ぷれてんどがーる~昔飼っていた猫のフリをした少女の恩返し~
ほわりと
track1「プロローグ」
昔、実家で白猫を飼っていた。名前はタマ。
ご飯をあげているうちに我が家に住み着いた、平凡な家に飼われた平凡な名前の元野良猫である。飼うと決めた時に
田舎だったこともあり、タマは猫まんまという名の人間と同じ食べ物を毎日食べていた。歳をとってからは健康的な老猫用パウチを食べさせようとしたが、薄味だったこともあり中々食べてはくれなかった。全く、
そのせいなのかは不明だが、十七年一緒に過ごした後、実家の
そういえば毎日のようにタマに会いに来ていた子供は今頃どうしているのだろう。いつも麦わら帽子を被っている
なぜ俺がこんなことを考えているのか。それは単純明快。ちょうど今、走馬灯のようなものが見えているからだ。最後にアパートで休んだのはいつだったか。一人暮らしを夢見て実家から遠い職場に就職したものの、内定した会社がブラック企業のそれだった。転職しようにも休みがなく、気づけば社畜歴七年のプロの社畜に成り果てていた。
足がフラフラだ。
体が重い。目眩もする。
それでも帰省本能で歩き続ける。
「……こと、覚えてい……」
耳鳴りまで聞こえてきた。方向感覚なんて、電車を降りた後くらいから既におかしかった。ああ、もうダメかもしれない。次の瞬間、体がぐわんと揺れて、俺はその場で倒れた。
「……ですか!? 救急車呼……いと。あれ? 何番にかけ……ば……」
何かが目の前で慌てている。近くに誰かがいたようだ。微かに瞼を開けると、見覚えのある白い毛が揺れていた。
「……タ、マ? そうか、ここ、は……天国……」
「……って、……ちゃん……とですか? あっ、それよりも。よかった。意識はあるんですね」
一瞬、タマに見えたが猫は喋ることができないし、ここが天国だとしたら体が悲鳴をあげているのはおかしい。目の前にいる少女の髪だということを脳が理解するまでに数十秒かかった。
「今、救急車を呼ぶので待っていてください」
「つ、疲れてるだけ……近くに家、あるから……」
「……家はどこにあるんですか?」
精一杯の力で救急車を断る。今日のは一番酷いものの、いつも通り寝れば勝手に治るだろう。通りかかっただけの人に迷惑はかけられない。そう思ったが、目の前の少女は俺の面倒を最後まで見るつもりらしい。
もう話す気力なんてない。仕方なく転倒時に放り投げていた鞄に視線を向けると、少女は察したようで中身を漁り、財布から免許証を取り出して住所を確認した。
「このアパートなら知っています。えっと、その……歩けますか? 肩は貸すことができますが、私の力だと背負うことはできないので……」
言いたいことはわかる。この少女が成人男性を運ぶには力不足。いくら親切な少女でも知らない男に肩を貸すのは気持ち悪いはず。そう思い、立ち上がって一人で歩こうとすると足がふらつく。
「ほら、肩を貸すことはできるので帰りましょう。この鞄は私が持ちますね……って、重い。これ、何が入ってるの?」
その言葉に、つい苦笑いを浮かべてしまう。本来なら持ち帰り厳禁だが、その中には
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