第3話 幼馴染の眼鏡っ娘(巨乳)
――さてと、次のターゲットは。
五光妹改め杏芽莉を味方へと引き込むことに成功した俺が放課後に向かった先は、学校の図書室だった。
恐らくここに居るであろう
彼女は昔から五光兄のことが好きだったが、その控えめな性格から長い間気持ちを打ち明けられないでいるという古き良き幼馴染あるあるを抱えたヒロインの1人だ。
そんな燻り続ける彼女に火をつけ、その気にさせることこそが俺の目的な訳なのだが。
――早速ターゲット発見。
肩までの黒髪で前髪パッツン、いかにも真面目な優等生だと一目で分かる。
その落ち着いた雰囲気とおっとりとした顔立ちに、丸みを帯びたレンズの眼鏡がよく似合う。
そして何より、前世では特に強い印象を与えられた着痩せするタイプの隠れ巨乳であることも俺は知っている。
彼女の魅力はそのスタイルの良さもさることながら、ベッドの上では意外とSっ気が強いところにある。
このギャップがキャラ人気投票(前世の俺調べ)で不動のNo.2だった所以と言えるだろう。
原則私語厳禁の図書室で堂々と話しかける訳にもいかず、俺がとった行動は彼女が読書をする広めのテーブルの向かい側へ座ることだった。
しばし観察してみたが、一向に俺に気付く気配はない。随分と読書に集中しているようだ。
邪魔するのも悪いとは思ったが、あまり時間の残されていない俺は、周りに生徒の姿が見えなくなったタイミングで強行手段に出る。
「あの、四條さん……」
「えっ、あっ、はい……私、ですか……!?」
驚いた四條さんは慌てて本から目を離し、あわあわと挙動不審になりながらも俺を視界に捉えた。
「ちょっと折り入って話があるんだけど、今いいかな?」
「な、なんでしょうか……?」
レンズの奥に潜む眉を顰め、あからさまに警戒して見せる四條さん。
そりゃそうだ。いきなりよく知りもしない男の先輩から声をかけられて身構えない女子はそう多くはないだろう。
ましてや彼女はこういうシチュエーションに慣れてはいないだろうから尚更だ。
「えっと、先ずは自己紹介だよな。俺は――」
「花霞先輩ですよね……? 副会長の……」
俺の言葉を遮った彼女には、どうやら俺の素性などとうに知られていたらしい。
「俺って、ひょっとして有名人……?」
警戒をほぐす為にも、ほんの冗談のつもりでおちゃらけながら返した。
「は、はい……あの怖そうな生徒会長さんといつも並んでいますし、学内ではかなり有名だと思いますよ? あと、私の同級生に妹さんもいらっしゃいますよね……? 私は直接関わり合いはないですけど、凛さんも……とっても美人で有名ですから……」
なるほど……まぁそれなら話は早いか。
「そうか。今回の話っていうのは、その凛と五光についてなんだ……2人が交際しているのは知っているよな?」
「は、はい……」
俺の問いかけに、彼女の表情は一瞬にして曇り始める。
四條綾――彼女はその見た目通りとても気立ての良い女性だ。2人が交際を始めてショックを受けつつも、自分は一歩身を引いて、陰ながら応援する様子が原作でも何度も描かれていた。
――でも、今回ばかりは俺が困るのだ。
この超自己中心的な我儘に付き合わせ、ついでに幼馴染の負けヒロインを幸せにしてやる。
「五光のこと、諦めきれるか?」
「えっ――!?」
ピンポン玉のように丸くなった漆黒の瞳が、キラリと光る。
「いきなりすまん。でもやっぱり、自分の気持ちを押し隠したままなのは、辛いんじゃないかと思ってな……」
「ど、どうして先輩が知ってるんですか……? 私、誰にも話したことなんてないのに……」
「それは……ただなんとなーく気付いてしまったというか……と、とにかく今日俺は、四條さんの背中を押しにきたんだ!」
「ど、どうしてですか!? それにそんなこと、妹さんを不幸にする行為じゃないですか……」
やはり優しい彼女は、自分のことよりも先に他人の損得を考えてしまうらしい。
そんなの、余計に力になりたいじゃないか。
「恥ずかしながら正直に話すと、俺が妹を愛しているからだ」
「えっ……!? そ、それって、異性として……ですか……?」
「イエスだ。気持ち悪いと罵ってくれて構わない。それでも好きなものは好きだし、俺は誰に何を言われたとしても、自分の気持ちに嘘だけはつきたくないと思っている」
「そう……ですか……」
考え込むように俯く四條さん。
「俺の恋は、残念ながらこの先も決して実ることはない。でも四條さんは別だ。好きな相手に恋人が出来たくらいですんなり諦めて身を引くなんて、俺から言わせれば勿体ないんだよ」
俺はこの時、想定していたよりも言葉に気持ちを乗せすぎてしまった。
すると、眼鏡っ娘は真っ直ぐ俺を見つめて声を荒らげる。
「す、すんなり諦めてなんかいませんっ! 私だってすっごく悩みました。でも、好きな人の幸せを願うことを最終的に選んだんです……!」
「ごめん……今のは俺が軽率だった……」
「い、いえ……結果的に諦めたのは事実ですから……」
彼女は、再度下を向いた。
「明後日の4月4日、凛の誕生日なんだ」
「そうなんですか……」
「何の因果か、君も同じ誕生日だよな?」
「えっ……は、はい……」
「その日、見せたいものがある。気が向いたら、放課後ここへ来てくれ」
俺は一枚の紙切れを渡すと、図書室を後にした。
――種は蒔いた。
きっと彼女は当日、あの場所へとやって来る。
そう信じて俺は帰路についた。
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