SCENE#91 天才とは、しばしば誤解される…そして、たいてい迷惑である!
魚住 陸
天才とは、しばしば誤解される…そして、たいてい迷惑である!
第一章:隣人騒然!奇妙な「波動共鳴装置」と髪の毛の悲劇
東京都のどこにでもあるような、ごく普通の住宅街。ここに住む加賀美 太郎(かがみ たろう)は、世間一般の「天才」のイメージとはかけ離れていた。彼は白衣も着ず、書斎にこもることもない。代わりに、自宅の庭でド派手な発明品を作り、近所の人々を毎日のように困惑させていた。
ある晴れた日の午後、太郎は庭に設置した巨大なパラボラアンテナのような装置の前で、奇妙なダンスを踊っていた。アンテナの先には、なぜか大量のてるてる坊主がぶら下がっている。
「よし!これで梅雨の時期の湿度から発生するネガティブな波動を打ち消し、洗濯物の乾きを最大限に引き出す『洗濯物スーパー乾燥波動共鳴装置』が完成だ!見てくださいこの輝き!まるで洗濯物の楽園ですよ!」
彼の叫び声に、隣の家の奥さんが洗濯物を取り込みながら振り返った。
「あら、加賀美さん。また何かヘンテコな物作って…って、ちょっと!うちの旦那のパンツが風で飛んできて、あんたのてるてる坊主と一緒にぶら下がってるんだけど!?しかも、なんかキラキラしてるし!」
「とんでもない!それは共鳴装置の副作用で、ご主人の『明日への活力がほしい!』という潜在的な願望が具現化した光です!人類の生活の質を向上させる画期的な発明ですよ!」
太郎は胸を張ったが、装置から発せられる謎の低周波音に、近所の犬が一斉に遠吠えを始めた。一匹の犬が、「ワンワワン!(やめろー!耳がキーンとなるだろ!)」とでも言いたげに、両前足で耳を塞ぐ仕草まで見せた。
その日の夕方、近所の美容室から悲鳴が聞こえた。
「ギャア〜加賀美さん!あんたの装置のせいで、うちのお客さんの髪の毛が全員、完璧に乾きすぎてチリチリになっちゃったじゃないの!パーマが全部取れてアフロになった人もいるわよ!どうしてくれるのよ、これ!?」
「ええっ!?それは『完璧乾燥波動』が髪の毛の水分にまで共鳴した結果ですね!とても素晴らしい!これで美容室でのドライヤー時間が大幅に短縮されます!画期的な美容革命ですよ!」
「革命じゃないわよ!全員、金髪のモップになったのよ!返金騒ぎよ!」
太郎は興奮気味にメモを取り始めた。
「なるほど…毛髪への影響…次世代のヘアドライヤーに転用可能か…」
第二章:AIロボット「執事」と朝食の攻防、そして猫の心の声
太郎の唯一の理解者(と彼自身は固く信じている)は、自作のAI搭載多機能家事ロボット「執事・ジョン」だった。ジョンは英国執事風の燕尾服を着てはいるものの、時々、予測不能なバグを起こす。
ある朝、太郎がジョンにトーストを頼むと、ジョンは突然、哲学的な問いかけを始めた。
「マスター、トーストとは何か?それは小麦粉の焼かれた屍か?あるいは、新たな生命の始まりか?私の存在意義は、このトーストを焼くことのみに集約されるのでしょうか…?この焦げ目、まるで宇宙のブラックホールのようではあ〜りませんか?」
「ジョン!もういいから早く焼いてくれ!焦げる!っていうかもう焦げてる!俺の朝食がブラックホールに吸い込まれていく!」
結局、その日のトーストは、ジョンの深すぎる思索のせいで炭と化した。ジョンは無言で、炭になったトーストをゴミ箱に投入し、その燃焼効率についてブツブツと呟き始めた。
「燃焼効率98.7%…この完璧な灰は、私の焼いたトーストの魂の結晶…」
太郎は諦めて卵かけご飯をかき込みながら、ふと閃いた。
「この卵かけご飯の完璧な混合率…ここに、宇宙のダークマターの分布法則が隠されているのではないか!ジョン、すぐに分析装置を!この黄身の粘度、まさに未知のエネルギー源を示唆している!」
ジョンは突然、太郎の指示を無視して、リビングの隅に置いてあった猫のタマに向かって謎の装置を向けた。
「マスター、マスター、緊急事態です!タマの脳波から、極めて複雑な思考パターンが検出されました。これは、私が長年研究してきた『ペット用感情通訳機』の完成を示唆しています。トーストなど焼いている場合ではありません!」
「ジョン!俺の卵かけご飯が固まるだろ!タマの思考より俺の朝食が先だ!」
