2話 旅立ち(強制)

このままではいけないと、村人達は話し合う。


ブラッドとイル、二人の年齢は16歳。

(イルは自身の年齢を知らないらしく、16歳と勝手にしている。ダークエルフの歳の把握なんて、誰も出来ないし。)


大体の若者なら、外の世界へ行きたがる年頃。今までだって、若い連中は自主的に都会を目指して行った。


「なのに何だあの二人はっ⁉︎

のほほんとしやがって!熟年夫婦か!都会に行きたがれっ‼︎

若者は、試練があってこそ強く育つのだっ‼︎‼︎」


「まったくだ!オレ達の若い頃なんてそりゃぁもう、村を飛び出して冒険に出たもんだ!」


「そうそう、そうやってすいも甘いも経験して、村に戻ってくるのが、若者の勤め…いや、義務だね!」




思想強めな村人達は、言葉にこそ出さないが、無言の圧力を二人に向ける。が、全く気付かないブラッドとイル。


今だって、朝の稽古が終わって二人して庭で朝食を仲良く楽しんでいる。

充実しまくってるじゃん。

何か、あーんとかやってない?

若者特有の、現状に不満が皆無。


てか、自分達より幸せそうじゃね⁉︎





「…わしが行こう。」


痺れを切らした村長が立ち上がる。


「…ブラッドや、お主外の世界に出て、自分の実力を試したくはないか?」


ストレートに、かつ発破をかける様に誘導する。

ブラッドさえその気にさせれば、イルも必ず付いていく。

広い世界でその才能を伸ばせるし、何なら、甘酸っぱい青春の恋愛的なあれこれが発生して……というのを見越しての事。





「え、嫌だけど。」

無情にも、ブラッドに都会への憧れは皆無だった。

イルにいたっては、更に辺境出身なため、この村ですら都会扱いだ。

二人共、都会に対しての憧れは、まるで無かった…。





「……嫌じゃ‼︎お前達はっ‼︎都会にっ‼︎

行くんじゃああぁあぁああっ‼︎‼︎‼︎‼︎」



「ドコドコドコドコドコドコッ‼︎」

村長の駄々ごねが、ブラッドを襲う!


地面に寝そべり、手足をバタバタさせる村長の姿。

一心不乱に、全身で駄々をこね続ける!

大の大人が!

今年で70になるジジイが!


本気の大人のイヤイヤを間近で見せられ、ドン引きする。

ブラッドは、こんな大人がこの村の責任者である事に危機感が働き、更に村に留まる決意を固める。




そんな顔で見られている事に気付いた村長は、すっと何事も無かったかの様に立ち上がり、2人に言い放った。



「じゃあ二人、追放って事で。」

最悪な村長命令が下る。




泣きながらエールを送る村人達。

元気でな、強くなるんだぞ。

村の事は任せとけ!

子供が出来たら報告しろよ!

などなど…


あれよあれよと言う間に、二人は強制的に旅出たされる事に。

村人達の感動の別れ(?)も受け、盛大に旅立つ!




「…何なんだよ、一体全体…?」

振り向き、困惑の目をみんなに向ける。

今だけは、戸惑い以外の感情が思いつかない。


「まあ、私達の成長を考えてくれたんだろうね、きっと。」


「なーんか、納得しないけど…


ま、いいか!せっかくだし、世界を見て回ろうぜ‼︎」

旅立ちの一歩を踏み出した!






とりあえず、近くの街(だいぶ遠い)に行けと言われる二人。

道中、凶悪な魔物が襲ってくると言われていた。


「…てか、さっきから魔獣なんて全然見ないんだけど。」


「本当だ、みんなの話と全然違うね。」

(イルの強者としての気配が、魔物達を無意識に遠ざけていた。)


結局、何にも遭遇する事なく快適すぎる旅路を歩く。

イルにとっては幸せな、ブラッドにとっては不本意な旅が始まった。


荒れた山道を、ひたすらに進んでいく。悪路ではあるが、それだけだった。普通の人間には過酷すぎる旅を、二人はただただキャンプをしながらゆっくりと景色を楽しみ、街を目指す。


