咲い形をわすれた、私たち

語姫

光を探して

プロローグ

よく考えてた。よく願ってた。

物語のヒロインとまでは、いかない。

ありふれた、普通の幸せを。

私の目をしっかりと見てくれる人を。

「目を合わせるな。あいつに呪われるぞ」

私だけを信じてくれる人を。

「お前が、盗んだんだろ!」

私の言葉を聞いてくれる人を。

「いくらお前が違うと言っても。誰がお前なんかを信じる?」

私に微笑みかけてくれる人を。

「笑うな。気持ち悪い」

どんなに願っても、現実はとても残酷で。

私が願う人は、いなくて。

いつも暗く俯いて、自分の存在を一生懸命消すことしかできない私なんて。

だから、人に馬鹿にされて。

私という存在をこの外界セカイから否定されて。

こんな世界、嫌い。大嫌い。

どこか、違う内外セカイに行きたい。

こんな私、大嫌い。

悪口を言われて。

ネットの呟きに、私の悪口ばかりを書かれて。

何もできなくて、黙り続ける私なんて……大嫌い。

どこに向かって歩いてるのか。

何も考えずに逃げてる私の行ける場所なんて、どこにもない。

それをわかってても、この残酷な外界セカイから逃げたくて。

無我夢中で闇の中を走る。

光の刺さないくらいくらい闇の先に、光を求めて手を伸ばす。

手を伸ばした瞬間、あたたかいそよ風がほおを優しく撫でる。

日の出みたいに周りが明るく、私を包み込むように暖かくなる。

湿った土の匂いに、青々と広がるあたり一面の草原。

都会の薄汚れた空気とは違い、清々しい爽やかな空気。

空気が美味しいと初めて思った。

この緑豊かな自然のおかげか、とても楽に息がしやすかった。

あざやかで伸びのある、蒼天を思わせるを天蒼色の空を見上げてたら、不安も迷いもなくなる。

少し黄色みのある鮮やかな赤い太陽の光を浴びてたら、悲しくて苦しかった気持ちが消え失せてた。

鉛があるように重たかった足が、優しく爽やかな風に背中を押されてるように、一歩一歩が軽くなる。

風に押されて、だんだんと上がるスピード。

気づいてたら、走り出してた。

走るのがこんなに楽しいなんて、知らなかった。

楽しい、悦しい。

息が上がっても、止まりたくない。

とまらないわたし。止まれないわたし

まるで止まることを拒絶するように、意思を持ってるように動き続ける足。

力尽きて、満足して。

勢いよく前倒れになるように、草原を転がり走るのをやめる。

仰向けになり、大きく胸を膨らませたり凹ませたりして呼吸を整える。

「やはり、たのしそうですね」

空から神様が舞い降りてきたかと思った。

知らないはずの人なのに。

どこか懐かしい声に、ぬくもりを感じる表情。

懐かしくて、嬉しくて。

目元が熱くなり、鼻がツーンとする。

まるで風邪をひいたような、花粉症になったように鼻が詰まる。

銀色の神様がぼやけて見える。

太陽の逆光で、銀色の神様の表情が見えにくくなる。

「お久しぶりです、私の愛弟子いとしいひと
















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咲い形をわすれた、私たち 語姫 @katarihime

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