超絶イケメンで学年イチ頭の良い俺をストーカーする女子をストーカーする男子

鈿寺 皐平

美男の俺とストーカー女子とストーカー男子

 俺が誰かって? そんなの説明する必要はない。いつものように廊下を歩けば、勝手に周りが俺の名前を呼んでくれる。この黄色い声援と共に。


加賀屋かがやくーん!」「加賀屋くん、おはよー!」「加賀屋くん、今日も髪型かっこいいね!」


「みんな、おはよ。今日も元気だね」


「「「キャー!」」」


 教室の窓から顔を出す色とりどりの女子生徒達。俺はただ、次の授業が移動教室だから廊下を歩いている。それだけだ。


てるは今日もモテてるねー」


「当然だろ。美男はモテるからな」


阿須野あすのくんもかっこいいよー!」


「あ、ありがとー」


「キャー!」


 しかし黄色い声援の中にも極稀ごくまれに、俺に向けられてない声が混じっている。俺を差し置いて俺の隣を歩く友人に声をかけるなど……。


「おいとも。お前の顔立ちが整っているのは認めるが、俺の黄色い声援に紛れ込むのはおかしいだろ! 俺に向けての声援なら俺だけに声が掛かるはず! なのに、なぜだ! なぜ朋にも声が掛かるんだ!」


「そんなの僕に言われても……あ、輝。後ろ……」


「なんだ! 話を逸らそうと……」


 朋に言われてちらと後目しりめを向ければ、へいのように取り囲む女子の集団。その後ろの柱の影からこちらをうかがいんな女子生徒の視線が垣間見えた。


「ほら、またストーカーしてる女子がいるよ」


「ふん、今更さ。おそらくあの子で九人……」


 いや、待て。よく見たら、その陰気な女子の更に後ろの物影から覗いている男子がいる。なんだアイツは……!?


「ん? 輝、どうしたの?」


「いや、なんでもない。多分気のせいだ」


「気のせい? ストーカーのあの子が?」


「いや、違う。ストーカー女子は見間違えじゃない。あの子で九人目だ。まあ? 学年成績一位で、去年のミスターコン優勝した俺をストーカーしてしまう気持ちも分からなくはないけどな!」


 なんせ、立てば俺! 座れば俺! 歩く姿もこの俺! 加賀屋かがやてるとはまさしく、この俺のことさ! 



 誰しも、初めてというのは怖いものだ。俺だって初めて経験することに対して警戒心を持つ。廊下で声をかけられること、大勢の女子に囲まれること、ミスターコンテストに出場すること。


 そして、ストーカーされること。


 高校生になってから、初めて経験することだらけだ。最初はもちろん戸惑ったが、やはり俺という人間は学習能力が高い故に慣れるのも早い。


「じゃあ、気を付けて」


「おう、ありがとな!」


 朋といつものように別れの挨拶を交わし、各々が帰路につく。ここに至るまでの間、俺たちの後ろをつけるストーカー女子は顕在だった。


 そして、そのストーカー女子の後を付けてるストーカー男子も顕在だった。


 あの時、物影からストーカー女子を見ていた男子の姿が一瞬見えたが、どうやら見間違いではなかったらしい。外に出れば俺を取り囲む女子の塀も、黄色い声援もない。


 開けたこの場所で俺に悟られないよう後を付けてるつもりなのだろうが、残念ながら君たち二人の姿は視認できている。


 ストーカー女子、ストーカー男子ともに学年カラーは俺と同じ。ということは二年生。しかし、おそらくあの二人とはまだ同じクラスになったことがない。


 ストーカー女子の顔は判然としているが、あまり見ない顔だ。不登校気味の生徒か? なら用心しとくべきか……。その後ろにいるストーカー男子はあいにく顔面が拝めない。遠すぎる。視力二・〇は欲しい。


 しかし女子は分かるが、なぜ男子が俺をストーカーしている? 嫉妬か? モテすぎている俺への殺意か? それとも単なる好意か? まあ男子だとしても気持ちは分からなくない。美男の俺だからな。


 だけどもし殺意であれば、身の危険を感じた瞬間に走り去るまで。二〇〇メートルまでなら誰にも負けない自信がある。ストーカー男子、お前を振り切ってみせるぞ!