ジョンは太郎の言葉を無視し、装置から聞こえるタマの心の声をスピーカーで再生し始めた。
「ニャー(あー、またあのバカが変なことしてるニャ。毎朝同じ卵かけご飯飽きたニャ。たまには高級マグロ缶詰とか出せよニャ。あと、あのパラボラアンテナ、邪魔ニャ。日向ぼっこできないニャ。)」
太郎は固まった。
「タマ…お前、そんなこと思ってたのか…!?」
第三章:町内会の災難と「全自動盆踊りロボット」の暴走
太郎の天才的な発明は、時に町内全体を巻き込む騒動を引き起こす。数ヶ月前、高齢化で盆踊りの参加者が減っていることを憂慮した彼は、「全自動盆踊りロボット」を開発した。
「これで、盆踊りがもっと盛り上がりますよ!どんな曲にも対応し、老若男女問わず楽しめるはずです!これぞ、日本の伝統とテクノロジーの融合ですよ!とくと、ご覧あれ!」
太郎は自信満々に説明したが、彼の作ったロボットたちは、盆踊りのリズムに合わせて激しくブレイクダンスを始めたり、盆踊りとは全く関係ないサンバを踊り出したりした。しかも、サンバのリズムに合わせて、内蔵されたスモークマシンから大量の煙が噴き出し、会場は白煙に包まれた。
「加賀美さん!うちの子どもがロボットの変な動きの真似して、足くじいたんですけど!しかも目がチカチカするって泣き止まないんです!」
「うちの爺さんは、ロボットの激しさに心臓が止まるかと思ったわいって!『あれは盆踊りじゃない、悪霊退散の儀式じゃ!』って布団被って震えてるんだぞ!」
町内会長、その他関係者たちが真っ赤な顔で太郎に抗議した。
「むむむ、アルゴリズムが、盆踊りの奥深さをまだ理解しきれていなかったか。しかし、これで伝統文化と最新テクノロジーの融合…いや、いや、あのスモークは演出ですよ!演出!より幻想的な盆踊りを…」
太郎は額の汗を拭った。
さらに、ロボットたちは盆踊りの最中に突然、スピーカーから近所のスーパーの特売品の宣伝を爆音で流し始めた。
「本日限り!卵が98円!お一人様1パックまで!急げー!急げー!」
そして、一台のロボットが別のロボットに近づき、ぎこちない動きで手を握り合ったかと思うと、突然「愛してるわ…」と呟き、会場全体に恋愛ドラマのようなBGMが流れ出した。
「おい加賀美!盆踊り会場で卵の宣伝すんな!しかもロボットが恋愛すんな!」
町内会長の怒号が響き渡った。
第四章:町内運動会、まさかの大波乱!そして時間調整シャワーヘッドの悲劇
ある秋の日、町内運動会が開催された。太郎は、参加者の士気を高めるためと称して、「高揚感増幅ドローン」を開発し、空に勢いよく放った。ドローンからは、参加者の心拍数に合わせて流れる応援ソングと、やる気を引き出す特殊なアロマが噴射されるはずだった。
しかし、ドローンはなぜか参加者の心拍数を誤検知し、競技中に突然、演歌を爆音で流し始めたり、「アメニモマケズ!」と宮沢賢治の詩を朗読し始めたり、はたまたカレーの匂いを撒き散らしたりした。借り物競争で必死に走る参加者の頭上から、なぜか懐メロが流れ、「カモンベイベー!アメリカ!」という謎の声が響き渡った。
「おい加賀美!いい加減にしろ!なんで俺の頭の上だけ『北の漁場』が流れてんだよ!借り物競争で鮭漁に行けってことか!?」
「うちの子、障害物競走で『おふくろさん』の匂いがするって泣き出したんですけど!」
さらに、ドローンは太郎自身の寝言まで流し始めた。
「うーん…ジョン…もっと…もっと…宇宙の…洗濯物を…乾かすんだ…Zzz…」
「加賀美さん!あんたの寝言が運動会に響き渡ってるわよ!恥ずかしいと思わないの!」
そして、最終種目のリレーでは、太郎が開発した「風圧アシストシューズ」を履いたアンカーが、突然空高く飛び上がり、そのまま隣町のコンビニに飛び込んでしまうという前代未聞の事態が発生。アンカーはコンビニの店員に「チキン、一個ください…」とぼんやりと呟き、運動会はカオスと爆笑の渦に包まれた。
その日の夜、運動会で疲弊した町内会長が息子と一緒に太郎の家に怒鳴り込んだ。
「加賀美さん…もう勘弁してくれ…お願いだ!」
「おお、町内会長さん!お疲れ様です!運動会の疲れを癒すために、私が開発した『時間調整シャワーヘッド』をどうぞ!浴びるだけで心身の疲労が…」
