行き先は、どちらまで? 〜タクシー運転手とワガママな八人の乗客〜

ちさここはる

乗客0: ハンドルを回せ!

乗車0 運転手 尾田藤太

「ダンマルちゃん。今日は本当に乗客がいないわ」


 ――『藤太さん。移動しなさい』


 車のエンジンをかけたまま旭河アサカ市の街外れで路上駐車して、俺は乗客を待っている。


 今日はまだ乗客が来ない。いや、路に人影がない。俺だって真剣に考えはいるんだよ。


 本当に考えてはいる。でも、動き回ったってガソリンを減る。エンジンをかけている時点でガソリンも喰われていく。


 道路をまったり走らせるにしても、同じこった。


「さぁて。どうしたもんかねぇ」

 

 窓の外に見えるのは真夏の太陽。俺はタイを緩めながら舌を出していた。お茶の中身だってとっくに中身が生温いんだ。


 地獄を味わう俺に、さらにダンマルちゃんが強い口調で背中を押してくる。もう少し優しくしてくれたってバチは当たらないと思うんだけどなぁ。


 ――『現実世界こっちでの収入を得て下さいよ、藤太さん』


「はいはいはいはい。分かってる、わかってますってのよ」


 ――『口だけではなく結果が欲しいんですけどね、現生を持って帰って来てくれればいいんですよ』


「容赦ない弟君だこと」


 チクチクと棘のある言葉をいうダンマルちゃんとは、十七丁目の異世界あっちで出会って意気投合した。結果、こうして現実世界の北海道で、一緒に仕事ビジネスをしている仲間だ。


 ただの仲間じゃない。立派な相棒だ。

 ダンマルちゃんは、自称二十四歳の青年設定。


「兄ちゃん、悲しいよ」


 俺とダンマルちゃんは兄弟になっている。正式に母さんも養子縁組に協力してくれたからさ。母さんはよくも悪くも奔放で、何もかも軽い人で三人姉弟の父親が全員違う。

 

 飽き性と手に負えない母さんは付き合う相手との性格や相性が悪く、長く続いた試しがない。男運が最悪なんじゃないかな。


 他の姉弟も、同じ意見だ。種は違えど、仲はいいんだ。俺たち姉弟は。そんな可哀想な母さんでも俺たちは尊敬している。ここまできちんと育ててくれたんだからさ。


 ダンマルちゃんに関してもそうだ。本当に感謝しているよ。

 一切の迷いも、ダンマルちゃんの素性も聞かずに、どうやったのか、ダンマルの戸籍も手に入れたんだから。謎の人脈も、いつかは聞きたいが、少し怖い気もする。

 

 それはそうと。俺の仕事ってのは、【個人タクシー】だ。

 略して【個タク】ね。

 

 会社の名前は《ツインタクシー》だ。たった一台のタクシー車が稼ぎ頭である。


 ダンマルちゃんは免許がない。しかも車酔いをする体質だから、会社からの依頼者との繋ぎ役の事務仕事が、ダンマルちゃんになったって訳だ。


 今ならいい酔い止めの薬があるんだし、そろそろ免許をとってもらいたいもんだよ。

 

 さて。稼ぎ頭がいても乗ってくれる客がいなけりゃあ――稼ぎもない。


「そっちの事務所は、冷房ガンガンな訳ーダンマルちゃーん?」


 ――『窓からの風で十分です』


「あ、っそぅ~~さすがは熱さに強い種族ね。冬の北海道ここなんか快適なんだろうねぇ?」


 ――『真冬なんかは沖縄に引っ越したくなるけどね。君を置いて』


 思いもしない心の露に、俺も苦笑を漏らした。置いて行くな、この野郎め。


「ひっどいこと言うね~~俺とあンたは、運命共同体じゃなかったのかな~~?」


 皮肉と俺もダンマルちゃんを責めたときだ。薄く曇った頭上の空から大粒のものが――ポツ。と雨粒がフロントガラスに当たって弾ける。


「あれま」


 ――『雨が降って来ましたね。降水確率なんかなかった気がしますけど、まぁ、いいんですけどね』


 ポツポツポツ――……確かにと俺も空を見上げた。いつの間にか、真っ黒い雲が空を覆い隠している。


 ――『さぁ! さぁ! 稼ぎどきですよっ。藤太さん! 走った、走ったぁアっ!』


「ははは。はい、はぁ~い」


 俺がタクシー運転手になったのは二十一歳のときだ。特に進路を考えるでもなく、将来の夢もなく。取りあえず、食っていけるだけの金があればいいやって。気楽に考えてた。


 車を運転することが好きな縁こともあってタクシー運転手になったんだ。大粒の雨が総てを覆い隠す。厚手のカーテンのようだ。


「何なんだよ、このバケツをひっくり返したみてぇな大雨はよぉう」


 俺は苦笑交じりに、皮肉を言っていると。


「ぉ、おっと! 乗客だっ!」

 

 腕を高く伸ばし、びしょ濡れになっているサラリーマンがいた。ウインカーを点け、俺はサラリーマンへと後部座席のドアを開ければ、びしょ濡れのサラリーマンが慌てて中に入って来る


「っひゃ~~助かったよ! どのタクシーも、みぃんな乗ってやがって! っは~~参ったね。こりゃあ~~」


 乗って早々に。サラリーマンが愚痴った。彼の全身が雨に濡れていた。そりゃあそうだ。案の定。座席も、びしゃびしゃに濡れていくのが見えた。


「タオルをお使いになりますか? お客様」

 

「ああ。いいのかい? じゃあ借りようかな? えぇと……尾田藤太オダフジタ、さん」


 サラリーマンは俺の名前を確認するように告げた。それに俺も自己紹介をする。


「はい。運転手の尾田藤太です」



******


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