 しかし、だ。あの距離から俺を襲うとなると逆に離れすぎているように思う。俺とストーカー女子の距離は目分量で三〇メートルくらい。ストーカー男子はそれ以上後ろにいる。今一度、位置関係をハッキリと確認するか。


 俺は少し歩く速度を落として、ちらと後目を向ける。まだストーカー女子の姿はある。しかし再確認すべきはその後ろの……待て。


 あいつ……よく見たら俺じゃないな。見えないが、顔の角度的に俺の方を向いてない。まだなんとなくだけど、これまでの経験則からして分かる。


 あの顔が向いてる方向、鼻先が当てている照準。俺じゃない……だと? ということは、あの方角……ストーカー女子か!? ストーカー女子をストーカーしている男子だと!?


「おい……」


 思わず足を止めた。内からたぎるような感情が湧き出てきたからだ。


「おい!」


「ひっ……」


 さっと首を後ろに捻ると、ストーカー女子の甲高くも慎ましい悲鳴が鼓膜をつんざく。あぁ……俺は許せないのだ。ストーカー男子のことが、たまらなく許せない。


 俺はきびすを返し、その男の元へと足早に駆け出す。


「ご、ごめんなさ……」


「君じゃない。しかしそこにいろ」


「へ……?」


「おい、お前だ! そこのお前!」


「ん……は、えっ? 俺?」


「そうだ! お前だ!」


 憤怒をあらわにしてにじる俺を見ても、その男子は逃げる素振りを見せない。なかなかいい度胸をしてるじゃないか。体格も申し分ない。そこは褒めてやる。


「お前、ストーカーしてたな?」


「あ、いや……」


 そいつの正面まで言って、俺は言葉と一緒に人差し指の頭を男子に突き出す。


「勘違いするなよ。俺が言いたいのはストーカーしてることじゃない。俺が言いたいのは、だ!」


「……は?」


 何を言ってるのか理解できないと言いたげな顔をしてるな。ふざけやがって! 俺が話してるのは日本語だぞ! 英語じゃない!


「どう考えても、あんな陰気な女子よりまだ同性の俺の方が魅力的だろ! なぜあの女子を追う! 訳を言え!」


「……な、ナルシストすぎる……」


「なんだおい、俺への悪口か!?」


「あ、あの……!」


 ふと、俺と男子の間にストーカー女子が割り込んでくる。


「その、ごめんなさい。この人は、その、幼馴染で……多分、私を心配して付いてきてくれただけで……」


「いや、その……俺は別に……」


 なんだこいつらは。ストーカー同士でかばいあってるのか? だけど声が小さくて何言ってるか分からんな。


「分かった。二人とも付いてこい! 近くに公園がある。そこで話そう」



「長話になるだろうから、これを渡しておく」


 俺は公園にあった自販機でお茶を二本購入し、二人に手渡した。


「あ、お金……」


「いや大丈夫だ。これくらいの出費、どうってことない」


 実際、本当にどうということはない。俺の家は金持ちだし、これくらいの出費はもらってるお小遣いの額から差し引いても気にならない。


 確かに自販機の飲料はスーパーに置いてあるものよりも割高。だけどこういった人との交際費にそんな損得勘定は出さないようにしている。


 そう、俺の家は金持ちだ。そして俺は天才でイケメン。なのにだ! この男は俺ではなく、陰気な女子をストーカーしていた! WHY!?


「それより本題だ。おい男子。なぜお前は俺ではなく、この女子をストーカーしていた」


「……そ、それは……」


 なんだ。さっきの肝が据わっていた態度はどこへ行った。なぜ女子の話になるとうじうじする。女子の話をするのが慣れてないからか?


「あ、そうか。分かった。お前、この女子が好きなんだな?」


「ちょっ、はぁ!? なっ!?」


「図星だな」


 ストーカーをするのは、その相手に対して好意があるから。俺が知っているストーカー相手は皆、俺に好意があってやっていたことは知ってる。


 それは性別が違っても同じこと。つまりこの男子はこの女子に気があるからしていた。まったく、俺としたことが……。肝心なことを見落としていたぜ。


 まあ、そうだとしても気に入らんけどな!


