「社畜」の転生。~今世は神スキルで自由を謳歌する~

おもち

第一章 社畜転生

第1話 「社畜」、過労死からの異世界転生

「……お前、まだ残ってるのか?」


蛍光灯の白い光が天井から落ち、上司の声が無機質なオフィスに響く。計は深夜1時を回っていた。終電はとっくに終わり、窓の外は冷たい夜風に揺れる街灯だけ。

神楽ユウトは、カタカタとキーボードを叩きながら、残業していた。周囲の机はすでに空っぽで、蛍光灯の下に散らばる書類だけが空調で静かに揺れている。


「今日中に終わらせろって言われたんで」


小さく答えると、上司は鼻で笑った。


「はぁ? “今日中”ってのは“昨日”のうちに仕上げるって意味だろ。社会人なら常識だ」


その言葉に、ユウトは反論する力さえ残っていなかった。ただ頭を下げ、肩の力を抜く。

──今日で何度目だろう。

休日返上の残業、終わらない作業、上がらない給料。

同僚は倒れ、辞め、残ったのは数人の“生贄”。


「……俺、何やってんだろ」


吐き出した瞬間、視界がぐらりと揺れ、頭痛と吐き気に襲われる。呼吸が浅くなり、体温が急に下がる感覚。次の瞬間、ユウトは机に突っ伏し、そのまま動かなくなった。


──社畜・神楽ユウト、享年25歳。 原因:過労死。

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気がつくと、そこは真っ白な空間だった。天井も床もなく、ただ淡い光が広がっている。目を開けると、眩しさに思わず目を細めた。


「……夢?」

「いいえ、これは現実です」


鈴のように澄んだ声が響いた。振り返ると、白いドレスをまとった女性

──いや、“女神”としか言いようのない存在が微笑んでいた。

髪は銀色に光り、肩までの長さで優雅に揺れる。瞳は青く透き通り、視線を向けられるだけで心が安らぐようだった。光の輪が彼女の周囲を取り囲み、空間全体が柔らかく温かい光に包まれている。


「あなたの魂は肉体を離れました。過労死です」

「やっぱりな」


ユウトは自嘲するように小さく笑った。


「驚かないんですね?」

「そりゃ、31連勤目だったし・・ あと少しだったのにな」


女神は小首を傾げ、微笑む。


「あなたには、転生の資格があります」

「……転生?」

「ええ。異世界に生まれ変わり、新たな人生を歩むのです」


唐突な展開に、ユウトは目を瞬かせた。

「なんで俺なんかが?」

「理由は簡単。あなたの“諦めの悪さ”です」


女神の瞳が優しく光った。

「どれほど過酷な環境でも、

あなたは耐え、最後まで生き抜こうとした。その執念は、異世界でこそ輝きます」

「……美化しすぎじゃないか?」

「いいえ、本心です」


そう言うと女神は、光の書物を取り出した。ページがめくられる音が響き、戦士や魔法使い、聖騎士の文字が淡く浮かぶ。ユウトは胸を高鳴らせたが、次に告げられた言葉で目が点になる。

「あなたの職業は……《社畜》です」

「……………………は?」


思わず聞き返す。


「いやいやいや、なんで? なんで俺が社畜?」

「神託です」

「せっかく異世界転生するのにわざわざネガティブな要素を、わざわざ授けるなよ!」


女神は淡々と告げた。

「《社畜》は最低ランク職。戦闘能力はほぼゼロ。

冒険者としては無能と判断されるでしょう。初めは。」


膝から崩れ落ち、ユウトはしばし俯いた。


「俺、また“無能”って言われるのか……」


会社でも役立たず扱いされ、今度は異世界でも社畜スタート。運の悪さに頭を抱えた。

だが女神はふと、悪戯っぽく微笑んだ。

「ただし、あなたには“特別なスキル”が授けられています」


ユウトは顔を上げた。


「スキル……?」

「はい。名は──《天使の書》」

女神の声が響いた瞬間、ユウトの脳裏に文字列が浮かぶ。

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【天使の書】

• 死後に自動発動

• 死因に耐性が付与され、関連スキルが進化

• 死ねば死ぬほど、強くなる

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「…………は?」


ユウトは固まった。


「死んだら……強くなる?」

「ええ。死を越えるたび、あなたは神に近づくのです」


女神は微笑み、両手を広げた。

「死んでも大丈夫。むしろ死ぬほど強くなる。

これは、あなたにしか扱えない神スキルです」

ユウトは呆然としながら笑った。

「……結局、また死ぬのかよ。俺の人生、どんだけブラックなんだ」

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光が弾け、視界が切り替わる。

目の前には草原が広がっていた。風が柔らかく頬を撫で、草の香りと土の匂いが混ざる。空は限りなく青く、雲はゆったりと流れる。

──初めて触れる自由な空気。

──そして、これから始まる未知の人生。

ユウトは深呼吸し、草原の上に立ったまま呟いた。

「……よし、まずは生き抜くか」

草が足元でざわめき、太陽が顔を出す。


──こうして、村人ランク・神楽ユウトの異世界人生が幕を開けた。

誰も知らぬうちに、最強へと昇りつめる“死に戻り村人”として――。


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