妹が幽霊になった。そして俺の所へやってきた。

七瀬瑠華

妹が幽霊になった。そして俺の所へやってきた。

 ドンッッッッッッッッッッ……



 鈍い音が聞こえたのは五分後、高い音がピーポーピーポー、と救急車がこちらへ向かってきて、運ばれた人物は、


 ――妹だった。



 「綾音あやね……元気してるか」


 そう、親父が呟く。


 約半年前、妹の綾音が交通事故で亡くなった。今日は、綾音の初盆となる。


 正直、綾音の死は受け止められない。いくら、時間が経ったとしても。


 ――もし、願いが叶うのなら。神様が、叶えてくれるのなら。


 「綾音を生き返らせてください」


 そう、言い続ける。





 気持ちが抑えきれなくなったので、足早に墓地を立ち去った。


 綾音のことを考えると、辛い。体が重く感じて、とてもだるい。まだ十五時だというのに、一日を終えてしまった。



 「あ、もしもし……花宮はなみやです。本日、学校休みます……はい、失礼します」


 昨日の墓参りの直後、体調を崩してしまった。ちょっと熱っぽくて食欲がないだけなので、なんとかなりそうだ。動画配信サイトを開いて、推しの配信のアーカイブを見始める。今日は、まったりと過ごすことにした。



 「ふわぁ……今何時だろ……」


 時計を見る、17:47を指していた。


 「晩、作らねえとな」


 「……私の分も作ってね」


 「……!?」


 かすかに女の人の声が聞こえた気がする。


 「い、いやきっと幻聴か何かだろきっと」


 「幻聴じゃないよっ」


 そう聞こえた途端、目の前で急に何かが光り出した。


 「誰、何、何なの……」


 「久しぶりだね、


 光の中から現れたのは、半年前に亡くなったはずの妹。花宮綾音、間違いない。


 「綾音……本当に綾音、なのか」


 「あったりまえだよ」


 (え、何で見えてんの?俺がおかしい?知らないうちに俺って死んでた?)


 「兄貴に会いに来た、晩御飯作って」


 「あ、ああ……」


 困惑しながらも、手早く晩飯を作る。


 「何でも……良いよな?」


 「兄貴に任せる」



 約半年前、私は大型トラックに轢かれ、亡くなってしまった。天界でずっと、兄貴を眺めていた。


 ――眺めているうちに、兄貴に無性に会いたくなった。


 なんとか天界から抜け出した私にとって嬉しかったのは、兄貴が私を綾音として認識してくれたこと。声にならないくらい嬉しかった。



 「晩飯できたが、食うか」


 「お腹空いたー」


 このやる気のなさげな声、何とも言えないけど、何処かに可愛さがある。


 『いただきます』


 二人で挨拶して、食べ始める。


 「……そういえば、なんだが」


 「ん?」


 綾音の持っていた箸が止まる。


 「綾音って……その、死んでる、で合ってるよな」


 「そうだけど、それが?」


 「それなら、何で俺が綾音のことを見えてるんだろ……体は半透明だし」


 綾音の手に触れてみる。すると、手をすり抜けて俺の手が机に当たった。


 「なんで……手がすり抜けたのに箸は持ててるんだ……?」


 「それはね……」


 俺の手がすり抜けた理由を聞いてみる。


 「まだ、内緒かな」


 という返事が返って来た。それだけだった。


 なんだか気まずくなった俺は、晩飯を急いで食べ、そのまま皿はキッチンに放置し、ベッドに潜りこんだ。そのまま、眠りについた。



 翌日、体調は回復した。


 綾音の体に触れるとすり抜けていく理由は、今も分かっていない。凄くモヤモヤして、頭からそのことが離れないまま、土日を迎えた。


 「兄貴、ゲームしよ」


 「お前ができるならな」


 「そのくらいできますぅ~」


 俺は丁度その時、大人数でできる格闘ゲームで、オンライン対戦をしていた。


 「コントローラーちょーだい」


 「はいはい」


 綾音とゲームできること、少し嬉しかった。懐かしいんだ。



 「久しぶりに遊んだな」


 「楽しかった」


 ゲーム後の感想は特には浮かんでこなかった。熱中し過ぎたせいで、気づけばもう夜になっていた。



 ここ三日は、特に内容がない日々を過ごしていた。


 綾音のことも考えていたのだが、やっぱり進展がない。正直、少し困っている。



 一緒に遊んでから四日、新たにしょうもない質問が生まれた。


 「死んでるのに何でコントローラー持ってたんだ……?」


 やばい、これが頭に浮かんできて離れない。こんなことを考えている場合じゃないのに。


 「ね、兄貴」


 突然、綾音が話してくる。


 「どうした」


 「私、帰るわ」


 「……?どこにだ?」


 「天国だよ、そこしか帰る場所ないもん」


 「は……?」


 「私、兄貴も気づいている通り、幽霊だった。死んで、天国に行って、気づいたらこうなってた」


 「じゃあ、何で俺に綾音が見えて……」


 「それはね」


 もう、俺は、涙が零れてきそうなのを堪えるのに必死だった。


 「お互いに会いたい、っていう気持ちかな」


 「……」


 「じゃあね兄貴、ありがとね。大好き」


 そう言い残して、綾音は去っていった。


 部屋にただ一人取り残された俺は、ずっと涙が止まらなかった。

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妹が幽霊になった。そして俺の所へやってきた。 七瀬瑠華 @NanaseRuka

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