11話 奥義・ライキリ

イルと対峙している勇者。

視線こそ外しはしないが、この戦況を肌で感じていた。



「…そうか。」

少し、構えを緩める。



意外にも、勇者はこの状況に驚きは無かった。

どこか敗北の文字が脳裏に浮かんでいたのかもしれない。

アルマが倒された時点で、勇者アーサーは方針を明確にした。




(…やはり戦場では、何が起こってもおかしくないな。)


ここからは、名誉や個人の利益の為ではなく〝勇者〟として、民に対しての責務を全うする。





「……!」

雰囲気が変わった事を、イルはすぐさま感じた。


だが、勇者の決断が一歩早かった。




一切の目配せもせず、勇者パーティーは行動に移る。



「ヒュッ…!」


高速で剣士カゲが、折れた剣でイルに斬りかかる。紙一重で避けるイル。

だが、攻撃が目的ではない。

懐から粉をイルにかける。


パキィインッ!



粉をまいた空間の水分が凝縮し、一瞬で分厚い氷壁になる。

マジックアイテムだ。



「こんなもので!」


氷壁など、イルにとっては瞬きの時間稼ぎに過ぎない。

分厚い氷は、イルの剛力で瞬時に粉々にされていく。



その一瞬にも満たない時が、勇者には必要だった。空中にすでに飛んでいた勇者が、ぐんっ!と下方向に加速した。



正体はアルマが気絶するギリギリで放った、磁力の魔術。

勇者とイルが直線で結ばれるように磁場を発生させ、勇者は自身の限界を超えた超速でイルに斬りかかる。




イルでさえ、たとえどんな者でもその速度を初速で上回る事は不可能。


つまり、逃げられない。



カゲが隙を作り、アルマが魔術で磁場を発生させ、勇者がとどめを刺す。



〝奥義・ライキリ〟



雷の如き速さで剣は振り下ろされる。


「…あなたとは、一対一で勝負したかった。」


その望みは許されないと分かっていても、勇者は言葉をかけずにはいられなかった。



眩い剣先が、スローモーションで流れる。自分が勇者の剣で斬られ、致命傷を負ってしまう未来を予期するイル。




(…ブラッド、きっと怒るんだろうか。)





「うおおらぁあぁあっ‼︎」


〝ここしかない〟と言うタイミングで、勇者とイルの間にブラッドが割って入る。

勇者が決断し、行動に出る数瞬早く危機を察知、両者の間に割って入ったのだ。



(なんだとっ⁉︎)

全く予期していなかった勇者の剣筋がわずかに鈍る。



バキィィイン……!


ブラッドの盾は真っ二つに。





イルの代わりに、ブラッドが斬られてしまう。





「あ……。」


目の前の光景が、止まっているかのように静寂が辺りを支配する……。

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