Episode-17 ~ 熱狂×淡麗≧交奏曲~
CD出来るのは5日後、授業以外の時間はギターを触ったりして、それまでに死ぬ気で練習を重ねる。休憩の合間に指に巻かれている絆創膏たちを新品のと張り替えようと剥がした。
「うわ!穂川さんの指凄いな、それ!!」
どうやら奏響に見つかったらしい。
「本当だ、きぃちゃん指傷だらけじゃん!?」
優の言う通り、練習のし過ぎなのか指が傷だらけだ。
「おい。穂川そこに座れ。」
慧が言う、そこにというのはどうやら
「慧の前に座るの?」
「そうだ。手当してやる。」
慧のカバンの中からポーチが出てきて、ポーチの中から四次元ポケットの如くいろいろ出てくる。
「…なんで消毒液と脱脂綿持ってるの。あの練習は?」
私よく練習を中断させてる気がする。
「何言ってるの!練習よりきぃちゃんが大事に決まってるでしょ!」
ぷんぷんとどこかのスタンプを思い出すと同時に優の顔が近い…
「SiNSilentの初めてライブの練習漬けした日の時もお前が怪我したから、今日ももしかしてと思ってな。」
「あー!そういえばそんなことあったね!ほらほらきぃちゃん座って、けーくんよろしく!」
SiNSilentに初めて出演の時を思い出すな、確か慧に絆創膏もらったけ。
「さすが慧だな!」
慧のお母さんっぷりがこうして発揮するのだ。消毒液に染み込ませた脱脂綿が傷にあてていく。
「痛いか?」
痛くも、染みることもないけど。
「ううん。あの、ごめん。練習止めて。」
慧の手馴れた手当てしていく様を見るだけで、少し申し訳ないな。
「そんなこと気にするなよ、穂川さんはもっと自分を大事にした方がいい!」
「そうだよ!こんな痛そうな指でよく練習してたよ!僕が痛くなりそう。」
少しシンとした部室に、コンコンとノックが聞こえて。
「はーい!」
優が返事すると
「やっほー!」
「練習頑張ってる?」
時には美紅や芽衣が顔を見に来てくれた。
「美紅、芽衣。」
「練習の様子を見に来たんだけど、休憩中?」
「あれ、何してんの?みんなして??」
美紅と芽衣が私たちを見て疑問に思ったらしい。
「穂川さんの手当て中だよ!」
「手当て?って、何その指!?」
「煌夏ちゃん普段は綺麗な指なのに。」
なぜか私より2人の方がしょんぼりしている。
「俺もあるけど、ベースやギターの弦で指切ることあるからな。」
奏響はベースだから、私と同じ現象は起こりうる。
「最近は練習漬けだったから指に負担がかかっているんだろうな。」
話している内に傷だらけだった指が新品の絆創膏が全ての傷に巻かれていた。
「慧、ありがとう。」
「おう。」
慧がそう答えて、ポーチから出した手当てグッズを仕舞ったり、片付けしたりしている。優もじっとしてられなくなったのか。
「逆に腕とかきぃちゃん痛くならないの?そーくんはたまに少し痛そうにするけど…そうだ!腕マッサージしてあげる!」
「え、そんなことしなくていいよ。優。」
「私!ボディクリーム持ってるよ!」
「おー!さすが女の子だね、花沢さん!」
美紅のカバンからボディクリームが優に手渡さる。
「私もマッサージやる!」
傷の手当ての次は、なぜかマッサージが始まった。
「いいんじゃないか?休憩も大事だからな。」
腕を組みながら言う奏響はなんか少し圧力を感じる気が…
「その傷見て、何も思わないと思ってんの?」
え?…えっ?も…もしかして
「え?奏響。もしかして怒ってるの?」
奏響の初めて見る雰囲気に戸惑う。
