第10話:不穏

「招待状を出しておきますね」


 イグノランスがそう締めて、王城を出た。気づけば夕方3時ごろ。

 エリスをお迎えに図書館に行く。

 受付で名前を記す場所があり、そこでいつ誰が入って、いつ誰が退館したのか分かるようになっている。

 えっと…エリスの名前は……


 入館:7:54 エリス 退館:12:14 エリス


 昼ご飯でも食べに行ったのだろうか?昼食代は渡してあるし、食べただろう。

 だけど、このあとに入館した印がない。宿にでも戻ったのか?


 エリスの身元が不安で宿に戻る。


「ただいま……」


 ひとり自分の声が宿の部屋に響く。

 整ったベッド、侵入者を拒むように締められた窓、カーテンはレースだけ、そして部屋を見渡すように佇んでいるタンス。

 私達の荷物をここから取り除けば借りたときと同じ状態なほど、綺麗。

 取り残されたのは喪失感と虚無感。


「エルシア…」


「ええ…」


 そこからは血眼になって探し始めた。脳裏に浮かび上がり続けるのは最悪の事態……


 近くの酒場で情報収集、酒を出せばすぐに話しをしてくれた。でも、有益な情報は一向に出てこない。

 エルシアと二手に分かれて、探索活動を進める。


 今のところから離れてまた探す、商売している場所に行ってはそれっぽいことがなかったか聞く、裏の道に言っては、金か暴力かどちら?と問いて、渡すものは渡して、聞く。


 他の場所に言っては聞く、またどこかへ言って聞く、聞いて、聞いて……

 でも情報は出てこない。


 それにもう聞き始めてから1時間は経つ……エリスが12時頃に図書館を出て、今の時間まで4時間もある。すでに隠れられているに違いない。

 隠れられている中、この広大な王国の中から手がかりもなしに探し出すのはほとんど不可能。

 なにか目印があれば……


 ドゴォォォン………


 王国の北西のあたりで爆発が起こる。

 思い浮かんだのは、光を奪われたエリスの目。瞳孔が動かない、覗き込んでも見えない目。


 体は勝手に動いてた。これで見つかるかもしれない、でも巻き込まれている……

 かすかな希望と、大きな不安が襲いかかる。

 ここから、爆発音がした場所まで3km。普通の人が走り切るのにかかって20分。


 (…っクソ!走りにくい…)


 右手がない以上、走りにくいのは当然。しかも、街の中を疾走。建物が建っているので、目的地まで一直線に向かえない……

 また一つ、エリスから何かが奪われたような気がした。


 (…屋根の上なら、早く着いて助けられるのに!)


 でも、今のルークには二階建ての建物(約8m)を飛ぶことはできない。身体強化を最大出力で施してようやく届く程度の高さ。


 ――そんなにあの子のことが大事かい?


 当たり前だろ!それ以外に何がある!?


 ――じゃあ、君に一つプレゼントだ。


 なにもないじゃないか!?


 ――そう焦るな。僕が君に上げるものは気づきさ。君はもうすでに持っている。


 …何をだよ


 ――関係子さ。人とのつながりから生まれるエネルギー。


 どう使うんだ?


 ――使い方は魔法と同じさ。理論も同じ。でも直接、魔力に変換はできないんだ。関係子は関係子として使えばいいさ。


 それで、どうやって関係子を感じ取ればいい?


 ――君の目に聞いてみな?人との関係は相手を見ることからだからね。じゃあ、あの子を頼んだよ


 自分の目に聞くってなんだよ……もっと具体的に教えてくれよ!


 ――……


 返事がない。関係子って……

 立ち止まって目を閉じる…


 ―――目を開けると、どこを見渡しても白い世界が広がっている。

 それに加えて、赤、橙、黄、緑、青、藍、紫色のいずれかに光っているなにかがある。

 軽く触れてみると、毛糸玉がほどけるように光った線が自分を取り囲む。


 目を覚ます―――


 (”――使い方は魔法と同じさ。理論も同じ。でも直接、魔力に変換はできないんだ。関係子は関係子として使えばいいさ。”か…)


 ―――身体強化


 関係子からほどかれて現れた線がルークの体をめくっていく。目から体を通り、足の筋肉に線は集中していく。力が集中し、身体強化が完全に施される。

 通常なら到底届かない高さを軽々と飛び越える。


 屋根の上に乗り、目的地まで一直線に向かう。


 ◆◆◆数時間前、エリスは―――◆◆◆


 時刻はおよそ9時。宿を出発したエリスが図書館についた頃。


 (ここが図書館なんだね…思ったより大きいね…早速入っちゃおう!)


