第10話 決着
翔太は一歩、前へと踏み出した。彼の顔からは、いつもの穏やかな表情が消えていた。代わりに浮かんでいたのは、鋭く研ぎ澄まされたような眼差しと、揺るぎない覚悟。
その姿を見ていた理沙、烈、猛の三人は、一瞬言葉を失った。
「まずは俺が一人でやる。」
静かな声が、しかし重く空気を震わせるように響いた。翔太は彼らの方へ振り返らず、背中越しに続ける。
「お前らは、こいつらの動きを見切ってから手を貸してくれ。それまでは……手を出さないでくれ。」
その言葉に、猛が思わず抗議の声を上げかけた。
「おい翔太、無茶言うなよ。そいつらは――」
だが、翔太が静かに振り返ったその一瞬で、猛は言葉を飲み込んだ。彼の目には、迷いも逃げもなかった。あの目は、何かを背負い、乗り越えようとする者の目だった。
理沙と烈も一瞬迷いを見せたが、翔太の真剣さに気圧されるように、少し距離を取った。
夕暮れの光が、戦いの舞台となった公園の広場を金色に染める中、翔太と特攻服の二人――優と美雪が対峙した。
張り詰めた空気の中、風が通り抜け、落ち葉が静かに舞い上がる。次の瞬間、沈黙を破ったのは美雪だった。唇に皮肉げな笑みを浮かべ、地を蹴って翔太に襲いかかる。
「さぁ、踊りなさいよ――“リーダー”!」
脚を大きく振り上げた鋭い蹴りが翔太に向かって飛ぶ。しかし、翔太は冷静に一歩下がり、それを余裕を持って回避。その動きに無駄は一切なかった。
間髪入れず、翔太は鋭く踏み込み、美雪の軸足を狙って低く踏み込む。ガッ、と鋭い音がして、美雪の体が揺れた。
「昔と同じ手じゃ、俺には通じない。」
その声に重なるように、今度は優が無言で翔太の背後へと素早く回り込み、重たい拳を振り下ろしてくる。
だが翔太は、まるで予知していたかのように体を回転させ、寸前で攻撃をかわした。そして、回避と同時に放たれたカウンターの肘打ちが優の脇腹に入り、わずかに体勢を崩させた。
地面に片膝をついた優の横で、美雪が焦ったように舌打ちする。
「……翔太、随分強くなったじゃん。でも調子に乗るんじゃないよ?」
そう言いながらも、その笑みの奥には確かな焦りがにじんでいた。
そのとき、背後から烈の声が響いた。
「翔太、一人で全部抱えるなよ!」
その声と同時に、烈が一直線に翔太の背後から駆け寄る。そして美雪の視界に一瞬の揺らぎを生むように威嚇の一撃を繰り出した。
一瞬の隙――その一瞬を翔太は逃さなかった。
鋭く踏み込み、拳が美雪の腹部にめり込む。苦悶の表情を浮かべて美雪が後退する。
さらに、優が立ち上がろうとした瞬間、今度は猛が背後から彼の動きを牽制し、体勢を整えさせなかった。
「お前らがどれだけ凄かろうが、俺たちを甘く見るなよ!」
理沙も鋭い目で優を見据えながら、タイミングを見計らってサイドから駆け寄り、確実に追撃のチャンスを作る。
四人はまるで何年も連携してきたかのように動き、一人、また一人と追い詰めていく。
ついに、優と美雪は地面に膝をつき、息を切らして動けなくなっていた。激闘の末、勝者は翔太たちだった。
翔太は深く息を吐きながら、仲間たちを振り返る。その目には感謝と、ほんの少しの涙が滲んでいた。
「……みんな、本当にありがとう。俺一人じゃ、きっとこうはならなかった。君たちのおかげで……やっと気分が晴れたよ。」
理沙は肩をすくめ、どこか照れくさそうに笑った。
「当然だろ。あたしたちは、もう“仲間”だからな。」
烈と猛も、それぞれのやり方で笑いながら頷いた。
「お前が本気なら、俺たちだって本気で支えるさ。」
「お前が前に進むなら、一緒に行くって決めたんだよ、翔太。」
こうして、過去のしがらみを超えて、四人の絆はより強く結ばれた。
彼らはそれぞれが抱える過去を、今の“仲間”という現在の力で乗り越え、確かに一歩ずつ未来へと歩み出していくのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます