金儲けのために無垢な少女たちを利用していたら、いつの間にか逃げられなくなってしまった少女の話
梨の全て
第1話
金、金、金、世の中金が全て。金がなければ何もできない。金さえあれば何でもできる。それは齢14にして私が悟ったこの世の道理だ。富める者はさらに富み、貧しき者はさらに貧しく。持つ者が持たざる者を搾取してこの世は成り立っている。
ならば、私は持つ側に回る。もう何も奪われないために。金を稼ぐためならなんだって、そう、なんだってやってやる。たとえ、幼気な少女を利用してでも。私は必ず持つ側になってみせるんだ。
◇
「はああぁあ!」
迫力だけは十分な叫び声とともに少女が魔物めがけて走っていく。それだけ聞けば聞こえはいいが、これは背後からの攻撃、つまりは奇襲だった。奇声を上げて近づいたせいで、せっかくの奇襲が台無しだ。
——全く、何をやっているんだか。
案の定、先ほどまでこちらに無警戒だったゴブリンたちに気付かれ迎撃の体制を取られた。最上段に構えたまま突進していたノアは、その剣を振るうことすらできない。
「い、痛っ、た、助けてぇ、ルーチェちゃん」
——はあ、これは先が思いやられるな。
ぼこぼこと小さなゴブリンたちにタコ殴りにされながら、情けない悲鳴をあげるノア。目も当てられない状況を前に、私はため息が漏れるのを止められなかった。
◇
「ありがとう~、助かったよ~」
「別に気にしなくていい」
結局ゴブリンたちは私が片付け、あちこちに傷を負ったノアに回復魔法をかけることとなった。パーティを組む前から薄々勘付いてはいたが、彼女の実力は、想像以上いや想像以下だった。まさか最下級の魔物であるゴブリンにすら負けるとは。
「はい、これで終わりだ」
「うん。ありがとう」
さて、これからどうするか。このままこの少女と共にいても良いのだろうか。そんな思いが態度に出ていたのか、傷の治ったはずの彼女はシュンと肩を落として、声を震わせながら話し始めた。
「その、ごめんね。がっかりさせちゃった、よね?」
不安そうな表情でこちらを覗いてくるノア。聞いた話によれば、彼女はこの街のギルドのお荷物だったらしい。見た目の愛らしさから最初こそ人気は高かったものの彼女とパーティを組んだものは皆口を揃えて、こんな奴と一緒に居られるか、と怒鳴って彼女を捨てていったそうだ。
まあ、先の戦闘とも言えない一方的な蹂躙の様子を見ていれば、おおよそ検討はつく。いくら命の安い冒険者とは言え、当人たちにとってはそうではない。足を引っ張るような奴とは一緒に仕事はできない。私も早々に見切りをつけるべきだ。
「……まあ、これから成長していけばいいんじゃないか?」
「えっ、あっ、うん! ありがとう!」
ふっ、まあいい。私はまだ小娘に過ぎないからな、他の奴らでは見くびられて、分け前が正当に払われないかもしれない。それにノアは素直な性格っぽいし、助言してやればすぐに伸びて、稼げるようになる、はず。だから、この判断は間違っていない。うん。そう、私はこいつを利用してすぐに大金持ちになるんだ。
「で、さっきの戦闘のことだが、どうして声を出しながら向かっていった? せっかくの奇襲が台無しだろう」
「だって声出した方が力が出るから」
「……なるほど」
自信満々に胸を張って答えるノア。はあ、どうやら前途は多難らしい。今日はもう遅い。どこか頭も痛くなってきたし、今日はこのあたりで帰ることにしよう。
「今日はここで帰ろう。ところで、今どこで暮らしている? 実家か宿か。もし宿を借りているなら私もそこに泊まりたいのだが」
「ん? あっ、いいよ、一緒に来る?」
「本当か! ありがとう!」
街に着いてすぐに取れば良かったのだが、生憎今日は用事があった。今から割の良い休めの宿を探すのは難しいからな。助かった。
「……そんな顔もするんだ」
「何か言ったか?」
「ううん、何にも。じゃ、行こっか」
なんでテンションが上がったんだ? まあいい。他に行く当てもない、鼻歌混じりに進んでいくノアについていくとしよう。
◇
「じゃじゃーん、どう⁉」
「……いつも、ここで寝ているのか?」
「お金かからないし、案外快適なんだよ」
「そう、か」
どうみても寝床には見えない。強いて言えばその葉っぱの乗った岩がベッドなのだろうか? いそいそと集め出した葉っぱは私のベッドの材料なのか? 少女が一人こんな場所で寝泊まりしていて、よく今まで襲われずに済んだな。
「今日は私がお金を出すから、宿に泊まるぞ」
「えっ、いいの!」
「……ああ」
予定外の出費だ、だが、流石にこれはない。これから一緒に依頼をこなしていくのだ。この程度、これから取り返していけばいい。取り返していけるはず、だ。呑気に笑っているノアを見ていると少し不安だが、そんなことはどうでもいい。こいつを利用してすぐにでもお金持ちになろうじゃないか。
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