霧島沙耶の調査ノートより


私が「県道241号線」という言葉を初めて目にしたのは、夜中のことだった。

締め切りに追われながら、どうしても手が動かず、気晴らしに覗いた匿名掲示板。


> 『昨日、県道241号線を走った』




たった一行の書き込み。

だが私は直感した。これは“ただの冗談”ではない。


奇妙なのは、どれだけ調べてもその番号が「県道一覧」に存在しなかったことだ。

241号線は空白。だがスレッドの中には、その道を「走った」と語る複数の人物の証言が残されていた。


数時間後、スレッドは管理人によって削除され、ログも消された。

それでも私は、キャッシュに残った断片をかき集め、さらに匿名の協力者から“保存ログ”を入手することができた。


存在しない道。

だが確かに「そこを走った」と語る人々。

そして彼らが一様に口にする、赤いガードレールと古市集落という言葉。


――次の本の題材は、決まった。


私はホラー作家・霧島沙耶。

この“存在しない道”の正体を追うことで、想像を超えるものに触れてしまうことになる。

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