八
年迫ったある日、カヤトが青ざめた表情でアジトに戻ってきた。
「サチ、帝が逃げた」
はあ?
天皇陛下が幽閉されるのにも驚いたけど、今度は逃げた。
もう、意味がわからない。
天皇陛下って、そんなんだっけ。
「どこに逃げたかはわからないの? 新田様のとことか⋯⋯」
うちの言葉にカヤトは首を横に振る。
「新田様のいる金ヶ崎城は足利軍と激戦中だ。そんなところに逃げるとは思えない」
「じゃあ、どこ? うちらは帝の周辺警護でしょ。どこを周辺警護すればいいの?」
カヤトはうちの言葉にしばらく黙り込み、そして口を開いた。
「どこかはわからん。とりあえず比叡山に戻ろう」
比叡山?
足利軍だって、比叡山って思うだろ。
うちはカヤトとともに比叡山へと戻っていった。
実は足利高氏から度重なる無理難題を要求された帝は幽閉されている花山院から脱出し、数年前に護良親王が鎌倉幕府を倒すためにたて籠もった吉野に向かったのである。これにより足利高氏が擁する北朝と後醍醐帝の南朝が対峙する南北朝時代が始まった。
比叡山に到着したカヤトとうちは途方に暮れる。
「ここでもないとすると⋯⋯」
カヤトの言葉にうちは口を挟む。
「わからないでいいんじゃない。そんなことよりもカヤトに話したいことがあるの」
うちの真剣な表情にカヤトはたじろぐ。
「元に戻す件はもう少し⋯⋯」
カヤトの言葉を最後まで聞かずに、うちは切り出した。
「うちの名前は
「早まるな。サチ」
カヤトの制止を聞かずに、うちは続ける。うちの身体が光に溶けるように消えていく。
「うちはサチじゃない。この身体も七百年も存在するとは思えない。うちはもう一度お母さんとお父さんに会いたいだけなの⋯⋯」
うちの悲鳴にも似た訴えにカヤトは頷く。
「そうか。七百年後の伊賀か。それならやりようがある」
カヤトはそう言って例の不思議な刀を抜き、アナログの世界で切っ先をうちの心臓目掛けて突き刺した。
痛っ⋯⋯⋯⋯くない。
「サチ。いや、いまいさちよ。オレを信じろ。信じて七百年後の伊賀で待ってろ。必ず助けにいく」
そう言っている間に、うちの身体は消えていく。
「祠、大和へと続く伊賀の山奥にある祠にうちはいるはず。頼んだよ、カヤト」
うちがそう言うとカヤトは刀を鞘に収めて笑った。
「なああに、たった七百年だ。あっと言う間だよ」
どうやらサチの身体は完全に消滅したらしい。それを確認して、うちは故郷の伊賀に向かって元気に歩いていった。
あんなに嫌だった故郷の伊賀が待ち遠しい。
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