第22話 9月1日 深夜
よく考えれば、頼んだ物がうちにくる。と言う時点でこの事態を想像しておくべきだったかもしれない。
ナリが俺の身体に入って、牡丹が居間、そして俺が台所に布団を敷くことで、なんとか俺の倫理上の防波堤は機能させることは出来た。ちなみにエアコンは居間にしかないので、居間と台所をつなぐ扉は全開だし頭はその扉に向けている。
「じゃあ……寝ましょう」
「ああ、お休み」
牡丹は本当に眠いようで、一分と立たないうちに寝息が聞こえてきた。俺はと言うと、今までくすぶっていた因縁の姿がはっきりとしたせいで、目を閉じても昂ぶって眠れそうになかった。
『ソーマ、眠れぬか?』
「ああ、昨日今日と、色々ありすぎてな」
自分の身体の中に居る訳だから、そういう感情はナリには筒抜けだ。俺は別に強がることもなく、その事実を口にした。
『ほうほう、では少し話し相手になってやろうかの』
何か聞きたいことはあるか? とナリが言ってくれたので、俺は少し考えた後、夕方に話していたこれからのことについて聞いてみることにした。
「これからというか、この一件が終わった後の話だけど」
『元の生活に戻れるか、という話か?』
俺はナリの言葉に頷いて、言葉を待つ。あの時の真意をまだ彼女から聞いていなかった。
『知らなかったことを知ってしまったわけじゃから、元に戻るのは無理じゃろう』
例えば、雨を知ってしまったら雨が降りそうな時は出かけなくなる。雨傘を知ってしまえば、傘を差さずには居られなくなる。そういうことじゃ。と、ナリは続ける。
「風邪とか不調の中に、霊障や呪いって言う選択肢ができるってことか」
『そういうことじゃな。そうなると、もう以前の生活には戻れないじゃろう。澄玲はそこまで深入りしていないから忘れるかもしれぬが、お主はもう、関わりすぎておる』
ナリの言うことはもっともであり、俺からは反論の余地がなかった。
「だったら、俺はどうすればいいんだ?」
『それはお主が考えることじゃな。突き放すようで悪いが、こればかりはソーマ自身が決めなければならぬ。納得するためにな』
俺は、どうするべきなんだろう。
ナリが道を示してくれるのでは、と思ったが、そんなことは無かった。確かに、俺は今まで両親が居なくなってから、ほとんど流されるように生活していた。
じいさんに引き取られ、雄輝に守られ……今はナリに命を救われている。その根本にあった桐谷家との因縁も、もうすぐなくなる。なら、俺はこれからどうするべきなのか。
このまま雄輝に助けて貰いつつ、桐谷家から逃げて生活するのか。霊障はこれからなんとかするとは言え、現実的なパワーバランスは桐谷家と俺では雲泥の差だ。これをひっくり返すことは、おそらく出来ない。
なら、どうするか。俺は今初めて、自分のことを自分で決めようとしている。それなら、とことん考えて結論を出すべきだ。
「……ありがとう。しばらく考えてみる」
『うむうむ、よく考えるのじゃぞ、ソーマよ』
桐谷大神は顕現するのか、調伏することはできるのか、できたとして、この後はどうするのがベストか、考えることは大量にある。
考えることは大量にあり、そして時間は有限で、体力も限界が近い。俺は思考に押しつぶされるように、眠りへと落ちていった。
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