「好きなら好きだと言えばいいだろ。なぜうじうじする」


「そ、そういうのは心の準備とかあるだろ! そんな、簡単に言い出せるもんじゃ……」


「ストーカーしてるなら、もうそれは好意を持ってるということだろ。それが今バレた。もう言ってしまってもいいんじゃないか?」


 特に変なことを言ってる自覚はない。だけど、その男子は頬を朱に染めながら俺を睨みつけてくる。


「……あんた、よく言えるな。一応、あんたのことをストーカーしてた相手もここにいるんだけど」


「だからなんだ。俺をストーカーしてきた子は彼女で九人目だ。こっちは慣れている」


 むしろ好意のない異性をストーカーしてるやつがいるのか? いるなら今すぐ出てこい! 俺が俺の魅力を知らしめてやる!


「ふっ、さすがミスターコン優勝者」


「話を戻すが、お前はこの女子が好きだからストーカーしてたってことだな?」


「……」


 確認を求めたが、男子は苦虫を噛み潰したような表情をして黙り込んだ。しかし何か言いたげにしてるが、肝心の言葉は見つからないといった様子だ。


「おい、女子」


「あ、はいっ」


「君は俺のことが好きということで合ってるか?」


「あ…………はい。その……加賀屋くんのことが好きなのと、あと……お礼も言いたくて」


「お礼?」


 俺はこの女子とどこかで会ってるのか。そうなると、名前を覚えていないというのはさすがに失礼だな。


「悪いけど、一応名前を伺ってもいいか? なんせ俺はモテるから、女子の名前が頭の中にいっぱいあって上手く思い出せない。すまない」


「あ……わた志路しじミナ、って言います」


「ミナちゃんか。可愛い名前だ。外見を磨けば君は美しく化けるだろうな」


「あ……ありがとう……ございましゅ……」


 実際、見たところ持ってるものは悪くない。しかし下ろしている長い髪はぼさぼさでケアは行き届いてないし、肌もボロボロだ。


 だけど二重の大きな瞳は印象に残りやすいし、そもそも顔のパーツは悪くない。猫背なところも少し胸を張ればまた印象が変わってくるだろう。


「すまない。顔をよく見せてくれ」


「え、あっ……」


 俺は言いながら、彼女の長髪を耳に引っ掛けて、ミナちゃんの顔を再度確認する。


 うん、やっぱりだ。美女とまではいかないだろうが、可愛いと言われるくらいには容易に到達できる相貌をしている。


「ちょっ、おい!」


 つと、何が気に入らなかったのか、隣にいた男子に俺は手を払われた。


「なんだ。顔を確認しただけじゃないか」


「だからって、そんな軽々しく触るなよ」


「もう彼氏気取りか。ミナちゃんは告白の返事をまだしてないぞ」


「……ミナは……一時期不登校になってたんだよ! ミナは今、メンタルが不安定なんだ! そんな風に男が近付いたら怖がるだろうが!」


 その男子の手は震えていた。怒りでそうなっているのか、払った時に痛みを覚えたからか、それとも勇気を振り絞った故の恐怖なのか。


 初めてする経験は怖い。もし男子のこの行動が、そいつにとって初めて取った行動なら、身震いする理由も分かる。俺はその男子の表情が、心なしか不安げなものに映った。


「お前は、ミナちゃんが不安だからストーカーしてたということか?」


「……そうだよ。登校してきたかと思えば、ずっと加賀屋の後を追ってて……こんなアグレッシブなこと、今までしなかった。まるで人が変わったみたいだった」


 俺はミナちゃんの顔を見て思い出した。この子は学校行事の耐寒たいかんざんをしていた時に会った女子だ。下山する時に、一人だけ頂上にあるベンチで立ちもせずうずくまっていたあの女子だ。


「ミナがお前のこと好きだってのは分かってたけど……もう、そのままどこまでも突っ走っていきそうで……不安だったんだよ。だから付けてたんだよ、後を」


「ふんっ、ちゃんと言えたじゃないか」


「だけど……こうして対面してみたらどうだ」


 そう言いながら、男子は俺とミナちゃんの間に無理やり体を割って入ってきた。ミナちゃんには近付けさせない。そんな強い意志を感じさせる。俺もつい身を後ろに引いた。


「頭がいい、顔がいい、運動神経がいい。でも性格まではイケメンじゃない」


「性格? 俺は真正面切って話そうとしてるだけだ。うじうじしていたお前には言われたくない」


「……なあ、ミナ。こいつの……どこがいいんだよ」


 ミナちゃんに背中を向けたまま、その男子はうつむきざま訊き出した。俺はこの男子に言いたい。お前が性格を口にできるような美男ではないと。


 でも口には出さなかった。なぜならミナちゃんが話そうとしているのを邪魔してしまうから。


「その……私は、自分に自信がないから。自分なんかいても、いなくても……って。そんな風に思ってた。でも……そんな悩みを払ってくれたのが、加賀屋くんだった」


 学校行事の耐寒登山でサポートに周っていた俺は、自分のクラスの人以外にも体調不良で動けない生徒の保護を任されていた。耐寒登山では毎年、体調を崩す生徒がいる。


 頂上から下山する時に立てない生徒や様子がおかしい生徒がいないかを見て周っていた時、俺は集団から少し離れた場所にあるベンチにいた彼女と会った。


「優しく、声をかけてくれて嬉しかった。その時言ってくれた、『生きてることは、勝ち続けてること』って言葉が、その時私には響いたから。今でも覚えてる。ここにこうしていられてるのは……加賀屋くんのおかげ」


 ミナちゃんがどんなことで悩んでいたのかなんて覚えてない。そもそも人が何で悩んでいたのかなんてどうでもいいことだからすぐに忘れる。


 というか、俺がミナちゃんにそんなことを言ったかなんて覚えてないけど、そういうことを言うのはだいたい俺しかいないと思うからこれは俺だな。


「それからしばらくして、加賀屋君が好きなんだって分かって……つい、目だけじゃなくて、加賀屋くんがどんな人か、知りたくて……」


 目の前の男子のせいでミナちゃんの顔が見えない。せっかく彼女がお前の質問に答えているのに、こいつは目を見ないし、こっちは顔も見えない。一体どういうことだ。


 まあ、もう顔が見えないことに関しては今つっこんでも仕方ない。


「そうか。だが、すまない! ミナちゃんのその告白には答えられない!」


 今は彼女のその告白に対して返事をするのが先決だ。俺は堂々と答えてやった。だというのに、この男子は……。なぜそんな度肝を抜かれた顔をしている。


「ちょっ、おまっ……! 今のは告白とかじゃないだろ!」


「いや、もう俺のことが好きって言ったじゃないか」


「好きとは、言ったけど……付き合ってとまでは言ってないだろ!」


「高校生の『好き』が『付き合って』の意味合いを為さないわけないだろ!」


「どういう捉え方だそれ!」


 じゃあなんだ。異性に対しての好きという発言は、単に好きなだけであってお付き合いの意味合いは含まないというのか?


 それは一理あるとしても、ストーカーしていた子が俺に好きだと打ち明けてる時点で交際の申し出以外に何がある!


「……や、やっぱりそうですよね」


 うるんだなみだごえが、男子の後ろから聞こえてくる。ようやく男子は半身をひるがえし、ミナちゃんの顔を視界に入れた。


「……さっきも言ったけど、ミナは不安定なんだよ! もっと、直接的じゃなくてオブラートにだな……」


「何を言う。一度振られただけじゃないか」


「その一回のためにどれだけミナが勇気を振り絞ったと思ってるんだ!」


「そんなの知ったことじゃない。仮にミナちゃんの気持ちをんだところで、俺の答えは変わらない」


 残念ながら、人間というのは基本的に自分中心で考える。それは自己中だからではない。生きることが大変だからだ。自分の人生を走り続けることに常に脳のリソースを割いている。


 お前のその発言も、俺を非難するような視線も、まだ現実を見れていない青さの象徴。もっと人と関わり、自分と向き合った方がいいな。この男子は。


「ティッシュやるから。これで涙拭いて」


「……ごめん。てるくん……」


 ん? てる……くん?


