第5話

二人は渋谷の服飾系総合テナントビルの入口を抜けると、すぐに店内の賑やかな雰囲気に包まれた。中学生の河香葉にとって、店の洋服は高くて手が出せないものも多い。しかし帽子やハンカチ、小さなアクセサリーは気軽に手に取れる。河香葉はジャケットを羽織ったり、帽子を試したりしながら、少し恥ずかしそうに瑞川と笑い合う。


「これ、ちょっと可愛くない?」香葉が頭に帽子を乗せながら鏡を見つめる。


「うん、似合うじゃん。私のメイド服と並べたらどうなるかな?」花仁菜が冗談めかして言うと、二人は笑いながら店内の衣装コーナーへ歩いていった。そこには色とりどりのメイド服や制服風の衣装が並び、二人は思わずカメラを取り出して互いに写真を撮り合う。


やがて香葉は試着室に入り、ジャケットを羽織り、帽子を整えながら鏡の前でポーズを取る。すると突然、試着室のカーテンが勢いよく開いた。


「ぎゃっ!」香葉は驚いて声を上げ、帽子が少しずれた。目の前には、にやりと笑う花仁菜が立っている。


「やめてよ、勝手に開けないで!」香葉は思わず手でカーテンを押さえながら叫ぶ。しかし花仁菜の目はいたずらっ子のように輝き、香葉の肩を軽く叩く。「だってドッキリだもん、反応見たかったんだよ」


周りの客たちも驚いて立ち止まり、二人をちらりと見たが、香葉の頬が少し赤くなるのを見て、花仁菜は小さく肩を揺らして笑った。香葉も思わず笑い、少し恥ずかしさを噛みしめながらも、この小さな騒動がデートの楽しいひとときになっていることに気づいた。


「もう、本当にやめてよ!」香葉が笑いながら言うと、花仁菜は「はいはい、もうやらないよ」と言いつつ、わざとらしく手を上げてポーズを決める、と二人は試着室に逃げ込んだ。

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