ぐはあっ。


血の味。

血の匂い。

どうやら、うちは血を吐いたようだ。


「カヤト、何をした?」


「なああに、ちょいと秘術を使っただけだよ。それよりサチ、気分はどうだ?」


カヤトと呼ばれた男はうちの顔をのぞき込む。


知らない男。

チョンマゲじゃないけど時代劇みたいな恰好。

何かの撮影?


「権左だ。サチわかるか?」


権左と名乗った男。

こいつも知らない。

こいつもチョンマゲじゃないけど時代劇みたいな恰好。


まだ血が喉に残っているのか。

声が出ない。


うちは右手を顔の前に持っていく。


ん?


「ちょっと待て。サチ、お主。サチではないな。すまん、巻き込んでしまった。いいか、お主がどこの誰かはわからんが生前のお主の素性は誰にも話すな。戻れなくなるぞ」


カヤトがうちの肩を掴んで、うちに言い聞かせる。


うちの頭に一つの単語が閃いた。


『転生』


ああああ、転生するなら悪役令嬢が良かったよ。しかも、いきなり死にかけてるし⋯⋯。


「いいか。お主の名はサチ。出身は伊賀だ。とりあえずはそう思い込め。さっきも言ったが決してお主の生前の素性は他人には言うなよ。それはオレに対してもだ。元の世界に戻れなくなるぞ」


カヤトはうちに言い聞かせる。


うちはサチ。

出身は伊賀。

思い込まなくても、そのまんまだ。


「それから今の状況だ。今は建武三年五月。居場所は摂津国湊川。いいか。こっからが重要な情報だ。オレたちは新田義貞様の軍に属している。九州から東上して来た賊軍の足利高氏の軍を迎え撃つ。残念ながら斥候として偵察に出したサチが足利軍と会敵してしまってあえなく瀕死の重傷を負ってしまった。一緒に偵察に出ていた権左がここまで連れ帰ってきてオレが秘術で治そうとしたが、間に合わずサチは逝ってしまったらしい。いいか、周りはお主に戦闘を期待すると思うが絶対に前には出るな。お主が瀕死の重傷を負ってしまったのは皆知っている。ずっと床に臥せっていていい。いいか、これからここで起きる戦は間違いなく天下分け目の大戦になるだろう。ここは生き延びることだけ考えろ。オレが必ず元の世界に戻してやる。オレは京の都の守り神カヤト。人間に見えているかもしれんが人間ではない。オレを信じろ」


ぐはあっ。


大事な話だったので何度も頷いたら、うちはまた吐血してしまった。


「わかったよ⋯⋯」


そう言うのが精一杯だった。


「まあ、ゆっくり寝てろ。あまり動くな。今、粥を頼んできた」


権左が笑いかけてきた。権左は厳ついおっさんだが、優しい男のようだ。カヤトは⋯⋯。イケメンだ。自分を神というだけあって不思議なオーラが漂っている。ただ、気になるのはカヤトの腰に刺さる刀。二本あるのだが、よく見ると一本は床に突き刺さっている。でも、カヤトにはそれを気にする素振りもない。なんでだろう。

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