私の神様へ

朝比奈夕菜

プロローグ

プロローグ


『私、佐保さほの描く絵が大好きよ』




 懐かしい声が聞こえた気がして、ふと、意識が浮上した。

 いつのまにか眠ってしまっていたようで、凝り固まった首を右手でほぐす。スマホで時間を確認すると、到着まではまだしばらく時間がかかる。

 メッセージアプリを開くと、大学の友人から連絡が入っていた。

 本当なら今日から新学期で大学に登校する日なのに、私は高速バスに揺られて大学から遠く離れた地へと向かっている。

 友人からは体調を心配するメッセージが送られていた。

 なるべく心配をかけないようにしなければ、と悩みに悩み、祖父の体調が良くなくて家の仕事を手伝う為に前期は休学する、と言う文章を送った。

 休学を決めたのは祖父の為ではなく自分の問題でもあるのだが、嘘ではないので申し訳なく思いながらも言い訳に使わせてもらう。

 メッセージを送るとどっと疲れた。もう一度眠ろうと目を閉じるが、残念ながら再び眠気が来る様子はなく、諦めて目を開けた。

 今バスがどの辺りを走っているのか気になり、閉めていたカーテンを開けると強すぎる光に眼がくらむ。

 目をしかめながら外を眺めると、雲ひとつなく晴れた空の下、空よりも濃い青色をした海がどこまでも広がっている。

 ちょうど橋の上を渡っているのだろう。海面はキラキラと魚の鱗のように日の光を反射していた。

 まるで美しい生き物のようにも見えて、清々しい空気も相まってとても美しい景色なのに、自分の心は一ミリたりとも動かず、どこか虚しく感じた。

 こんな絶望的な気持ちを抱いている時にも、自然の風景はどこまでも美しい。

 それがとても残酷に感じた。

 いつから、私は自分の世界を見失ったのか。

 それすら分からない。

 もう一度見つけられるのか、見つけたところでどうするのか、今の私には何も分からないし、今は何も考えたくなかった。

 何を見ても心が動かず、昔のように何かを生み出したいという衝動は二度と来ないのかもしれない。

 まるで泥の中に埋められたように、息ができず、身動きが取れない心地だった。

 このままゆっくりと泥に沈むようにダメになるのかもしれない。

 揺るがないと思っていた自分の根幹が大きく揺らぎ、これから何を信じて生きていけばいいのか全く分からなかった。

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