オレはしばらく呆然としていたが、気を取り直して百地砦に帰還した。


「カヤト、ご苦労だった。首尾よく織田軍を全軍撤退させたようだ。さがってしばし休息をとるとよい」


百地丹波の言葉にオレは頷き、休息をとった。翌朝、百地丹波に呼ばれた。


「カヤト、これから摂津の国に使いに行ってほしい。用件は前回の服部の時と同じだ。それから雜賀孫一という男に接触してくれ。こっちはできるならという程度だ。最優先は顕如様にこの書状を渡すことだ。間違えるなよ」


百地丹波から書状を受け取り出発しようとすると声を掛けられた。


「カヤト、万が一の時は雪乃を頼む。あれはしっかりしているようで少し……。まあよい。とにかく頼んだぞ」


オレは静かに頷き、その場を立ち去った。


 オレと雪乃は今、堺という港町に来ている。雪乃が百地丹波から使いの仕事を受けたらしい。に百地丹波からの書状を持っていくという仕事である。

アホくノ一はそう言ったが、おそらく大物であることは間違いない。

堺という地名は摂津国・河内国・和泉国の3国の境であったことに由来するらしいが、街は摂津国と和泉国に跨っている。環濠都市となり会合衆と呼ばれる有力商人たちにより自治的な都市運営が行われている。入京した織田信長によって多額の金品と服属の要求を呑み、幕府御料所の代官を務めてきた堺商人の今井宗久の代官職を安堵して自らの傘下に取り込むことで堺の支配を開始しているため自治都市といってもオレからすれば敵国の織田家領内と同じなのである。気は抜けない。


 ということでの家に向かっているのであるが、アホくノ一の歩みは遅い。食べ物屋の前で必ず止まる。そこでしばらく考え込んでから、また歩き始めるが別の食べ物屋の前でまた止まる。今回は偵察ではなく書状を届けるのが仕事なのでオレは雪乃を急かさざるを得ない。オレが早くしろと耳打ちするとわかったと言うがまったく動こうとしない。仕方なく雪乃を担いで行こうとすると童のように泣き叫ぶ。堺は自治都市といいつつも織田家領内と同じなのでオレもそれ以上はできない。日が暮れるまでにはの家にたどり着くことができるのであろうか。


日が暮れる前にはの家にたどり着いた。予想通り堺きっての大物の家であった。今井宗久、この名を知らぬ戦国大名などおらぬ。


「雪乃ちゃん、随分と大きくなったね」


雪乃ははにかむ。


買食いのしすぎで肥えただけなのだが……。


「すいません。こいつのせいでお遅くなって。田舎者だから許してあげてね。おじさん」


雪乃はそう言ってオレを指差し百地丹波からの書状を今井宗久に手渡す。


今井宗久をおじさん呼びするヤツはおそらくお前くらいだろう。


今井宗久は書状を一読してオレに言った。


「そなたがカヤト殿か。顕如様への紹介状を用意しておくので明日の朝にでも石山に立つといい」


なるほど、ここに最初に立ち寄らせた百地様の狙いはこれか。

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