故郷が変貌してしまった話
黒雲
帰省〜異変
こんにちは。
これは僕が19歳の時の話です。
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都内で専門学校に通い、夜はバイトの毎日。
それだけでは生活出来るわけでもなく、親からの仕送りがあってどうにか生活ができているのだが、その肝心の仕送りが今月は振り込まれなかった。
貰ってる立場ゆえ、催促するわけにもいかず…。
幸い、一ヶ月くらいならどうにかやり繰りできるので、なんとかなったが来月は厳しいだろう。
来週末あたり、実家に帰省して様子を伺ってみようかと思っている。
朝から電車に揺られて2時間ちょっと、やっと最寄りの駅に着いた。ここから30分かからない所に実家がある。
2年ぶりくらいだろうか?都内の雰囲気とは全く変わり、周りは畑や田んぼばかりで隣近所でもそこそこ距離がある。
だが、普段人混みで生活してる身としてはたまにはこういった環境で休むには良い環境だと思う。
実家には特に連絡等はしなかった。1日泊まる程度で帰る予定でいたので、必要ないだろうと思っていた。
「ただいまぁ。」
玄関を開け、少しの間が空き、奥から母親が出てきた。
「サトシ?あれっ?どうしたの?」
「ちょっと、連休になったからたまにはと思って帰ってきた。」
「電話の1本でもくれれば良かったのに、何も用意してないじゃない。」
ある程度予想してた通りの反応だった。何もしなくていいよと言い、早々に自分の部屋のある2階に向かった。
当たり前だが、荷物等はもうここにはないがこの部屋の雰囲気は変わらない。
日差し焼けした壁や床、何をぶつけたのか忘れたが引き戸にはキズや凹み…、
「…んっ?」
全く覚えのない天井の染みに気づいた。
黒味がかった汚れのように見えるが雨漏りでもしたのか、こすってみても落ちなかった。
この家も年月が経った物だし雨漏りでもするよなと納得し、1階に降りた。
台所ではトントンと小気味の良い包丁の音が聞こえた。昼ご飯を用意してくれてる母親の背中を確認し、自分は居間のテレビをつけた。
のんびりテレビを見ててもご飯を用意してくれて、面倒な後片付けの
そんなことを考えてると玄関が開き、父親が帰ってきた。…トントン
「サトシっ?帰ってきてたのか?」
と驚きながら何を買ってきたのかビニール袋をリビングのテーブルに置いた。…トントン
「参ったなぁ、お前の分買ってきてないぞ」
袋からは2つの弁当が出てきた。…トントン
「えっ?お袋が昼飯用意してるのに、弁当買ってきたの?」
…トントン、トントン。
そういえばさっきからずっと何かを切ってる音が止まないが、お袋何を切ってるんだと不思議に思い様子を見に行った。
後ろから覗き込むと何も無いまな板の上を只、包丁で叩いていた。
「お、お袋っ?何やってんの?」
「……あらっ。私ったら、何やってるのかしらねぇ。」
慌てて包丁とまな板を終い、自分の部屋に入って行ってしまった。
すると父親が、「まぁ、歳なのかなぁ。あまり気にしないでやってくれ。」と言い、父親もお袋の後をついてくように部屋に入って行った。
加齢による物なのかと理解はできるが、それ以上に気になったのはあの時のお袋の表情…、口は開いたままでヨダレを垂らし、目は一点を見つめてたあの表情にどこか怖さを覚えた。
散歩がてら家の周辺を歩いていたら小さい頃よくお世話になってた近所のおばちゃんに会い挨拶を交わした。
「久しぶりだねぇ。少し見ない間に随分大人っぽくなったねぇ。」と笑いながら腕を掴まれたのだが、掴んできたその手は何故か震えており、笑い顔はどこか不気味な表情に見えた。適当に愛想をまき、早足でその場を後にした。
そして近くにある小さな街スーパーに入り、昼食をカゴに入れレジに並んだ。言われた金額を渡そうと店員を見たら、首を少し傾け、生気のない眼でこちらをジ~っと見ていた。
早々に支払いを済ませ、逃げるように店を出て近くの公園で遅めの昼食をとった。
それにしてもお袋もそうだが、街全体の人や雰囲気がどこかおかしいと感じ始めていて、嫌な胸騒ぎを覚えていた。本当に自分が育った場所はここだったか、始めてこの場所に来たような感覚になった。
それにこの空の色……、なんで赤いんだ?
自分の眼がおかしくなってしまったのか?
不安になり足早に実家に戻ることにした。
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