どこまでも続く湿地帯、高く険しい山々を横目に、広野を歩く。


「凄いね、世界ってこんなに広いんだ。」

感動しっぱなしの旅が続く。




…地図は逆さまのまま。






村を出て一週間。

たどり着いた先は、魔族がいる領域。

大きな街で、村の何十倍の面積があるのか想像もつかない広さだ。

堅牢そうな街の壁。門では魔族達が行き来し、外からでも活気がある事が十分わかる。



「ガヤガヤ…」


街に入ると、更に賑やかだ。

村では見たこともない、活気ある市場に二人も流石に釘付け。様々な匂いに、食べ物、アイテム、武器、防具。


ただそこには人間はあまりおらず、敬遠されている。


「…何で人間がいるんだ?」

「…珍しい事。」

ボソボソと耳打ちし合う。


だが、人間とあまりにも強そうなダークエルフの組み合わせに、まわりの魔族達も強くは言及してこない。

(ブラッドのことは、イルの奴隷か何かだと思われている)



「おい、見ろよイル!何かすげーぞ!」


「色々なモノが売ってあるね!

行商人さんの馬車より全然!」

そんな周りの目も意に介さず、村の近くの街だと思い込んで、初の街歩きを満喫している2人。





「…あ、そうだ!」

ふと思い出したブラッド。街を楽しみ過ぎて忘れていた。


「そー言えば、村の人達から言われてたよね?え〜っと…


あ、そうそう『ギルド』!