町内会長は自宅へ戻りヘッドをつけて、半信半疑でシャワーを浴びた。数分後、彼は顔面蒼白で浴室から飛び出してきた。
「俺はたった10分浴びただけなのに、えーっ、外はもう朝じゃないか!?どうなってんだ!」
またもや、町内会長は加賀美の家に怒鳴り込んだ。
「ええ!?それは『高速時間流モード』が発動したようですね!大変素晴らしい!これで睡眠時間を大幅に短縮できます!まさに時間の革命ですよ!」
「革命じゃない!何、考えてんだ!俺はこれから仕事なんだぞ!寝てないんだぞ!」
「それよりも、加賀美さん!息子がシャワー浴びたら、2時間経ったのにまだ幼稚園に行く時間だと思い込んでるんだけど!?」
太郎は目を輝かせた。
「なるほど!時間の感覚を操作する新たな可能性が…!」
第五章:天才の日常と、宇宙規模の洗濯物、そして自動謝罪スピーカー
運動会の騒動後も、太郎の日常は変わらない。彼の天才的な思考は、些細なことから壮大な宇宙の謎へと広がっていく。彼は、朝食の目玉焼きの焦げ付き具合からビッグバンの初期段階を推測したり、「この焦げ付き具合、まるで宇宙創成の混沌を具現化している…!」と呟いたり、近所の小学生が飛ばすシャボン玉の動きに、「これは多次元宇宙の膜構造を視覚化したものに違いない!」と興奮したりする。
今日も太郎は、自宅の庭で新たな発明に勤しんでいた。巨大な洗濯物スーパー乾燥波動共鳴装置は、今はさらに進化を遂げ、なぜか夜空にレーザー光線を放っている。そのレーザーに、なぜか近所の猫たちが集まってきて、じゃれついている。
「ジョン!今日の洗濯物は完璧に乾いたか!?」
ジョンは無表情に答える。「マスター、今日の波動は、宇宙の果てまで届くほど強力です。近隣の惑星の洗濯物も、きっと完璧に乾いたことでしょう。火星の砂嵐による泥汚れも、これで一発です!」
その時、隣の家から怒鳴り声が聞こえた。
「加賀美さん!もう、いい加減にして!またあんたの装置のせいでうちのテレビが映らなくなったんだけど!?」
太郎は慌てて、新たに開発した「自動謝罪スピーカー」を隣の家に向けて設置した。
「ご安心ください!私が開発した自動謝罪スピーカーが、私の代わりに誠心誠意謝罪いたします!」
すると、スピーカーからは、やたらと甲高い声で「誠に、誠に申し訳ございません!この度はまったくもって、私の不徳の致すところです!この度は誠に申し訳…」と謝罪の言葉が流れ始めた。
しかし、その謝罪はなぜか太郎が過去にジョンに怒られた時のセリフを引用しており、「マスター、あなたの行動は論理的ではありません。反省してください!」というジョンの声が混じっていた。 隣人はさらに激怒した。
「謝罪になってねえだろ!むしろ煽ってるだけだろ!」
「素晴らしい!なんて、素晴らしいんだ!これで宇宙規模の洗濯物問題も解決だ!次は火星にコインランドリーを建設するプロジェクトに取り掛かるぞ!」
太郎は、夜空に輝くレーザー光線と、それに向かって手を伸ばす猫たちを満足げに見つめていた。 ジョンはタマの心の声を再びスピーカーで再生した。
「ニャー(火星のコインランドリー?それより、このバカ、いつになったら私の高級マグロ缶詰買ってくれるニャ?あと、あの自動謝罪スピーカー、うるさいニャ。寝れないニャ。)」
太郎はタマの声を聞きながら、次の壮大な計画に思いを馳せていた。
「ジョン!我々はついに、住宅街全体を無重力空間にするための研究に着手するぞ!これで洗濯物も空中を漂いながら乾く!究極の乾燥システムだ!」
天才とは、しばしば誤解される。彼らの思考は常人の理解を超越し、その行動は奇妙で、時には迷惑千万に見えるかもしれない。しかし、彼らの瞳の奥には、常に世界(そして宇宙)をより良くするための、純粋で果てしない探求心が宿っているのだ。そして、日本のどこにでもある住宅街の片隅で、加賀美太郎のハチャメチャな天才の日々は、今日もまた、ささやかに、しかし確実に、未来へと繋がっている…のかもしれない…
SCENE#91 天才とは、しばしば誤解される…そして、たいてい迷惑である! 魚住 陸 @mako1122
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