「あー…そーくん心配性だからね。スイッチ入っちゃったかも!きぃちゃんマッサージするね!」
驚いている私を置いて、優と芽衣が美紅のボディクリームを手のひらに出して私の腕のマッサージし始めた。
「煌夏ちゃんの腕スベスベ!そして細いね、ギター弾いてる腕とは思えない。」
「くすぐったい…」
「私より煌夏の腕細いんじゃない?」
美紅が自分の腕を出してきて、比べ始めた。
「あんま変わらないと思う。」
「あんま間食とかしなそうだよね!きぃちゃんは!」
「あ!お菓子を差し入れ持ってきたし、丁度いいし食べる?」
「飲み物もあるよ!」
美紅のカバンからたくさんのお菓子の袋たちが見える。芽衣のには私たちの分の飲み物まで。
「美紅、芽衣。ありがとう。」
この気持ちは素直に受け取らないとな。美紅と芽衣だけじゃない。
「ありがとう。奏響、慧、優。」
奏響と優、慧の気持ちも…
「ふふ!どういたしまして!」
なんか恥ずかしいような、照れくさいような。
「エネルギー補給するか。」
「だな、俺もなんか貰おう!ありがとうね、花沢さんと樋野さん!」
お菓子を空いている勉強机たちの上に並べて、開けたりしている。
「そーくん、僕チョコスティックがいい!取ってくれる?」
「OKー!」
奏響から優へとチョコスティックが手渡されている光景を見ていると
「ほら、紅茶あるぞ。」
慧はお茶を飲みながら、私のところに持ってきてくれたみたいだ。
「ありがとう。慧。」
「きぃちゃん、チョコスティックいる?あーん!」
そんなこんな賑やかな部室を過ごして、いよいよ対バン前日は部室に泊まり込みだ。新しい楽器にも馴染んで、SLYiLLからいくつか楽器もレンタルして、それから投票集計もしてセットリストを決めるんだけど。
「はは…」
「多いね!」
終わるか不安の投票数に休み時間とか使ってやってたら。
「あんたたち!」
「水臭いぞ!」
美紅と芽衣がそういい。クラスのみんなが来て手伝ってくれたりして。
「みんな、ありがとう。」
「じゃ!今度学校お礼のライブでもして!」と美紅に言われた。
「約束する」と答え、BlueStaR L!neЯは一層楽器の練習に励む中。時折調理部が軽食の差し入れを持ってきてくれるんだ。
「食べろよ。」
「わかってる。」
慧お母さんに見張られているのはともかく。こうして見ると応援されているんだと実感した。明日はクラスみんなで、配信で見ると美紅やクラスの皆が話していた。
「絶対良いライブだったと皆に想わせる。」
「だな!」
そして、対バンに勝つ。Colors LuckDaYのFLASH BreaKeЯの発売は大成功!2500枚売れて、前回のミニアルバム2種は、4000枚を売り上げていた。と秦さんが教えてくれた。
MARIN RUNLY×BlueStaR L!neЯのトレンド2位。SNSのフォロワーも5.5万人を突破したのだ。今度は記念ミニライブでもやろう。
こうして、舞台は整った。いよいよ、対バン当日だ。まだライブは始まっていないのに、一筋の汗がつたう。MARIN RUNLYの登堂さんと初対面する。
対バンライブ前にお会いしたかったんだけど、お互い都合がつかず、顔合わせがライブ当日になってしまった。
「よろしくお願いします。BlueStaR L!neЯの穂川 煌夏と言います。」
「はじめまして、MARIN RUNLYの登堂 塁といいます。お互いいいステージにしましょう。」
私と登堂さんは握手をし、赤と青の箱からくじを引く。先行か後攻か。
先行は……MARIN RUNLYの登堂 塁さんだ!
