新田義貞軍が撤退した後に足利高氏軍と足利直義の軍を相手に楠木正成の軍勢は約半日、何度も足利軍に突撃を繰り返し疲弊して、楠木正成は最後は自害して果てた。その後、足利高氏と足利直義は合流し、西宮に逃れていた新田義貞の攻撃へ向かった。生田森の戦いにおいて鬼切鬼丸を振るって奮戦する新田義貞であったが、足利の軍勢との兵力差は歴然であり、新田義貞が命がけで戦っても戦況を覆すことはできなかった。その結果、新田軍は敗北し、残っていた軍勢は生田の森の東から丹波路に逃がれた。


 カヤトがこの小屋を出ていって一日くらい経過しているが、カヤトは一向に帰ってくる気配がない。うちは心細くなってサチの刀を抜く。蒼白く燃える刀身にその文字を見た瞬間、うちは目を見開き硬直する。


『今井幸代』


なんで。

なんで。

なんで。

この刀にうちの名前が刻まれてるの?


そこにカヤトが帰ってきた。


「サチ、場所を変えるぞ」


心の底から震え上がって目が虚ろなうちの姿を見てカヤトが心配する。


「どうした?」


「この刀に⋯⋯」


「まさか生前のお主の名前をオレに告げるんじゃないよな」


カヤトの言葉にうちはハッとして全力で首を横に振る。カヤトはしばらく考えてから口を開く。


「刀に所有者と認められたと思え。余計なことは考えるな」


その『間』、絶対ダメなヤツだ。

どうしよう。


「でもでもでも⋯⋯」


うちの言葉をかき消すように怒声が響くとカヤトは素早く例の不思議な刀を抜いた。辺りの景色がアナログの世界へと変わっていく。


「悩むのは京の都に行ってからにしよう。ここは戦場だ。さあ立ち上がれ」


カヤトはうちに手を差し出した。その手をうちは取り立ち上がってカヤトと一緒に小屋を出た。


京の都⋯⋯。

去年の卒業旅行以来だ。

とりあえず、それまではこのことは忘れよう。

京都にはいっぱいお寺があるはずだから⋯⋯。

生八ツ橋とか抹茶ラテとか、あとあと⋯⋯。


そうやってスイーツのことばかり考えていたら、あっと言う間に京都の平安京に到着してしまった。カヤトが会合に行っている間、うちは京都の町をぶらぶらしている。すっかり忘れていた。うち、お金持ってない。スイーツも食えん。そもそもうちは神社や寺に興味もない。つまり、なんもすることがない。ボーっとしてうちの前にカヤトが戻ってきた。


「なんだ、お主は寺とか神社は好まぬか?」


うちが興味あるのはスイーツなんですけど。


そんなことを思って黙り込んでいるとカヤトは続ける。


「新田様の護衛で比叡山に行くことになった。お主に話しておくことがあるのでお主も同行しろ」


カヤトの言葉にうちは静かに頷いた。



 官軍総大将である新田義貞は残兵を纏めて京へと帰還した。朝廷では官軍敗北の場合は比叡山へ臨幸することが決まっていたので、後醍醐帝は三種の神器とともに京を離れ比叡山へと臨幸することになったのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る