『チンピラ』

宮本 賢治

『チンピラ』

 おじさん。

 ぼくのお父さんの弟。

 お父さんは、おじさんのことをチンピラと言っていた。

 あんなもん、ろくなもんじゃねぇ!

 それがお父さんの口癖だ。

 おじさんは定職につかず、いつもフラフラしていた。万年ヒマなのだ。昼間から、冷蔵庫を開け、缶ビールを取り出し、プシッ!

 いつも、ほろ酔い。

 けど、おじさんは運動神経抜群。

 ぼくが、小学5 年生の同級生の友達を集めて作った草サッカーチーム。

 メンバーが足りずに、隣町のチームと対戦したとき、おじさんは助っ人参戦。見事にハットトリックを決め、カズダンスを踊った。

 いつも、ウチにいて、のんびりと自由に暮らす。そんなおじさんはぼくの憧れだった。

 ぼくの将来の夢、それは、おじさんみたいな、チンピラになること。自由にフラフラ、楽しく生きたい。

 ぼくはそれを、将来の夢という題材の作文に書き、授業参観で読み上げた。

 ぼく同様、おじさんのファンであるお母さんはそれを聞き、爆笑。お父さんはその話を聞いて、激怒した。

 ぼくには、おじさんの他に憧れの存在がもう一人いる。

 同じクラスの女の子、エリコちゃん。

 かわいい。そして、優しくて明るい、誰からも好かれるタイプ。

 真夏の公園。

 ぼくはベンチで、おじさんとアイスキャンデーを食べていた。

 ぼくはパイン味、おじさんはソーダ味。

 その時、偶然通りかかったエリコちゃんがあいさつしてくれた。

 ドギマギしてるぼく。エリコちゃんが去った後、おじさんに頭を叩かれた。

「んだよ、かわいい子じゃん!

···でも、あの子、黒いな」

 ん? おじさんは何を言ってるのだろう。エリコちゃんは色白でかわいい。そして、今もまぶしい白のかわいいワンピースを着ていた。

「おれ、顔見ただけでわかるんだ。

でも、あの子、メチャクチャ情が深いぞ!

絶対に逃がすなよ」

 その時は、何を言ってるのか、チンプンカンプンだった。

 ぼくの顔を見たおじさんは、目の前をのん気に散歩していたネコを捕まえた。

 急に見知らぬ人間に捕まったネコは最初暴れていたけど、おじさんが首根っこをつまんだら、大人しくなった。

「このネコ見てどう思う?」

 ぼくは答えた。

 黒ネコ。

「この黒ネコの鼻は何色だ?」

 黒。

 おじさんがネコの手をつかみ、こちらに向けた。

「肉球の色は何色だ?」

 黒。

「このネコは先天的に鼻と肉球が黒い。

どう思う?」

 別になんとも。

「このネコをどう思う?」

 黒ネコがぼくをジーッと見てる。

 かわいいと思う。

「要はそ〜ゆ〜こった」

 おじさんはそう言って、黒ネコをポイと投げた。ネコはクルッと着地して、逃げていった。

 ど〜ゆ〜ことだ?

 よくわかんない。


 エリコちゃんはその後、お父さんの仕事の関係で、引っ越した。ぼくはショックを受け、泣いてしまった。けど、おじさんが慰めてくれた。持つべきものは、チンピラなおじさん。

 その後、月日は経ち、ぼくは大学に入った。そこで、同じ大学に入学したエリコちゃんと再会した。そして、付き合い始めた。

 あの時、おじさんの言っていたことがフラッシュバックした。

 おじさんの言う通り、エリコちゃんはスゴく、情の深い子だった。

 そして、なぜわかるんだ?

 人のセクシャルな部分を言い当てるなんて、ハレンチな! あのエロおじさん。


 在学中にぼくのお父さんが亡くなった。

 ガンだった。

 ウチは代々事業をしていた。

 おじさんが社長を継いだ。

 親戚や会社の幹部の人たちは反対したけど、それはお父さんの遺言だった。

 物価高、景気も良くない世の中。ウチの会社は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長した。トップの先見の目が大当たりした。

 おじさんは有名大学を卒業していた。

 ぼくのお父さんが二浪してあきらめた大学を現役合格。そして、首席卒業したそうだ。

 おじさんは先天的に頭が良い。才覚がある。

 能あるチンピラは爪を隠す。

 ぼくはまだ若く、経験も少ない。なので、今、おじさんの秘書をしている。側にいて、その手腕を学ぶためだ。そして、若いながらも、ぼくはエリコと結婚をした。

 それなりの企業のトップになっても、おじさんは未だ未婚。特定の女性はいないが、常にモテモテだ。イケオジなのだ。

 今日は比較的スケジュールに余裕があった。アポも3件しかない。社長室に入る。

 アレ?

 もぬけの殻。

 しまった!!

 今日はゼロのつく日。

 近所のパチンコ屋の新台入替えの日。

 おじさんは必要無いと判断すると、たまにエスケープする。

 ぼくは、意味は無いと理解しながらも、スマホにコールした。もちろん出るわけがない。

 クソッ、あのチンピラめ!

 パチンコ屋へ走る。

 CEOを捕獲せねば。


 でも、ぼくはおじさんに憧れている。

 できることなら、ぼくも、チンピラになりたい。


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『チンピラ』 宮本 賢治 @4030965

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