まずは勝竜寺城を目指す。羽柴軍の追手もまさか負傷した武将を背負って勝竜寺城に戻っていく男が敵の総大将を背負っているなんて誰も思っていないようでオレのことなんてまったく眼中に入っていないらしい。無事、勝竜寺城の近くまできた。問題はここからだ。佐平のような脚力があれば一気に和泉国の国境まで走り抜けるのだろうがオレにはそんな脚力などない。加えて重傷の明智光秀を背負っている。オレはなりふり構わず騎馬を奪う。なるべく損傷の少ない騎馬だ。オレの脚力で走っていくよりは全然速い。速いのだが敵の総大将を背負って馬で逃げていくヤツを見逃してくれるほど羽柴軍はマヌケではなかった。あっと言う間に包囲されてしまった。


仕方ねえ。

とりあえずは雷撃。

鬼導丸きどうまるは最後の最後まで温存する。


オレは両の腕に思いっきり力を込める。


雷光弾!


オレの両の腕から放たれた閃光は激しい轟音とともに羽柴軍を一気に屠っていく。そして、墨絵のような世界が広がっていく。おそらく今の雷光弾で本来ここで死ぬはずのない武将が亡くなったのだろう。オレもなんとなくわかってきた。鬼たちはむやみに武将を修復しているわけではなく、本来の歴史に必要な人間を修復しているのだ。となると、この男、明智光秀もこの後の歴史に必要だということ。


 オレは明智光秀を背負って馬で摂津方面に駆けていく。やがて、墨絵のような世界に色が戻っていく。追手からはかなり引き離した。ただ、代償はデカかった。無理をして早駆けさせてしまったために馬がどんどん減速していく。


仕方ねえ。


オレは馬を乗り捨てて走っていった。追手は皆騎馬でオレを追撃してくる。しかもオレの背中にはヤツらの目的である明智光秀を背負っている。追いつかれた段階でオレの負けだ。オレは振り向き右の腕に力を込める。


雷撃!


凄まじい閃光が轟音を伴い追手を焼き尽くしていく。追手がいなくなったのを確認してオレはふたたび走り始めた。背中の明智光秀は虫の息だが大丈夫、死んでいない。まあ、時々わけのわからんことを呟いているが⋯⋯。だから、カヤトってなんなんだ。


間もなく和泉国との国境が見えるかという頃になって一頭の騎馬武者が後方から猛追してくる。周囲はすっかり真っ暗となっていた。


「追いつかれるぞ。いいから某を置いて行け」


明智光秀はオレにそう言うが、そういうわけにもいかない。


ん?


右前方に旅の僧侶が見える。これは博打になるがやってみるか。オレは旅の僧侶の前に立ち止まる。


「おや、カヤトさん。お急ぎかい」


「ああ、雪乃は来てるか?」


オレがそう言うと旅の僧侶は地蔵に戻っていった。


来る。


猛追してくる騎馬武者の右側からもう一頭の馬。


「雪乃おっせええぞ」


「ごめん。馬の調達に手間取った」


雪乃の馬が猛追してくる騎馬武者を追い越していく。雪乃は馬の鞍の上に立ち忍び刀を抜刀する。その刀身は蒼白く燃える炎のようだ。そして、雪乃は後方の猛追してくる騎馬武者に向かって弧を描きながら跳んでいく。さながら蒼白い円を描くように。オレはその馬に跳び乗り和泉国との国境を目指して駆けていった。


「月光火炎斬!」


雪乃がそう叫ぶと忍び刀から放たれた蒼白い炎が猛追してきた騎馬に直撃し、騎馬武者は騎馬ごと真っ赤な炎に焼かれていく。

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