平凡高校生ライフを送っていたら強制的に異世界監獄で働くことになった件
志積
プロローグ
ハッキリ言って、無理ゲーだ。
容赦ない攻撃の雨を注がれ膝をつく青年の姿に俺は絶望した。
きっと、何とかなると思っていた。
いや、今だって心の底ではそう思っているのかもしれない。
何とかなって来た、何とかやって来れた。
与えられた環境に、差し伸べられた手に、その優しさに、猶予に、甘え切っていた。
敷かれたレールに沿って、たまに意思を加えて、それなりにやれてるじゃないか、なんて思い込んでいた。
「は⋯⋯っ? な、なん⋯で⋯⋯」
パクパクと口を動かした口はハッキリと言葉を発音できず、呼吸を小刻みに繰り返すようにか細い。
視線の先、青い炎を纏うあの人の背中。
誰よりも強くあろうとして、そして誰よりも力を持たない人間。
だからこそ、いつも隙を見せず、他者を寄せ付けない、冷たい瞳をしているのだと思っていた。
持たない代わりに、せめて孤高に振舞おうとしているのだと。
「十五年間に渡り、職務に励んでくれたことに労いの言葉を贈る。そして、お前に処分を言い渡そう」
そう言って剣の切っ先を向けるあの人の姿は、そんな弱さなんて微塵も感じさせないほどだった。
ハリボテや仮面じゃない。
そこには圧倒的な強者としての風格が漂っていた。
俺もいつかはこの人みたいになれるのだと、愚かな思い違いをしていた。
俺とこの人の間には超えられない壁があったというのに。
何とかなるって言葉が有効なのは本当に極一部の限られた期間や場所だけだったんだ。
そして、ここはそんな場所じゃない。有効期間はもう終わってしまった。
これから先に待っているのは、何とかならない世界。
受け身のままでは決して生き残れない世界。
残酷で、過酷で、倫理観や尊厳なんて一切通用しない世界。
それでも平和であろうとする矛盾を抱えた場所。
自分でやらなきゃ、どうにもならない。
これからは俺が生きていくのは、そういう場所なんだ。
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