第4話:王国目指して

 目が覚めると、いい匂いが漂ってくる。

 目の前にはエリスがスースーと寝息を立てて、寝ている。かわいい。

 性別は…わからない。どちらかというと…どちらとも言えない。

 昨日の一言のせいか風呂に入ってきたのか、いい匂いが漂ってくる。女子っぽさがある。料理もできるし。


 明日は出発するので、それに備えて馬車の修理や食料の調達、エリスのために参考になりそうな本はないか探す予定。

 それよりもお腹が減った。朝食の準備をしようとしたが、食堂にて準備されているのでお金を払えば食べることができる。

 エリスと一緒に食べないという訳には行かないので、起きるのを待とう。


 俺が寝たあと、少し勉強して風呂に入ったとなるとかなり遅かっただろうな。

 それにこんな久しぶりなふかふかベッドなら起きるのには苦労するだろう。

 起きるまでエリスの勉強内容でも見ておこう。暇だし


 地理学か…生前は関わりが疎かったからな……

 この世界は球体であることはすでに証明されている。北極には険しい山がある。それに加えてあまりにも寒いので、人類未踏の地として知られている。一方、南極にはすこし横に広い大地が広がる。

 とある方向から眺めると広大な海を囲うように大陸が存在する。

 東と西の定義は中央の海に存在すると噂されている次元門から左を西、右を東と定義されている。

 こんな曖昧な物を中心に設定していいのだろうか…もう定着しているから仕方ない。

 今私たちがいるのは北東のアイゼンガルドという大陸にいる。

 球体であることを考慮すると、東に向かうと最短距離で目的地のオルヴァ・ヴェレア王国につく。オルヴァ・ヴェレア王国は北西に位置する。

 それでこの世界で生きていくために知っておく知識が一つ。魔王領についてだ。

 ここは魔王エルシアの魔王領に含まれている。彼女はエルフで魔王をしている。

 生前彼女にあったことがあり、人類には友好的だった。それに彼女は7代目の魔王。エルフの魔王は代々、子供か孫に魔王の座を継承し続けその地位を守り続けている。

 エルフの寿命は純血の場合1万年程度とされており、7代目ともなると6〜7万年はその地位を守り続けている。その間人間に魔王として危害を出した記録は一切ない。

 この例で行くと魔王は友好的に見えるが、これはあくまで例外。

 この世界には魔王が6人(匹)いる。

 エルフ族のエルシア、巨人族のゼノス、ドラゴンのアセンスタ、悪魔のカイザー、吸血鬼(ヴァンパイア)のゼファー、深海種のクラーケンが存在する。

 勇者が倒したのは吸血鬼のゼファー。

 一つ空席になっているが、次に選ばれるのは誰だろうか…?できる限り人類に友好的な種族でありたい。


 天使と悪魔と精霊はお互いに因果関係を持っており、魔王の座はこの種族のうちの一種族が選ばれる。

 かと言って、この3種族はこの世界には存在していないので、直接的な影響はない。

 まだまだ理論上ではあるがこの世界は表裏一体。この世界は表。裏の状況については観測が不可能なため、未だに謎のまま。


「るーく…?どこぉ?お腹すいたよぉ〜……」


「おはようございます、エリス。食堂に行って朝食を食べましょう!」


 ゆっくりとした動きで伸びをする。腕を上げて伸びをしているので袖が肘辺りまで落ちている。そこにあるのは細くて白い腕。美しい…


 宿の食堂に向かい、お金を払って朝食を食べる。少しボリューミーで朝にしては多い。

 まあ、昼間では色々活動することがあるから問題ない。昼までには腹が減っているだろう。


「も、もうお腹いっぱいです…」


 (流石に朝にしては量が多いよな……エリスの残飯なんとか私の胃に入りそう。)


「残りは私が食べておきます。エリスは先に部屋に戻ってもらって構いません」


「!…僕が食べた残りのやつだよ!?嫌々食べてもらうのはこっちとしても……」


「もったいないでしょ?それに気にするようなこともないし…」


 他人が口にしたのを自分が食べることに抵抗を覚える人がいるようだが、私はその部類じゃない。

 逆に自分が口にしたものが他人に食べられるのに抵抗を覚える人がいるみたいで、エリスはその部類なのだろうか?

