第15話:非現実の中の現実
「【開示】」
【ステータス
名前:天堂湊音 Lv.4
スキル:《幸運少女》 Lv.1、《危機察知》Lv.1、《動体視力》Lv.1、《器用貧乏》Lv.1】
「んあ"あ"あ"ぁぁぁ、どうすっかなぁ〜」
何度開いても変わらないステータスに、唸り声を上げながらソファへと身体を沈める。何度見ても変わらないスキル…想定外のスキル取得に、起こす気にもなれない身体をゴロンと横に投げ出した。
ラノベでもゲームでも、スキル取得やレベルアップの経験値稼ぎは結構わかりやすい。なぜなら大抵の場合、必要な経験値が数値で表されるからだ。スライム1体倒せば何ポイント、次のレベルまで何ポイント、何回攻撃すればスキル取得…全部全部、数字を出すことで明確に目標ができる。
だから私も、ダンジョンが現れてから何度も開示を使った。分析解析系のスキルは、こういうステータス確認を敵や自分に何回やったかで取得できることが多いからだ。スライムを無心で倒しまくってた理由同じ。レベルアップの経験値になるから。ものによっては1万とかいう馬鹿みたいな数字のときもあるけど、やり続ければ取得できる。それが2次元の世界だ。
だけど…現実はやはり、そう簡単にはいかないらしい。
3から4に上がるまで随分と時間がかかり、攻撃用スキルは未だ取得できず。目安が1万であれば鑑定系のスキルもまだまだ遠いということになる。
そして、唐突に取れてしまった《器用貧乏》のスキル。常時発動型だな、なんてことは今はどうでもいい。
少しだけわかってしまった。スキルの"経験値"の仕組み。確実じゃないけど、多分レベルアップも同じタイプだと思う。
この世界は、2次元じゃない。ファンタジーではあるけど、あくまで現実世界。ゲーム機能もラノベの設定欄もない。だから…"人の実力"は、数値換算されない。
ダンジョンに潜って、ずっと周囲を警戒していたから《危機察知》を取得した。モンスターと正面から対峙して、バットに当てようと見続けたから《動体視力》を取得した。そして今回、水や火、電気に砂、近接から遠距離。色々な戦法を試して、それらを状況に合わせながら使ってスライムを倒し、複数体のスライムも倒すことができたから《器用貧乏》を取得した。
全部、"ちょっとだけできる"ようになったからスキルという形になっている。
スキルの取得は魔法じゃない。適当にやっても力にならない。やろうと決め、挑み、努力し、乗り越えようとするから"自分のもの"になる。自分の中に習慣づいてきたものを"確定"させてくれるのがスキルを取得するときだ。
要はつまり。
「"できるようになる"まで努力しなきゃいけないわけか…」
私が1番苦手な分野だ。
努力とか練習とか…頑張るってのが、すごく苦手。何をやったって必ず上はいて、「あそこまで行くにはどれくらい頑張れば」なんてことを考えると、いつも足が止まる。
どうせ無理、やっても無理、天才には追いつけない…そういう、嫌な思考。
数字が出る目標は、繰り返せばいつか届くと思える。開示を1万回だって、1万回やって必ず鑑定系のスキルが貰えるならやる。天才はもっと先に取得していたとしても、自分が必ず取得できるなら前に進んでるって感じれる。
果たして…どれだけ努力しても、本当にスキルなんて得られるんだろうか。
それがわからない。わからないと、動きが鈍る。諦めてしまう。自分の"進捗"が、全く信用できない。
「ってか普通に考えてダンジョン内で危険管理するのも敵をよく見るのも当たり前の行動なんだよなぁ…みんなもう持ってんのかなぁ…ぁぁぁ努力かぁ」
警察とか軍人ならきっと《危機察知》も《動体視力》も持ってるんだろう。私が頑張れたと思った道は、多分みんなサクサクと歩ける道なんだ。なーんで気づかなかったんだろ。なんで今気づいちゃったんだろ。
「いやいやそういう話じゃないから今…私が一般人なのはわかってたこと。大事なのはどうやったら新しいスキルを取得できるか…レベル上げれるか…できるかぁ?」
できるかどうかわからないものを、できるまで?根拠も才能もないのに?
嫌な思考がぐるぐる回る。難しいことを考えるのは嫌いなくせに、こういうことだけ無駄に難しく考えてしまう。
《危機察知》も《動体視力》も多分ほとんどの探索者が持ってるもの。私が特別頑張ったわけじゃない。《幸福少女》はただの貰い物、使いこなせない。唯一自信に繋がるのは、ラノベの知識を総動員して使えそうな戦法を試しまくったという自負のある《器用貧乏》くらいか。
「そっか…《器用貧乏》って私ちょっと頑張ったんじゃない?」
単純な脳が、ただそれだけのことでふっと軽くなる。
《器用貧乏》は頑張った。魔法ならどんな属性があるか考えて、魔法の代打品になるものを考えて、失敗するかもって恐れながらもやってみたくて挑戦した。魔法が使いたかった。
そして、まだ試したいことがたくさんある。氷属性と風属性が何かで代用できないか考えてるところだし、バットじゃなくて玩具の刀で居合もやってみたい。水鉄砲がありなら水風船も使えるんじゃないかって思いもある。
「というか…そっか、試して身に付けることでスキルになるなら…エイムとか遠距離はスキル望める、のか?」
結構試行錯誤してるし、投擲も力加減とか投げ方とか試してる。スライム相手に、越えようとしている。
「…それでも、今のままじゃスキル取るより先に頭打ちになりそう、ではあるんだよねぇ」
超える力が経験値なら、無心にスライムをボコボコ狩っても多分意味ない。だから今日、3スライムに囲まれてレベルが上がったスライムを相手にして4レベに上がったんだと思う。私が1つ、超えたから。
そしてこれ以上は、頭打ち。レベルを上げたいなら、経験を積みたいなら、上に行くしかない。
「ん〜今のままスライムに魔石食べさせて無理矢理レベル上げてちまちま安全に小さな経験値稼ぐか、あるいは…覚悟、決めるか」
大きな溜息を零しながら私は天井を見上げ、自嘲した。
だって…そんなの、どっちがファンタジーとして楽しめるかなんて、答えは決まってるじゃんか。
「はぁぁ…死なない装備を整えないとねぇ〜」
明日の私。どうか…本気で楽しめ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます