三
「百地様がお呼びだよ。すぐに平楽寺に来いって」
雪乃が悪びれることなく言う。
「やっぱり滝川のことか? 地獄耳だな」
オレがそう言うと、雪乃は首を傾げる。
「なんか伊勢偵察の件なんでとにかく急げって」
「伊勢偵察? オレが? なんで?」
「あたしに訊いたって知らんよ。伊勢ってことはお伊勢さんだね。お土産よろしく」
偵察って言ってなかったか?
平楽寺に到着すると郷士衆の頭たちがずらりと並んでいるところにオレは通された。
「カヤト、早かったのう。して、丸山城は?」
百地丹波がオレに訊く。
「まったく動きはございません」
「ワシに隠し事は?」
オレが答えるとすかさず百地丹波は訊く。オレは腰にさしている
「これが見えますか?」
どうやら誰一人、
「今から三年後、某はここ平楽寺で滝川一益と一騎打ちをして敗れました」
郷士衆は騒然となったが、百地丹波が制する。
「三年後と言うたが、我らを謀っているのか?」
「某が今手にしているのは
郷士衆はふたたび騒然となるが、今度は植田光次が制する。
「カヤト、それは本当に
植田光次が訊くのでオレは答える。
「さあ、某は植田様がおっしゃる
この世に
植田光次はオレの言葉に深く頷く。
「それ以外は?」
「先の丸山城の戦いの折、総大将の滝川雄利を討ち取った際……」
植田光次は百地丹波に耳打ちをして人払いをした。
「すまぬ。カヤト、丸山城の一件もう一度お願いできるか?」
百地丹波と植田光次の三人になったところで、植田光次がそう言うので、オレは頷き話し始めた。
「滝川雄利が討ち取られてすぐに異変が起きました。まるで墨絵の世界のように周りが静止する白黒の世界になってしまったのですが、三体の異形の鬼が現れ、討ち取られた滝川雄利の身体を修復しているのです。
百地丹波は静かに聞いていたが、植田光次は時折厳しい顔をしながらオレの言葉を聞いていた。
「確かに我が家に伝わる伝承と一致する。百地殿、
植田光次が百地丹波に意見を問う。
「封印すると言ってもカヤトにしか見えぬのだぞ。おそらく触れることもできまい」
百地丹波はオレの右手付近に手を持っていく。
「カヤト、少なくてもお主は三年後までの状況を把握しているのだな?」
百地丹波が訊くので、オレは深く頷いた。
「来年九月、織田軍は大軍を率いて伊賀国に三方から侵攻してきます。我ら伊賀衆は夜襲や松明を用いた撹乱作戦などを用いて各地で抗戦し織田軍を伊勢国に敗走させることになります。ただし、三年後、蒲生氏郷を総大将とする織田軍の大軍が攻めてくるのですが蒲生隊を打ち破って一度は勝利しますが滝川一益の援軍が到着し伊賀衆は壊滅に追い込まれます。申し訳ありませぬ。その後、この伊賀の国がどうなってのかまでは某にはわかりませぬ」
オレがそう言うと、百地丹波は深く頷いた。
「ここ平楽寺が蹂躙されたとあれば壊滅状態に陥ったと考えるのが普通だな」
オレの言葉を植田光次が補足する。
「逆に考えれば三年もあるのだから女子供や年寄りを避難させておくこともできる」
植田光次の言葉に百地丹波がさらに付け足す。
「とりあえず来年九月の織田軍襲来に備えつつ避難する場所を確保していくのが先決だが、
植田光次がオレに訊く。オレはしばし考えてから口を開いた。
「丸山城にて異形の鬼と遭遇した際に
オレがそう言うと植田光次は反論する。
「我が家の伝承によれば
「山奥の祠に封印?」
オレは植田光次の言葉に思わず声を荒げてしまった。
「そうだ。山奥の祠に封印したと聞いている」
「ここは山奥の祠でもないですし、某が
「では、その奈落の底がここ平楽寺にあると?」
オレの言葉に百地丹波が首を傾げる。その言葉にオレは口をつぐんでしまった。
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