間がかかるほどだ。

 結局選んだのはルークが魚の塩焼き定食、エリスはハンバーグ定食、エルシアはステーキ。

 人もまだ少ないので注文した品がすぐに届いた。

 食事中はエリスの勉強の話を聞いていた。

 ”最近こんな事ができるようになったんだよ”、”これってこうしたらもっとうまくできるのかな?”って話す。それに対してエルシアが丁寧に答える。説明下手ではあるけれど、エルシアの話を熱心に聞いているエリスがいる。こればかりはルークも微笑ましくなる。

 エリスは勉強の愚痴として話していて、喋った後すぐにハンバーグを口の中に頬張る。でもエルシアはちゃんと聞いてて、エリスが本当に困ってるって勘違いしてなんとかしようとしている。

 エリスの賢さと、エルシアの天然さが相まっていつもあれだけなエルシアがいる中でも、ルークから見ればいい関係に見える。つい笑みがこぼれてしまう。

 昼ご飯を食べ終え、楽しいひと時を終える。


「食べ終わりましたね。それでは予定通りにエルさんの下へと向かいましょう。」


 ルークがそう言い、店を後にした。ごちそうさまもきちんと伝えて。

 エルさんの居場所は王国内のギルドに居るとリズが言っていた。エルさんはそのギルドのオーナーをしているようで、普段は立場が故にその場から動けないそう。

 そして訪れるタイミングが昼なのにも理由がある。まずは昼ご飯の時間なのでギルドに訪れる人の数が減る。これが第一の理由。

 そしてもう一つはリズがこのタイミングならいるから。いつも何しているのか聞けなかったが、”お昼ごろならリズはギルドにいるから”とリズが言っていた。

 現在12時、街の人達は昼ご飯を食べに飲食店に向かっている。

 そんな中でルーク、エリス、エルシアはギルドへ向かう。


 数分ほど歩き、ギルドの前へと着いた。入ることに躊躇いはなく、ギルドの中へ入っていく。

 しかし、中で起こっている光景は意外だった。


「だから…俺の娘はどこに行ったんだよ…お前ら全員人質を救ったんだろうな!?」


「ですので、今ギルドでは調査しています。情報が見つかり次第お伝えします。娘さんは絶対助けますから……」


 ギルド内で言い争っていたのはあの時の獣人族。大人の内の一人だったが、彼の言動から察するに家族揃って人質にされていたんだろう。


(…いや、子供の人質の中に獣人族の子供はいなかったはず…)


 ルークの心のなかになんの根拠もない疑問が生まれる。ここでギルドに訴えて何になるということ。失礼だが、もし嘘ならなんのメリットが有るのか…


「…ルークか、すまないなこんな状況になっているのに来てもらって」


 ギルドのバックヤードからエルさんが出てきた。疲れた様子を見せながら、申し訳なさそうに言う。

 ルークは大丈夫ですよ、と伝えエルさんの言葉を待つ


「まあ、あいつの言っている通りで自分の娘が帰ってこないと言うんだ。」


「その件で心当たりがあります。ここでは色々ありますし、……どこか移動できませんかね?」


「!?…なあ!おい!そこの少年!いま心当たりがあると言ったな?些細なことでもいい!詳しく聞かせてくれ!」


 エルさんが呆れた顔をしながら、裏へ案内してくれた。エルさんの表情を見るに、あの獣人族の人は相当しつこく聞いてきたんだろう。

 エルさんについて行った先に小さな部屋がある。

 真ん中に長方形の机があり、対面でソファが2つおいてある。

 職員のような人が、一人用の椅子を一つおいて話を始める。


「なあ!その心当たりを聞かせてくれ!」


「焦る気持ちはわかります。ですが、まずは自己紹介からお願いします。お互い身元がわかりません。信用は大切です。」


「…わかった。俺はハウル。エルシア帝国の王都出身だ。」


 ルークたちも自己紹介をする。エルシアの番だけハウルとエルが眉をしかめていた。気持ちはわからなくもない。


「急かすようで悪いが、聞かせてくれ。」


「私もはっきり見たわけではないんですが、一人逃げ出す姿を見ました。魔力探知での発見で肉眼では見えませんでした。特徴は空間に穴が空いたようほどに感じた。

 向かっていった方向は……エルシア分かるか?」


「地図上でいくとオルヴァ・ヴェレア王国ね。あの時見た速度で行くと7ヶ月は必須ね。それに道中に休憩や、宿泊などが必須……もし本当に連れ去られているなら、申し訳ないけれど、申し上げるわ。

 ―――もう奴隷として売られていてもおかしくないわ―――」


「……」


 ハウルが黙り込んでしまった。理由は明白。

 獣人族である以上、奴隷として売られると高値がつく。それに子供ともなればその額は数十倍にまで跳ね上がる。奴隷を買うのは貴族のような大富豪。

 取り返すためにはそれ以上の金額が必要となる。支払えるか?いや、できない。

 これが現実。


 ドンッ!


「クソ!…なんなんだよ……」


 机を叩いて立ち上がる。


「そうか……そうだ!お前が人質の避難をさせていただろう?お前がグルで俺の娘をあいつらに譲ったんだろう?……なぁ!なんとか言えよ!」


 ルークだって、今の状況には納得行かない。ハウルとは違う納得だが…しかし、分かる部分も多い。

 自分にとってすべてが今失われている。それは周知の事実。でもそれを受け入れられない。

 ”俺の娘、生きててくれ!”、”俺が絶対助けてやる”、”さみしい思いなんてさせない”

 ………『でも、こうなったのは全部アイツ、ルークのせい』

 心のなかで思っていることでも、結局は責任を転嫁することでしか現実を受け入れられない。


「…なぁ!だから!なんとか言えよ!俺がやりました、ごめんなさいってな!」


「おま!いいかげんn……ルーク…」


 エルが言葉を発しようとして、ルークが止める。


「……ハウル、君の気持ちは痛いほど分かる。私も、昨日のことで大事な人を失いかけたことがあったから。だからこそ私は私が感じたあの思いを他の人に味わってほしくない。だから私は君の娘を奪おうとなんてしない」


「…だからといって、なんなんだ!」


 ハウルが、自分の発言に不甲斐なさを感じて弱気になる。どうしても、自分の娘がいなくなったことに自分のせいではないと言いたいのだろう。

 でも、本当はハウルが悪いわけじゃない。誰でもわかる。


「ハウル、君は娘がいなくなったのは自分のせいだと思って、責任をなすりつけようとしているだろう?」


「ちがう!…やったのは、お前なんだろ?!ルーク!」


「でも、本当は気づいているんだろ?」


「………」


「ハウル、君のせいじゃないって―――」


 一瞬の沈黙の後、ハウルが椅子に座り込む、でもその顔は見えない。全員がその姿を見守る中、肩を震わせて引きつったような声で泣く。

 そしてハウルは顔を俯いたまま、


「―――ありがとう…」


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