パルサーハート

fuwafuwaGT

さよならすら言えずに

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません

 

 私の親友、新島梓にいじまあずさは、突然居なくなってしまった。

 私が小学校六年生の時だ。来週には卒業式を控えていて、学校では卒業式の練習を念入りに行っている頃だった。冬の寒さは和らいできて、微かに春の暖かさがやってきている時期だった。

 梓は、卒業式の三日前まで普段通りに、元気そうに過ごしていた。中学校は別の学校に行く予定だった。だから別れてしまっても寂しくないように、年度末は梓と一緒に沢山遊んだ。初詣も一緒に行ったし、近所のショッピングモールには飽きるくらいに行った。確か、梓が居なくなる二日前も一緒に遊んだっけ。

 梓は、重い心臓の病気を患ったらしく、ある日からぱたりと学校に来なくなった。あまりにも突然居なくなったので、私ははじめ実感が湧かなかった。けど次の日になっても梓は来なくて、それでようやく私は確信した。私は居ても立っても居られず、職員室の扉を開けて担任の先生に尋ねた。

「どうして梓は来なくなったんですか?」

 先生は落ち着いた声で言った。

「新島さんはね、心臓の病気で入院してるの」

 それを聞いて私は、梓のことが酷く心配になった。不安という塊が重たく心臓にのしかかってきて、息が苦しくなる感じがあった。心臓の病気って、入院するくらいの病気って、きっと大変なことなんじゃないだろうか。手術とかするのだろうか。ひょっとしたら、梓の病気は重たいものなのかもしれない。そうならば、梓がこの世界から消えていなくなってしまうことだって……私の中で、嫌な想像が止まらなくなった。不安を搔き消したいがために、私は先生に尋ねた。

「お見舞いには、行けませんか? 私、心配なんです!」

 先生は考え込んでから、優しい声で言った。

「……突然のことだったから、ご家族もすごく慌ててるらしいの。私もすごく気がかりでお見舞いに行きたいのは山々なんだけど、今はそっとしておいた方が良いと思う」

 そう言われると、私も食い下がることはできなかった。私は梓の家族でも親戚でもない。家族が大変な時に、私みたいな部外者が訪れたら邪魔になってしまうかもしれない。私は諦めて職員室を出て、そのまま家へと帰っていった。一人で下校するのは久しぶりだった。その日の夜は、珍しく冷え込んでいたのを覚えている。ここ数日は暖かい日が続いていたのに、その日だけ妙に寒かった。

 そして親友が居ないまま、私は小学校を卒業した。卒業式には全然身が入らなかった。卒業式の歌も、私は力なく歌っていたと思うし、先生の別れの挨拶にもあまり耳を傾けられていなかった気がする。結局、あれから梓とは一度も会っていない。連絡を取ろうか何度か悩んだが、何の拍子もなく連絡するのは気が引けたので、終ぞしなかった。

 顔も合わせてないし連絡もしていないが、それでも私はずっと梓のことが気がかりだった。小学生の時に感じた不安と心配は、今でも続いていて、和らぐことはない。

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