キーボード凛さんの電子音とバンドでは珍しいみいなさんが奏でるハープの音色(ねいろ)が水に浸かっているような、穏やかな音の中に、ハランさんのドラムと塁さんのギターが激しい波音が聞こえる。
MARIN RUNLYの曲調だ、海をテーマにした曲が多い。MARIN RUNLYの一発目の曲はSea Village ScrewやCannon SharkeRはドラムやハープが強調されて、海の強さを感じる圧倒感。
Coral PaletteとMerMaiD if Dreamはゆらゆらと揺れるまさに海の中にいるような感覚すらなる不思議な曲だ。
海の中でたくさんの魚が泳いでいるような、まるで水族館にいる気分になるMARIN WORLD、前者の曲とは反対の波が激しく打ち寄せるようなWAVE ROLANDはこのバンドの人気の2曲だ。
そして、ラストは私の代名詞の曲
ShinE Light。BlueStaR L!neЯの激しい感じじゃなく、ハープの音が加わることで海から照らされている太陽を想像するような幻想的に奏でられた。
「ギラギラと眩しい太陽。
手を伸ばせば遠そうで、手を引いてしまいそう
だから、キミたちの心は、ボクたちが燃やす。
何もせずにいられない、そんな一歩を
この熱い想いを聴いたら、最後だ。
ここでとまるなんてもったいない。
手を翳せば光が、暑くさせる。
ボクたちはー、輝く光になれるんだ。」
MARIN RUNLYの音と楽器の世界が圧巻だった……さすが、SiNSilentの古参で人気が耐えないバンドである。私たちはステージを脇で見ていた。
「きぃちゃん、大丈夫だよ!」
「今までのこと、出し切るだけ。」
「俺たちがいる、クラスのみんながいる、全力で楽しもう!俺たちが楽しくなかったら、観客も楽しくない!そうだろう?」
わかっていた。でも言葉をかけてくれるだけでも、こんなに心強い。
私、奏響、慧、優は手を重なり合わせる。
「私たちらしく、この対バンライブを楽しもう!青い星を流れる熱狂を!」
「「「「BlueStaR L!neЯー!!!!」」」」
対、BlueStaR L!neЯの先行曲は
「こんばんは。BlueStaR L!neЯです。私たちが太陽のような熱いライブにすると誓います。」
「叫ぶ準備は出来てるか!?」
優のツーバスが光る
「待ってって言っても、待ってあげないよー!!」
ーーーRide: OЯ Die´S。
「衝撃のビートは ズレた音が吠える」
ギターの歪んだリフがガツンと入って、時に不協和音気味のコード進行で緊張感を会場を煽る。
「『シンバルが』裂く 夜を切り開くぞ」
優が叩くシンバルがバチバチ鳴り響く、タイトでパワフルなビート。変拍子やオフビートを織り交ぜる。
「叫べ!『叫べ!』壊せ!『壊せ!』
この不協が制圧する和音で
心の鎖を 全部ぶち破れ」
私は鋭いソロやノイジーなフレーズで攻撃的なギターフレーズを弦で弾く。
「手が傷だらけで 靴をすり減らしても」
キーボードは不気味なシンセ音やグリッチっぽいエフェクトでカオス感を強調。
「モノクロの『鍵盤が 』そのカオスは
やがてこの世界は 物足りなくなる」
こんなにめちゃくちゃな音なのに無機質さが効くのは何故だろうか。
「『重低音が』 地面を揺らし続ける!」
奏響がドゥーム感のある重いベースライン。スラップやピック弾きでパーカッシブなアタック感を加える。
走れ!『走れ!』燃えろ!『燃えろ!』
Ride or Die'Sの壁を突破だ!」
この不協和音だった楽器は、電子音によって中和されて、バラバラだった音は混ざりあって調和される。
「このまま水の勢いに乗って弾けろ!WataR ArM BANG!!!」
「ジャンプだ!みんなジャンプー!!」
「いぇーい!飛んじゃえー!!」
「まだまだ行けるだろ?」
ベースのスライドとドラムのフィルイン、ギターのパワーコードに上昇するシンセの音が会場に一体感を与える。
「僕らは探してた こんな熱い場所を
照らしてくれるスポットライトに
なかなか届かなくて
こんな最高潮の場で 何も得られないまま
ーーーだけど、そんなところで
終われるなんて、あるわけないだろ!
熱い炎を燃えあげろ 水量 全力全開で
BAN!『BAN!』撃ち抜けろ
あの空と果てのない海まで
BAN!『BAN!』届くまで走れ!!」
ドラムがさらにドタドタと音量とリズムを上げる。
「最後は飛ぶぞー!飛ぶ準備はいいか!」
「「「「せーの!?」」」」
ーーーBAN!!と、爆発音と白煙が立ち上る。
私はギターからアコギに乗り換えて。夕陽を照らすような穏やかな雰囲気を起こす。慧のシンセとアコーディオンの音がORANGE PIERROTから、 Moonl!t JeweLへと繋ぐ。そして、 FLASH BreaKeЯ へまた観客のギアをあげる!
