座ると死ぬ椅子

イギリス・ノースヨークシャー州に、ひとつの椅子があった。


バズビーズ・チェア――座った者は必ず死ぬとされ、長きにわたり恐れられてきた。


長らく地方の博物館に展示(吊るされて)され、誰も座ることはできなかったが、博物館の閉館に伴い、ついにオークションに出品されることになった。


落札者は、日本のYouTuberだった。


名前はカズマックス。


炎上を糧に再生数を稼ぐ、30代の頭にタオルを巻いた金髪の男性である。


落札価格はなんと日本円で3000万円。


あきらかに高いと思われるだろうが、世界的に有名な「座ると死ぬ椅子」だ。


高いか安いかは使い方次第と言ったところだろうか…?


「これ絶対に世界レベルでバズる。絶対に元を取る!!」


カズマックスには勝算があった。



         * * *



数週間後、その椅子は船便で海を渡り、カズマックスの手元に届いた。


木箱をこじ開けると、中には黒ずんだオーク材の椅子が収められていた。


背もたれには深い傷が刻まれ、座面はわずかに磨り減っている。


「おいおい……これがあの“デスチェア”かよ」


カズマックスはカメラを三脚に据えながら、いつもの調子で笑った。


その椅子を部屋の中央に置き、ライトを照らす。


YouTube Liveの始まりだ。


背後には「祝3000万落札!!」と書かれた手作りのパネル。


演出はいつものように雑だった。


「じゃあ皆さん、お待ちかね〜!世界で一番ヤバい椅子に、今から俺が座っちゃいます!」


椅子を見下ろし、わざと間を取って視聴者を煽る。


視聴者数はリアルタイムで増えていき、コメント欄には「やれ!」「本当に死んだら伝説w」「どうせフェイク」「マジでやめろ!」などの文字が流れ続けた。


カズマックスは深呼吸をひとつして、椅子に腰を下ろした。


木が軋み、「みしり」と不吉な音が響く。


……何も起きなかった。


沈黙の数秒のあと、彼はわざと大げさに両手を広げ、カメラに向かって叫んだ。


「ほらな!死なねぇよ!世界中の奴ら!見てるか!?

呪いなんか迷信だ!3000万の投資で1億再生確定、勝ち組はこの俺だ!!!!!」


YouTubeのコメント欄


「生きてるじゃん…」

「つまんね」

「フェイク乙」

「この椅子本物。博物館の閉鎖はマジだ」

「再生回数は伸びるな」


カズマックスの目論み通り、動画の再生数は伸び続けた。


その博物館は実際に閉館されていて、その椅子の姿形から、本物の可能性が極めて高かったからだった。


カズマックスが言った通り動画の再生回数は1億を超えた。


世界中のネットニュースで流れ、再生回数もコメント欄も更に伸び続けた。


YouTubeのコメント欄


「1億再生…いくら稼げるんだろう…」

「いいな…」

「なんだ…生きてんのかよ…」

「こんなので大金稼ぎやがって…」

「人が汗水垂らして働いているのに…」

「なんかムカつくよな…」

「○ねや」


しかし、これが彼の最後の配信となってしまった。


カズマックスが通り魔により刺されて死亡したからだ。


———本日のニュースです。


今日未明、東京都杉並区の路上で、動画配信者でYouTuberのカズマックス、本名・南和馬さん(37)が倒れているのを通行人が発見しました。南さんは胸などを複数箇所刺されており、その場で死亡が確認されました。


警視庁によりますと、現場付近に凶器とみられる刃物は残されておらず、犯人は逃走しているとみられています。


南さんは数日前、動画投稿サイト「YouTube」で「呪いの椅子に座ってみた」と題した配信を行い、再生回数が1億回を超えるなど話題になっていました。


警視庁は、事件との関連についても慎重に調べを進めています。


YouTubeのコメント欄


「呪いは本当だったんだ」

「せっかく大金を得たのに〜」

「ざまあwww」

「結局、通り魔に刺されただけだろ」

「いや、椅子の呪いが呼び寄せたんだよ」

「1億再生で稼いで死ぬとか、最高に皮肉」

「この動画は伝説になったな」

「俺は信じてた。座ったら死ぬんだって」

「呪いじゃなくて妬みに殺されたんだろw」

「本当それ」

「でも、結果的に呪いは成就した」

「笑えるw」

「But he is already dead.」

「いえーーーい!!!!!」

「あの椅子偽物らしいよ。本物はまだイギリスにあるって。ソースはこちら———」

「本当だ。マジであの椅子精巧に作られたフェイクだ…」

「もう何がなんだかわからないな…」

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