悪役令嬢はヒロインとグルでした。
満月 花
第1話 前編 婚約者の裏切りと、奇妙な提案
王子の婚約者として、私は今日も完璧に演じている。
――“悪役令嬢”という役を。
高貴な子弟が通う王国一の学び舎ーーファレノプシス学園
第一王子と公爵家の令嬢は学園の象徴的存在だった。
婚約状態である二人は全生徒の羨望の的。
この二人が未来の王国を築く立場であると
誰もが思っている。
優美な微笑みと立ち振る舞い
二人並べば完璧な一枚の絵のよう。
王子とは良好な関係を築いている。
表面上は。
王家と最大勢力の公爵家との政略結婚。
自分たちに必要なのは役割を全うする事。
そこに情は要らない。
愛ある結婚なんて夢の話だ。
私は一生、傀儡のまま
張り付いた笑顔で王太子妃としての職務をする。
自由なんてない、無味乾燥の人生。
学園の生徒たちは
節度を守れば気ままに遊びに恋にと
青春を謳歌している。
私は公爵令嬢として完璧な淑女でなくてはいけない。
そのために常に努力し、しかし足掻いてる姿を気取られてはいけない。
常に優雅に気高く、余裕を持って。
でも、そんな日常が息苦しくなる時もある。
自由を望んではいけない。
羨ましい、と思ってはいけない。
私は公爵令嬢なのだから
胸の奥が寒々と風が吹き抜けるのを気づかぬふりをする。
このまま、決められた道を進んでいくのだ、と思っていた。
……しかし、この頃婚約者との関係が変わってきつつある。
ある存在がいつも王子の近くにいる。
王家も容認してるその存在。
むしろそうすべきであるという
いくら政略結婚が決まっていたとはいえ
長い年月を共に過ごし成長してきた。
王子として日夜努力している事も
常に国を思い民を思い良き君主になろうとする
その姿を見て尊敬し時には励まし、
王子も厳しいお妃教育に影で泣いてる私を慰めてくれた。
恋情のように熱い想いはなくても敬愛の想いは抱いていた。
疎遠になっていくのは辛い
そしてそれが今後自分の立場をどう脅やかすかと思うと
胸が重苦しくなる。
公爵のお父様からもっとちゃんと王子の心を繋ぎ止めておけ、
と怒鳴られたばかり。
人の心なんてままならない。
ましてやすでに灯った恋の炎を消すことなんて出来るわけが……。
*
そんなある日、静かな校舎を一人で歩いてると拉致された。
目隠しをされ、声を出そうにも、抵抗しようにも、
魔力が掛けれているのか
何も出来ない。
人気のない場所へと連れて行かれる。
ポイって部屋に放り込まれる。
ずいぶんと使われてない、埃っぽい部屋。
拘束を解かれ拉致した相手をみる。
え?この子つい最近編入してきた男爵令嬢。
稀有の魔力を認められ特別枠でこの学園にやってきた。
この頃、婚約者である王子と親しいと言われてる
聖女候補の令嬢。
その可憐な彼女が厳しい顔で公爵令嬢を見下ろしいる。
男爵令嬢は何も言えずに固まる私にノートを渡してきた。
ーー悪役令嬢の振る舞い、とその後の救済案
……何、これ。
男爵令嬢は語る。
ここは乙女ゲームのという名の世界線であること。
そして自分は先の未来がわかる。
自分はこの先王子と恋に落ち、聖女として認められ
邪魔な公爵令嬢は排除される
そのために悪役令嬢は予定通りの行動をして
婚約破棄されせねばならない
しかし、こちらの都合で公爵令嬢が断罪されて悲惨な末路
というのも目覚めが悪い。
なので、公爵令嬢にも新たな人生を送ってもらいたい。
出来る限りその後の生活は保証する。
その計画の為、ぬるい嫌がらせ行為をして欲しい。
この程度ならまだ、嫉妬に苦しんだ婚約者として同情を買える。
流石に大怪我や命を脅やかす行為となれば擁護出来ない。
ノートには嫌味や悪戯程度の手口のやり方が書いてある。
ここは手を組んで穏便な人生をお互いに送ろう。
馬鹿な事を、と一笑すれば
男爵令嬢は言う。
でも、もう気づいているでしょう?
王子の心がとうに離れていっている事。
聖女との婚姻についての審議がなされてる事。
確かに、そういう話は耳にしてる
焦る公爵である父親も早々に婚姻を結んで欲しい
と王家に持ちかけいる。
が、奇跡の聖女候補の降臨となれば、
王家も考え直さればならなかった。
古来、聖女は王家と婚姻を結ぶ。
聖女の力を最大限に活かすために。
公爵はすでにキナくさい動きをしてるから
断罪待ったなしだけど
あなたはまだ救済の道がある。
お父様ならやりかねない。
公爵家は王家と婚姻関係を継続して今の地位を保守しているのだ。
我が子の事など自分の地位を盤石にするための駒としか思っていない。
でも私は精霊の加護があるから暗殺なんて成功しないんだけどね!
聖女様に刃を向けるなんて神をも恐れぬ大犯罪だ。
露呈したらお取り潰し待ったなし。
その言葉にすでに何回も差し向けられたのだと推測する。
申し訳ありません!と土下座したくなる。
あなたも自由を味わいたくない?
学業はトップ
美貌と気品は誰もが見惚れる。
今まで培ってきたお妃教育も無駄にはならないだろう。
別天地で新しく人生をやり直せるのよ?
という言葉に心が揺れる。
どうせこのまま行っても自分は婚約破棄され、瑕疵のある令嬢として
扱われる。
父親に次はどんな相手を当てがわれるか考えるだけで恐ろしい。
無意識にどうすれば?という言葉が口から出ていた。
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