「あと、3曲です!まだまだ暴れられますか!?」
「まだまだだよね〜?」
「エンジンかけろー!この会場に嫌いな奴いない、TR!BE L!NK DR!VEだぞー!!」
ベースのエフェクターが効いた音から、優のシンバルとスポットライトが色とりどりと照らす。 手拍子しが観客と重なる Colors LuckDaYが最高に盛り上がる瞬間だ。
「鮮やかな色とりどりの道を
駆け抜けてみた もっと遠くへと
階段を駆け昇る
坂道がさらに加速させる
風は微かな潮風がまだ温かく
気持ちを晴れやかにする
こんな1日があってもいいよね!
好きな曲聞いて、僕たちみたいに歌って
ハッピーな日にしてしまえ!
その希望の線は青い星の光になる。」
慧のシンセがさざめいてBeyonD the BluEのあの空の爽快さが音で駆け巡る。ついに、あとラスト2曲。
「MARIN RUNLYさんは、ShinE Lightを素敵に奏でてくださいました。
なので、私たちは、DolphiN PooLを調和します。聴いてくれますか?」
慧の電子音とキーボード、ツインキーボードが幻想的な音色を作り出し輝く瞬間だ。奏響のベースが弦を刻んで波を立てて、優のドラムがシンバルが水面に煌めく温かさと私がそれにコーラスで上昇をかける。
「駆け抜ける 青い海の中を
遥か彼方に 尾びれで虹を描き
全てを飛び越える勇ましさ
その勢いに弾ける水飛沫が
荒れた海を砕け散り
グングンとスピードを上げろ
高い声を上げ この世に知らしめろ
世界を荒波を超えて 旅し続ける
俺たちも その背びれを追って
この波を超えて行け」
ドライアスの煙とキャノン砲から水しぶきがDolphiN PooLのラストを色付ける。
「『Dolphin FastStart Run』」
この対バンが締めくくる、BlueStaR L!neЯの曲は、FIRE-FLOWER!!!!
「最後まで、燃え上がれー!」
夏祭りの巨大な花火に負けない、音圧と歌が
この空高く、届けーー!!
「空に響いた音 パッと咲く花弁が」
BlueStaR L!neЯの最後の曲が終わり、MARIN RUNLYと握手を再び交した。
「とてもいい勝負だったよ。本当に高校1年生チームなの?」
「登堂さんこそ、素晴らしい音色でした!BlueStaR L!neЯと対バンしていただきありがとうございました!」
終わるのは寂しい…本当に楽しく赤と青の熱がぶつかり合った対バンライブだった。
そして勝利のスポットライトは、太陽の赤だった。私は、思わず込み上げてくる歓喜がたまらなかった。
「きぃちゃん!!」
優の抱きしめから、肩へ手が移動した。
「行こう、穂川。」
ぽんと背中を叩いたのは、慧。
「BlueStaR L!neЯのアンコール、観客の皆が待っている!」
腕を握ったのは、奏響。3人からエネルギーを貰った。
この対バンのラストを歌うのは、BlueStaR L!neЯのShinE L!ghtだー!
優のツーバスとペダルが焚き付けて、ベースの重力が音に圧を奏響が加え、シンセとピアノ綺麗なコントラスト……そこに、私のギターが赤のスポットライトに負けない勢いを上げる。
「ギラギラと眩しい太陽
あんなに輝いてて
暑くて存在感があるのに
手を伸ばせば遠そうで
バチッと弾かれて
手を引いてしまいそう
目を逸らしてしまえば
逃げてしまえばいいのかもしれない
でも 負けたくないから
ここで諦めたくなんてないから」
ShinE L!ghtが最後に差しかかり、優のドラム合図で飛んだ、テープが赤と金のテープでなんだか、本当夢のようなライブだと胸が高鳴った。
こうしてMARIN RUNLY×BlueStaR L!neЯの対バンは幕を閉じた。
……To be continued
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