「おい、お前。すっかり興味を失ってたが、名前はなんだ」


「あ? 俺の名前は、追荻照ついてきてるだ。別に大した名前じゃねぇよ」


「はぁ!? て、てる……お前、俺と同じ名前の読みじゃないか! なのにストーカーしていたのはミナちゃん!? 許すまじ!」


「なにがどうなってそんな怒ることになるんだよ……」


 同じ名前の読みをする俺に対して嫉妬し、弱点を暴いてやろうとストーカーする思考回路になってなかったのかこいつは! 頭どうなってるんだ!


「おい、追荻! なぜ俺に嫉妬してないんだ!」


「今そんな話をする場じゃないだろ! ミナが人生で初めてした告白を、お前は直球でぶち壊したんだぞ!」


「だからなんだよ! 初めては誰しも怖いものだ! 初めてがダメだったなら、また俺に告白しにくればいい話だろ!」


「……ま、また……?」


 追荻もミナちゃんも、その言葉の意味が分からないとばかり疑問の視線を俺に向ける。俺はそれに対して、自分の発言が何もおかしくないことを主張する。


「一度の告白で折れるなということだ。何度でもアタックしにくればいい。その時、ミナちゃんが俺の好みに合致する相手だと判断したら付き合うさ」


「結構な上から目線だな……」


「自分が付き合いたいと思える異性じゃないと交際しない。この考えの何が上から目線か。人は変われる。ミナちゃんはまだ自分と向き合えていない。まだ粗削りもしてない状態じゃないか」


 今のミナちゃんを、自己研鑽すらしてないミナちゃんを、俺は当然受け入れられるはずもない。なぜなら単純明快。俺の好みじゃないからだ!


「自分を魅力的に見せること。それはリスクも伴うが、同時にリターンも得られる。この世は、ノーペインノーゲインだ。俺と付き合いたいというなら、何度でも告白してこい! 逃げずにおもいてやるさ!」


 言い切ってやった。これ以上ないほどに。そんな俺に気圧けおされたか、追荻もミナちゃんも唖然としている。幸か不幸か、ミナちゃんの涙も引っ込んでいた。


 もうこれ以上、俺はここにいる必要もなさそうだな。


「俺からの話はこれ以上ない。もうここにいる必要はないから、帰らせてもらう」


 ミナちゃんの告白は断った。だがリベンジを許してしまったからストーカー行為は続くかもしれない。


 だが、それでいい。彼女にとってチャンスがあるということは、きっと救いになる。それに、あの追荻という男子がいる。失恋しても追荻に……あっ。


「そういえば一つ言い忘れていた。おい、追荻! もしストーカーするならミナちゃんと一緒にしろ! ただし法に触れないはんちゅうで、だ! いいな!」


「え? いや別に俺はお前のことストー」


「いいな!?」


「……お、おぉ……」


「よし! それじゃあ、俺は帰る。二人も気を付けて帰れよ」


 これでいい。ストーカー行為は見なすが、さすがに住居侵入とかしてこられたら面倒だ。こうやって分からせておくことが重要。


 そして帰り際、帰路に付く二人の心配までする気の配りよう。さすが俺。やはりイケメンは余裕があってこそだ。


☆★


 今日も今日とて、黄色い声援が俺の周りを囲い込んでいた。しかし、こうも慣れてくると飽きが来るもの。だけど女子達は俺を放ってはくれない。まったく……モテるのも大変だ。


「ねえ、輝。ストーカー……? なのかな。なんか、カップルっぽい二人が後を付いてきてない?」


 校門を抜けてしばらく、朋があまりに怪訝そうにずっと後ろを気にするから、俺も仕方なくそのストーカーとやらを後目に確認する。


「なんか……新手のストーカー? みたいな」


「あー、大丈夫。あれは既に調教済みだ。問題ない」


「調教済み……?」


 ミナちゃんと追荻。二人が並んで物影から俺の方をじっと観察している。いつの日か、またミナちゃんが俺に告白してくるのだろう。


 その証拠に、ミナちゃんの髪型は昨日の貞子のようにただ髪を垂らしているのではなく、ちゃんとわえてそのご尊顔が拝めるようになっている。


 さすがは俺! 昨日の今日で一人……いや、二人分の人生を変えたといっても過言じゃない。美男で天才だからこそ差し出せた救いの手。


 やっぱ俺は、モテても仕方ないほどの天才美男ってことだな!


「これでストーカーしてきた子の数は十人になるな!」

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