「ちょっと、そこの子、図書館に入るならここに名前と今の時間を書いといてね」


 (そうだよね…国の図書館なんだもんね。管理は徹底しないといけないし、なにか起こったとき何かしらの証拠になりそう。)


 エリスの言った通り、この図書館、ルミナス図書館はすごく大きい。

 歴史も古く、エルシアが存在する前よりから建てられている。故に築600年以上はある。建設者は不明。

 普段、朝から昼間では魔道士などがよく訪れている。過去にユアンが訪れたことはないが。

 昼以降は学生などの利用が増えていく。

 魔道士は午前中は午後の研究のために他の研究者の資料を調べたりしている。

 夜になると魔道士は一気にあまりよろしくない表情になり、自室にこもって、今後世に役立つ魔法の開発を進めている。

 話がズレてしまいました。


 図書館は5階建てになっている。1階は世界のニュースを展示している場所や、本の販売店、カフェ等がある。


 2階には階段を使って登っていく。

 2階から5階まで完全な吹き抜けになっており、2階は同心円状に本棚が置かれ、机が点々と置かれている。東西南北の4方向に3階へ行くための階段が置かれている。


 3階は中心に吹き抜けがある。壁側に本棚が置かれていて吹き抜けに近いところには長机が綺麗に置かれている。4階への階段はない。


 4階と5階は階と呼べるかどうか怪しい。

 4階は本棚が縦向きになって円状に収納されている。効率的に収納するための方法が取られている。本棚一個一個に反重力魔法の魔方陣が描かれており、空中での収納に成功している。


 しかし、重力魔法は解明されているが、最大出力でせいぜいりんごを潰せる程度。

 重力魔法は現代魔法として扱われる部分があるが、未だに不明な点が多く古代魔法として扱われていることのほうが多い。


 反重力魔法については現代になってもわからない部分しかない。

 どうしてか?この図書館ができたと同時、この本棚を用意する時に反重力魔法の魔法陣を描く作業があったはず…

 答えとしてはこうだ。あくまでも推測だが、悪魔との契約で成功したと。


 重力魔法の話はここまでにし、5階に話を進める。

 ここには縦に長い本棚がある。これも反重力魔法で浮いている。多くの魔道士はこの本棚の上で本を読んでいる。飛んで乗るらしい。


 ご利用方法:

 図書館内では静かに

 1階以外での食は禁止。ただし、飲み物は水のみとさせていただきます

 本の貸し借りは2階で行われています。

 お困りごとは2階の貸し借り窓口にて。

 4階の本棚を取り出すには専用の道具を使って引っ張ってください。必要な本を取り出しましたら、放置していればゆっくりと元の位置へと戻ります。

 ※魔法を使って引っ張ってもらっても構いません。その場合でも自然に戻ります。


 大まかな図書館内でのルール。

 専用の道具は窓口にてもらうことができる。伸縮性があって、棒状。目的の本棚に向けて棒を振ると、先が伸び本棚にくっつく。そのまま引くと、取り出すことができる。

 これがルミナス図書館について。


 (僕が今欲しいのは、炎魔法についての本。でもどこにあるかわかんないなぁ……

 一応、分類はされてると思うけど、よくわかんないな…図書館って初めてだし…

 宛もないまま探すより聞いたほうがいいかもね!窓口に行こう)


「すみません…ここの図書館の本はどうやって分類されていますか?」


 司書さんが本がどんなふうに分類されているか教えてくれた。

 2階はこの世の前提知識、常識とかが書かれている本がたくさんある。小説とか、文学系の本がたくさん置かれている。昔話、逸話、過去の勇者の英雄譚とか


 3階は学校で習う少し高度な学問系の本が置かれている。

 4階は更に高度な魔法理論などが書かれた本が置かれている。普通に生きていれば出会うことのないような内容ばかり。他の言語などが学べる本がある。


 5階は魔道士が研究で得られた情報が書かれている。本当に必要な人しか読むことがない本ばかり。


 (炎魔法についての本は3階にあるらしいね。”探せばすぐに似たような種類の本は見つかるよ”って言われたし…)


 ―――3階


 (…うーん、こっちかな?)


 探すこと10分ほど。

 ついに魔法系の本を見つけることができたが、ここは水魔法系の本がたくさん置かれている。一面見ただけでも数万冊はある。おかしいほど大きい図書館ではよくある話。

 魔法はおおまかに5つ。炎、水、風、光、闇。原点はこの5つ。ここから様々な魔法が派生していった。

 この数万冊で5つの魔法が別れているかもしれないし、この数万冊で1つの魔法が書かれたものかもしれない。

 エリスが大まかに本のタイトルなどを確認しつつ、一面すべてを確認していった。

 結果としてはすべて水魔法の本だった。これをあと多くて4つ確認しないといけない。もしかしたらここは水魔法の本が収められた一部かもしれない……

 頑張れエリス。


 (ここらへん全部見てみたけど、全部水魔法の本だった……炎魔法の本はどこ…?探し出すだけで疲れそうだよ…というかもう疲れたし……)


 そこから20分ほど探してようやく炎魔法の本を見つけられた。

 エリスが知りたかった情報を簡潔にメモし、図書館から出た。時刻は12時。昼頃なので近くの店で昼食を取ることにした。


 ―――店にて


「おう!いらっしゃい!」


 少し小さめのお店を選んだ。エリスはお子様ランチみたいのものを頼んだ。量もちょうどよくて、食べやすい。


「ごちそうさまです!美味しかったです!」


「そう言われると嬉しいもんだ!お代は12ゼニーな」


 お代を支払って外に出る。

 また図書館に戻ろうと思って近道の裏通りを通る



 ”!?……………”

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