第7話「極限の疾走」


 光の門を抜けた瞬間、メロスは灼熱の空気に包まれた。


「――っ!」


 息を吸っただけで肺が焼ける。

 視界の先には、地平線まで続く砂の大地。

 太陽は真上に張りつき、巨大な火の球のようにじりじりと迫っていた。


 足元の砂は靴底を通して皮膚を焼き、立っているだけで体力が削られていく。

 汗はすぐに蒸発し、皮膚はひび割れた。

 乾いた風が砂を巻き上げ、喉を切り裂くように通り抜けた。


「……ここを……走れってのか……」


 それでも、頭の奥で砂時計の音が鳴り響く。

 ざら……ざら……。

 時間は、待ってくれない。


「信一……必ず、戻る……!」


 メロスは歯を食いしばり、砂を蹴った。


 数時間も走らぬうちに、世界は一変した。

 太陽は凍りついたように消え、吹き荒れる風は氷の刃となって肌を切り裂く。

 砂漠は瞬時に白銀へと変貌し、地平線まで氷原が広がっていた。


 息を吐いた途端、喉が凍りつく。

 指先は感覚を失い、膝は痺れて動かなくなる。


「……くそ……!」

 氷に足を取られ、メロスは前のめりに倒れ込んだ。

 冷気が骨にまで染み、体温が奪われていく。


「……ここで……終わるのか……」

 目の前に浮かぶ砂時計の砂は、残りわずか。


 視界が霞む。

 その時――胸の奥から声が蘇った。


〈一緒に走ろう〉

〈お前と走るのは、俺の誇りだ〉


「……ああ……そうだ……!」


 メロスは拳を握りしめ、氷を砕くように立ち上がった。

 足裏に痛みが走る。

 だが、その痛みこそが「まだ生きている証」だった。


「俺は一人で走ってきたんじゃない! 信一とずっと一緒に走ってきたんだ!」


 叫びとともに再び走り出す。

 灼熱と極寒が交互に襲う荒野を、痛みを抱えながらも駆け抜ける。


 やがて遠くに光の門が現れた。

 視界が白く弾けるその瞬間、メロスは全身の力を振り絞り、そこへ飛び込んだ。

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