 それともただ単に嫌われているだけかも…嫌われる要素あるか?


 昼食を食べ終えると、エリスは提案したとおりに部屋に行って勉強をした。ほんと勤勉な人、こっちもきちんと護衛しないといけない。エリスも本気なら、私だって本気で護衛しなければ…


 スノロム村から出てからまだ一度も剣を抜いていない。素振りのときは持参の木刀で。

 すらーっと剣を抜くと、きれいな刀身が見える。

 剣を眺めるだけでもいいか…どちらにしろ暇だしさ。


 剣を揃えている店に来た。

 きれいな剣や、刀は大々的に紹介されているが、片隅に少し汚い手入れが行き届いていない剣、刀が雑に樽の中に入れられている。

 普通こんなものなのか…?


「よお、兄ちゃん?どんなものをお探しかい?」


「いえ、失礼かもしれませんがただただ剣を眺めているだけです。」


「そうかい!存分に眺めていってくれ!自慢の一品だからな……てか兄ちゃん右腕ねえじゃねえか!?どうしたんだ?」


「幼い頃、魔物に襲われて右腕を失ったと両親から言われています。」


「そうか、至らぬことを聞いちまったな…すまねえ」


 お気になさらず。と伝え再び剣を眺める。流石に魔剣のような物は売っていないようだな。流石に……

 樽にある方が余計に気になるのは自然だろうか?いや!未知の領域には目を向けるべき!

 基本的には使い込まれたものや、手入れ不可能と判断されたほどに汚れたものがある。発掘品もあるかも…


 一本一本取り出して、じっくり観察する。店主にはすでに許可は取ってある。


 まずは、ごく普通の剣。柄の部分が非常に汚れていることから、冒険者に使い込まれた一品だろう。冒険者が使えないと思ったのか、手入れが大変に感じたのか捨てられたところを拾われたといった感じだろうか?


 そして、鍔のない刀。刃毀れがひどいことから捨てられたと推測できる。


 柄に血がついた剣。ほんとに拾ってきたものがそのまま入れられているみたいだ。元所有者の気持ちを考えてほしいものだ。商売という形であるから仕方ない部分もあるだろう。


 ホコリをかぶったレイピアが目立つ。発掘物と思うと興味がそそられる。とにかく軽いというのが魅力的。ホコリを少し払うと、刀身が錆びている。魔法でどうにかするしかないほど錆びている。でも今の私には魔法が使えない…


「あの…これいくらでしょうか?」


「あ?ああ、いいよくれてやる。なぁに気にするな。」


 なんと無料で譲ってくれた。俺から見ると宝の山だけどね。

 錆はエリスに頼ってみるか。


 気づけば日は頭上に……お昼の時間なのでエリスに昼飯を誘おう。


 ―――宿の部屋にて


「エリス、そろそろ昼飯にしましょう。」


「ルーク、朝食でまだお腹いっぱいだよ…昼食はルーク一人で食べてきて、できれば帰りに果物をなにか一個買ってきてほしいな」


「わかりました。昼食は一人で食べてきます…それと、これの錆の除去をお願いしたいです。」


「錆の除去?魔法で除去すればいいの?それなら帰ってくるまでには終わらせておくよ」


 レイピアの錆はエリスに任せよう。昼食は食堂では提供されていないので、外で食べる必要がある。

 昨日行った場所でいいか!

 昨日と同じメニューで昼食を済ませる。安い!美味しい!多い!