それに入れってみんな言ってた!」

イルも思い出した様だ。

冒険者になる時、いの一番に頼る場所。



それらしい、いかにもな建物を見つけた。ゴツゴツとした堅牢な外観に、屈強な奴らがゾロゾロと入ったり出たり。

中からは、酒場の良い匂いもただよってくる。


「ここだろうな!」

迷わず入るブラッド。

その後ろから、オズオズと続くイル。



屈強な冒険者の魔族たちがズラリと座っている。新顔が入ってきたと、皆ジロリとブラッドを睨み詰める。


「なんだぁ?人間かぁ⁉︎」

「何しに来やがった?あぁ⁉︎」


そして、続いて入ってきたとイルの放つ強者オーラを感じ、威勢が良かった連中は一斉に押し黙って目を逸らしてしまう。


実力があればあるほど、その異次元の強さがわかる…!あれはヤバい‼︎




ここも魔族が多いため、少し疑問に思うブラッド。

だが正直、彼にとっては些細な事だった(身近にイルと言う魔族が常にいたため)。

注目を集めてはいるが、イルの威圧感に誰も話しかけられない。


「…ふん、人間が何しにこんな場所にきたんだよ…?」

ヒーラーっぽい、杖を持つ魔族の男が、遠巻きに睨みをきかせていた。





受付に行き、スタッフに冒険者になりたいと言おうとするブラッドとイル。


「あっ、そのぉ…」

戸惑う受付けスタッフ。

こんな状況、無理もない。


「君、ここは私が変わろう。」


すると奥から、受付とは違ういかにも重役といった風格の魔族が出てくる。


そして二人に話があると、奥の部屋に案内する。ギルドの奥、特に重要な仕事の時などに案内される。

もちろん、そんな事など微塵も知らない二人は、普通に案内役に付いていく。


奥の部屋では、若い魔族が1人、執務に追われていた。

二人が部屋に入るなり、手を止め、座る様うながす。


「不躾な案内、大変失礼いたしました。私はこのギルドの長、ヘーベルです。以後、お見知り置きを。」


賢そうな顔立ちの魔族の男性だが、隠しきれない疲労の表情がにじみ出ている。挨拶も早々に、二人に依頼を持ちかける。


「実は、先代が引退し後任を任された矢先に、人間達とまた戦闘の兆候があり、冒険者ギルドもまた例外なくその煽りを受けてしまっている次第でして…。」


「また、戦争が始まるのか?」

少し不安が過ぎるブラッド。


「いえ、そんな大層な状況ではないのですが。

…今のところは。」


話によると、魔族ギルドは臨時で傭兵も募集する。だが、やはり急なため人員不足だと。


そこに、見るからに実力があるイルが入ってきたため、スカウトしてきたのだ。


「…戦争の手伝い、か。」


正直、二人的にはあまり気乗りしない内容だったが、詳しく聞くと何も傭兵として軍隊に出てもらう話ではなかった。




「実のところ、そういった大軍用の募集は足りているのです。今回の件も、人間側も大軍が出張って来てはいますが、あくまで様子見。

どちらかというと政治的な戦略のため軍隊として配置する、と言うのが表向きでして…。

要は、大軍同士で「睨み合い」をするだけですな。」


「じゃあ、オレ達は関係ないんじゃ?」


「そこなんですよ!重要な話は‼︎

先程、大軍の募集は足りていると言いましたが、あなた方にやっていただきたいのは、独立した少数精鋭部隊。

そこが人員不足でして…。


と言うか、実力が足りないと言った方が正確ですか…。」


「相手も、同じ様に軍隊を集め、そして少数精鋭部隊を回してきております。

大軍は、その部隊を回すための囮としても機能しているのでしょうな。」

ヘーベルの部下らしき魔族も説明に加わる。よく見ると、彼も屈強な身体をしている。


「ギルド長さんよ、それじゃあそこの部下さんなりを行かせてりゃいいんじゃないのか?強そうじゃねぇか!」


「もちろん、彼も実力はあります。

…ですが、足りない。足りないのですよ‼︎


『勇者』が相手ではっ‼︎‼︎」


ブラッドとイルの目が、明らかに変わる。




『勇者』




人間側の、まさに最終兵器。

たった一人で、国の大軍と同等の実力があると言われる化け物。

そんな存在が、この街を狙っている‼︎



勇者側に強襲を成功などされれば、魔族軍隊は一気に挟み撃ち、そしてやられてしまう。

しかし、街に籠城などして、勇者に街中にはいられでもすれば、それこそめちゃくちゃになってしまう。

要は、その勇者を軍隊の後方に回り込まれる前に、相手取って欲しいと言う事だった。


「勇者」と聞いたブラッドは目を輝かす!


田舎の村にすら、その名声は轟いていた。強く、勇ましく、数々の実績を残した者達。


「いいぜ!その話、受ける‼︎」


ブラッドは、勇者と戦う事を決める。

…イルに追いつくのに、またとない実戦の、しかも強者との戦いのチャンスだ!


「…………。」

イルは、ブラッドの身を案じているのだが、そんな事で止まる人ではない事もよく理解している。


「私が、支えなきゃ…!」

イルも、覚悟をきめた。







一方、勇者サイド。


「今頃、隊のみんなは麓で陣を張っている頃かな?」


「どうかしら?仕事はあまり早くないとおもうけれど。」


「そう言うな。我々と違って、魔術で飛んできたワケではないんだ。少し、休息も必要だろう。」


三人組が、険しい山を登りだしていた。彼らこそ、勇者を中心に組んだパーティー。

歴戦の猛者達である。



剣(つるぎ)の勇者は今回の作戦、実の所、あまり乗り気ではなかった。

国の上層部にあごで使われているような現状、それならばまだ許せるが、この行軍そのものが国益になる事とはあまり思えなかったからだ。




勇者は何人かいる。

それぞれ、得意な武芸に秀でた者達で、絶大な実力を有している。

普段は、ギルドなどに所属して冒険者をしているが、国の議決により招集がかかれば出向かなければならない。


だが、今回の招集は何か違和感がある。

かつて大規模に争っていた魔族領土だが、今は比較的安定している。

なのに、また揺さぶりをかける様な動きをする事に、疑問が晴れない。


「どうなっているんだろうか、今回の作戦は…。

どうも、腑に落ちないんだよ。」


「そうだな。

今からでも断るか?ひとたび事が起これば、後には引けんぞ?」

仲間からは、辞退するかと勧められるも、それは否定する。


「…いや、やめておこう。

これでも肩書きの重さは、十分に理解しているつもりだよ。」


国から莫大な援助を受けている身であるし、何より民達の希望である勇者の肩書きは、そうそうと手放してはいけないと言う責務を感じているためだ。



勇者一行は、作戦通り険しい山々を進軍していった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る