第五章:楽園の噂と集い始める人々

 リリィがアルカディアに加わってからの発展は、目覚ましいものがあった。


「アッシュ! この畑に、土壌の『概念』だけじゃなくて、『作物の自動育成』っていう『概念』を付与できないかな? 設計図はボクが考えた!」

「アッシュ! このミスリルのインゴットに、『魔力伝導率最大化』と『自己修復機能』の『概念』を書き込んで! 最高の防衛システムが作れるよ!」


 リリィの奇想天外なアイデアと、僕の【概念再構築】スキル。この二つが組み合わさった時、不可能はなくなった。

 リリィが設計した農業用ゴーレムに、僕が「作物の世話をする」という概念を付与すれば、二十四時間文句も言わずに畑を耕し、水やりをしてくれる働き者が完成する。

 村の入り口には、リリィが開発した魔力障壁発生装置を設置。僕がそれに「許可なき者を退ける」という概念を付与したことで、アルカディアは鉄壁の要塞となった。

 さらには、川の水を「温かいお湯」の概念に書き換えてパイプで各家に繋ぎ、いつでも使える温水供給システムまで作り上げてしまった。もはやスローライフというより、超近代的な快適ライフだ。


 そんな夢のような村の噂は、風に乗って少しずつ広がっていった。

「魔の森の奥に、どんな病も治る聖水が湧き、何もしなくても作物が実る楽園があるらしい」

「そこでは、人間もエルフも獣人も、みんな笑って暮らしているそうだ」


 噂を聞きつけ、最初にアルカディアにやってきたのは、行き場をなくした人々だった。人間に迫害され、住む場所を追われた獣人の家族。故郷の森を焼かれたエルフの若者たち。戦乱で国を失った人々。

 彼らは最初は警戒していたが、アルカディアの豊かな暮らしと、分け隔てなく接する僕たちの姿を見て、少しずつ心を開いていった。


「アッシュ様……いえ、村長! ありがとうございます!」

「ここでなら、俺たちも生きていける……!」


 日に日に増えていく住民たち。僕はいつの間にか「村長」と呼ばれるようになっていた。僕が家を「修復」し、リリィが生活インフラを設計し、エリナが住民たちに護身術や森での暮らし方を教える。

 みんなで力を合わせ、アルカディアは急速に発展し、活気に満ち溢れた村へと変わっていった。

 出来損ないと罵られ、一人で追放された僕が、今ではこんなにも多くの人々に囲まれ、「家族」と呼べる仲間たちと笑い合っている。

 この幸せが、ずっと続けばいい。僕は心からそう願っていた。

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