第3話 隣の席

俺は、とてつもなく惚れっぽい性格だ。その自覚は十分にある。


女子への免疫がなさすぎて、ちょっと話しかけられたり、消しゴムを拾ってもらったり、教科書を貸してもらったり――。


そんな“ちょっとした優しさ”を向けられるだけで、俺の心は一瞬で陥落してしまう。


「ゴエモーン」


なので当然ながら、席替えのたびに好きな子が変わる。


「ゴエモン、何番だったー?」


席替えは、昭和の時代から歌にされるほどの一大イベントだ。


俺にとっては、古い初恋が終わり、新しい初恋が始まる神聖な儀式でもある。


「ゴエモンってばー」


「……9番だよ!」


「はい、みんなクジ引いたな。それじゃあ、それぞれの番号の席に移動してくれ」


担任の声が響く。


そう、今日はまさにその一大イベント当日なのだ。


「3番の人、変わってくれなーい?」


中にはこうして、さりげなく“目当ての席”を確保しようとする奴もいる。その気持ちも分からなくはないが、俺はそんな小細工はしない。


だって、偶然隣り合わせになるからこそ、そこに「運命」を感じられると思うからだ。


……とはいえ。今、俺は山口が好きだ。


消しゴムを拾ってくれた高島さんも、教科書を見せてくれた山下さんも、その瞬間は確かに運命を感じていた。


でも、席替えで離ればなれになった瞬間に気づいたのだ。――あれは運命じゃなかったんだって。


だけど、山口は違う。


今回は誰が隣になろうと、この気持ちは揺るがない。席なんか関係ない。山口への想いは、もはや不動の真実だ。


そう決意しながら山口の方へ視線を向けると、彼女は酒井さんと何やら楽しげに話していた。


……でも、仮にだ。


クラスでダントツ人気の酒井さんが隣に来て、しかも「ペアワークがあるから隣同士で相談して」なんてことになったら……。


もしかして、俺は……?


いやいやいや! 断じてそんなことはない!


誰が隣に来ようと、俺のこの山口マミへの想いは止められないはずだ。


ここに、はっきり宣言する。


誰が隣に来ようと、今回は絶対に、絶対に、浮気なんてしない!


結論から言うと――。


今回も、俺は隣になった子を好きになった。


「あ、隣ゴエモンじゃん」


いや、違う。誤解しないでほしい。


今回は、俺の「好きな子」が隣に来たんだ。


「これからよろしくね」


俺の運命は、もう変わらない。

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