 そういえばエリスに果物を頼まれてたな……なぜかセンスが試されているように感じる。

 勉強の邪魔にならないようにするなら、手ができる限り汚れない物がいいはず…

 ぶどう、いちご、みかん、りんごといったところだろうか……

 勉強をしていると欲しいのが甘さ。そしてこの中で甘い系はぶどうといちご。

 ぶどうにしよう。なんとなくだが……


「エリス、ただいま。ぶどうを買ってきました。」


「ルーク!錆の除去ができましたよ!やりました!大変だったんですよ〜錆がすくなかったのもありますけどぉ〜」


 錆を除去する大変さを語られた。それだけ大変だったということを伝えたいのだろう。私もそれだけ感謝しているので、全部褒め称えた。


「〜って、こんなに頑張った人に買ってきたのがぶどう一房!?……まあいいけど…」


 不満なのか、じゃないのかわからない。でも目は輝かせて美味しそうに食べてるから満足ってことで受け取っておこう。

 午後は、食料の買い足しに行く。ここからはアヴェロン王国まで一直線のノンストップで向かう。途中で食料が足りなくなったなんてことが起きたら一巻の終わり。

 いま馬車に積んでいる食料はおおよそ4日間分。朝昼晩の1日3食換算。

 アヴァロン王国まではあと6日かかる計算。

 一応、1日分多く買っておくのが得策。3日分買えば問題ないな


 パン屋さんにて―――


 長期保存に向いたパンは基本的に硬い。細長いやつを2本買っていけば問題ないだろう。


 八百屋にて―――


 お肉と、お魚が欲しいところ。馬車にはお肉が3日分、魚が1日分。

 もちろん冷凍保存されているので、腐っている心配はいらなさそう。

 私としてはどちらでも良くて、お肉とお魚が半々あればいいと思ってる。エリスはどうだろうか…?

 お肉2日分と、お魚1日分にしておこう。


 せっかく八百屋に来たのなら果物も買っていこう。

 ぶどうと、りんごと、みかんを1つずつ。


 買い物も済んだことだし、帰ろう。


 ―――宿にて


「エリス、只今戻りました。氷魔法で冷凍保存しておいてください。」


「わかった。夕飯の時間になったらまた呼んでね」


「わかりました」


 まだ日が落ちるにははやい。お金稼ぎでもしたほうがいいだろう。

 薬草とか摘んできて売るのがいいかな?多少の稼ぎにはなるだろう


 ―――村から少し離れた林にて、まだ浅いところ


 このあたりではフォール・リーフの群生地だったような……

 フォール・リーフ:葉が下向きに生えているのが特徴で、摘むと半日以内に葉は枯れて落ちてしてしまう。その時間内に薬の効果を摘出できれば、大きな切り傷を治すことができる。飲料としてしか効果が現れない。傷口に薬をかけても効果なし。


 抽出した状態で売れば高く付くんだけど、魔法が使えなければできない。しかもかなり高度な魔法が必要なのでエリスにお願いすることもできない。

 それでもそのままの状態で売ってもそこそこ儲かるけれど……


 (お!あったあった…)


 えーっと…軽く30本はあるかな?全部摘めば3週間は耐えられそう。でも全部摘むとなるとここのフォール・リーフを根絶やしにしかねない……10本程度で我慢しておこう。


 (……魔物の気配…)


 背後!

 林の影から現れてきたのはダークエルフの集団3人。

 ダークエルフ!?嘘だろ!?マジで手に負えない……下手したら…死ぬ!!!

 ここはダークエルフの住処のはずがない……移住してきたのか!?それなら説明がつくが…それどころじゃないな…

 領土に入ってきた私を排除しようとして現れたのか?領土の範囲が林の中だとすれば、間に合う。

 やつらが魔法を使わなければの話だが…


 なんとか林の浅いところでフォール・リーフが生えていたお陰で、ダークエルフから逃げ切れることができた。わずか2本しか取れなかったが、命あってものだな。売るのもありだが、回復薬として作るのもありかもしれない…もしものことがあっても困る。

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