書くことが嫌いな人たちへ
文月結
書くことなんて嫌い…?
「作文なんて嫌いだ!」という人は、少なからず
いるだろう。自分の思いを伝えるのに、ラインで
二、三文送ればこと足りるこの時代に、原稿用紙数
枚にわたって自分の考えを書かされるのは、なかな
かに苦行だ。とはいえ、小論文や感想文といった課
題は、夏休みの宿題として出されるが故に、私達が
避けては通れないものである。幸いなことに私は文
章を書くことは嫌いではないためそこまでの苦痛で
はないが、苦痛に感じる人も多い。そんな人から、
時々このようなことを聞く。「どうして作文なんて
書かなければならないんだ」と。その時は作文から
逃げたいがために言っている戯言だと聞き流してい
た。(今思うとかなり上から目線な態度である。)し
かし、改めて考えてみるとなぜ毎年どの学校でも夏
課題として作文が課されるのか疑問であり、そこに
は理由があるはずだ。その理由について考えていこ
うと思う。
先日読んだ本に、このような一文が載っていた。
「我々は漠然と深遠なことを考えているように勘
違いしているが、実はほとんど何も考えていないこ
との方が多いのである。」
この一文は、先程の問いに対する一つの答えであ
ると思う。私たちは普段大したことを考えていない
が、それを私たちは自覚していない。もちろん私自
身も例外ではない。以前、湖に映る朝焼けを見たと
き私はとても感動したが、「綺麗」としか表現でき
ず、自分の胸の内を十分に表せなかったと感じた。
けれど、実際は何も考えておらず、考えていないが
ゆえに胸の内など表しようがなかったのではないだ
ろうか。では、考えてみるとするとどうだろう。
「暗い空に光が射し、燃えるように輝く朝日が、
湖面に反射し揺らめきながら煌めく。いつも見る太
陽、いつも見る湖が、時間帯が違えばこうも美しく
輝くのだという事実を目にすることで、私は感動し
た。」
何も考えていなかった私が、今、言葉にするために
思考を巡らせたことによって、初めて私はこの感動
を本当の意味で感じられるようになった。
このように、自分の考えを持ち、その言語化を試み
ることにより、様々な対象への理解や考えを深める
ことができる。これが、作文を書く意義ではないだ
ろうか。
さて、ここまで作文を書く意義について考えてき
て、一応の結論も出たわけである。ここで最初の話
に戻ってみよう。文章を書くのが嫌いな人にこの主
張をもって作文の意義を説いてみて、納得してくれ
るかどうか。ちょうど私の周りには、作文を書くの
が大嫌いな弟(大嫌いと言っているが、彼の作文が
市の代表に選ばれることもあったのだから皮肉なこ
とだ。)がいる。彼に、この文章を読んでもらっ
た。すると、「主張していることはわかるが言語化
するだけなら口頭でもできるのだから思いつきで直
接語り合うだけでいいじゃないか」と反論された。
確かに、思考しまとめて外へ出すという過程は語ら
いによってでもできるだろう。他者の意見を取り入
れられるという意味では、そちらが優れているのか
もしれない。しかし、自分の考えを時間をかけてじ
っくりと整理し、論理的に組み立てる。自分が納得
でき、他人に伝わるようわかりやすくまとめていく
この過程は、文章を書くことでしか得られないので
はないだろうか。また、小論文などでテーマとして
の設定されるものは私たちが普段考えない事柄であ
ることが多い。自分の世界を広げ、思考を深めると
いう点では、まとまった文章を書く作文の方が優れ
ているだろう。
最後に、私が作文を好きである理由は、気の赴く
まま自分の考えを自由に述べられるからである。他
の人と話し合うことも嫌いではないが、それではこ
のように長い話をずっと聞いてもらうということに
なり、それは難しい。自分が心の底から思っている
事をひねり出して、誰かに読んでもらえることは、
とても幸福なことなのだと思う。
AIが普及したことによって、自分で作文を書かな
い人が増えている。課題を終わらせることが目的な
らそれでも良いし、自分が書くよりもずっといい文
章をAIが作ってくれる事も多い。でも、そこでちょ
っと立ち止まって、文章を書くということの意義を
考えてみてほしい。そして願わくば、自分で筆をと
って、自分の頭で考えて文章を書いてみて欲しい。
きっと、それがあなたの世界を広げるきっかけとな
るはずだから。
書くことが嫌いな人たちへ 文月結 @yui_fuzuki
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