第18話 彼女の趣味も変わっている
「なあ、千波。ちょっと良いか?」
「何?」
「大きな声じゃ言えないな。こっち来てくれる?」
月曜になり、朝バッタリと朝練が終わったばかりの千波と廊下で会ったので、早速麻衣先輩にライブに誘われた話をしてみる。
麻衣先輩の事が知られるとまずいので、一応人気のない場所で話した方が良いかと思い、近くの空き教室に千波を連れて行く。
「んで? 話しって何? 麻衣先輩とデートするから、許してとか言うなら、この場でしばくけど」
「違うって! いや、麻衣先輩に関わる事ではあるんだけどさ」
「〜〜……!」
「い、痛いって!」
麻衣先輩の名前を出した途端に千波はムッとした顔をして、俺の耳を引っ張る。
「全く浮気を許せとか、彼女によく言えるよね。あまりに無神経で感心しちゃうよ。良い意味じゃないけど」
「浮気じゃないって! ライブに誘われたから、千波も一緒にどうかなって思ってさ」
「はあ? 行くわけ無いでしょ」
「そっか。じゃあ、俺一人で行くけど文句はないな。あー、麻衣先輩のライブ楽しみだなー」
「こ、このガキ……どこまで性格腐ってるのよ……」
敢えて挑発的な口調で言うと、千波も顔を引き攣らせて、俺を睨みつける。
マジでブチギレそうな感じだったが、千波は俺とは意地でも別れる気はないっぽいのが、よくわからんのだよなあ。
「嫌なら、一緒に行こうよ。千波だって喜ぶよ」
「あの先輩がどう思おうがどうでも良いの。別に私の友達でもないし、人の彼氏にちょっかい出す最低の女じゃない。そんなにデレデレしているタカちゃんも最悪だけどね」
「う……そこまで言うなよ。どうしても嫌なら一人で行くからさ。チケットくれるって言うし、もったいないだろ。友達に上げるのもなんか違う気がするしさ」
「ああ、もうっ! とにかく私は行かないからねっ!」
と言って、千波は教室から出て行ってしまった。
あーあ、怒らせてしまったか。まあ、千波が行かないなら、俺は一人でも麻衣先輩の……いや、宮下メイのライブに行ってやるわ。
単純にアイドルの応援をするだけだったら、浮気にはならないはずだ。
そういう解釈は自分勝手という訳ではあるまいて。
そして夜中になり――
「ん? 先輩からだ。はい」
『はーい、高俊。今日も元気していた?』
「ええ。先輩はいつも元気ですね」
『あはは、それが取り柄って、いつも言っているじゃない。昨日の動画でも言ったよ」
昨日の動画ってスプリングスターズの動画らしいが、それは俺は見ていなかったな。
毎回見ている訳じゃないってのは、ファンとして失格だったかな。
『まあ、それはどうでも良いけど、今度のライブ来てくれる?』
「俺は良いですよ」
『ありがとう。二枚送るから、千波も誘ってよ。二人に私の晴れ舞台を見せるんだから」
「千波も誘ったんですけど、何か嫌がって……」
『ふーん。千波にも見てほしいんだけどなあ。友達になれたんだし』
友達って、少なくとも千波は全くそうは思ってないみたいだけど、この人もなかなか一方的な人だなあ。
「千波の方はあんまりよく思ってないみたいで……」
『ふふ、そうかもしれないけど、私は良い友達になれるって信じているよ。だって、良い子じゃない、彼女。あなたの事を好きになっている時点で私と同じ趣味をしているって事だし、性格も似ているでしょう』
確かに性格は二人とも陽キャで押しがとんでもなく強いって所は、本当に共通している。
とはいえ、性格が似ているからって仲良くなれるものなんかよくわからんけどな。
「一人でも行きますので。でも、あまったチケットはどうしようかな……」
『千波は絶対に来るから、安心して。あなたを一人にする気は絶対にないから』
「そ、そうですかね。何か子供扱いされているんですかね」
『ハハハ、放っておけないんだよ、高俊の事。言い方は悪いけど、手のかかる子供ほど放っておけないって言うか』
手のかかる子供って……それじゃ、すっかりママじゃん。
ま、そういうつもりなら、こっちも際限なく甘えさせてもらおうっと。
『それでさー、今度二人で会わない?』
「え? いや、ははは……流石に二人きりで会うのは抵抗ありますけど」
『大丈夫だって。明後日、レッスンオフだから、放課後にでも会おうよ。ね? 私の家なら、誰にも見られないって』
「う、うーん……」
折角のお誘いだが、こっそり麻衣先輩と二人で会うってのはちょっと浮気を疑われかねないことなんで、まずい気がする。
まあ、バレなきゃ大丈夫かな。
別に疚しい事をする訳じゃないだろうし、麻衣先輩の
翌日――
「千波、今日は放課後、部活?」
「そうだけど」
「あ、そうなんだ。はは、残念だな。一緒に帰ろうとしたんだけど」
朝、彼女に会うなり、千波の予定を確認すると、やっぱり部活だったのでホッと一息する。
「何で明日の予定を聞いてくるのかな。超怪しいんだけど」
「え? いやー、別に。麻衣先輩と会う約束したとか、そんなことは全く……あっ! 言っちゃった♪」
「…………」
とわざと口を滑らせて、麻衣先輩と約束をしたことをしゃべってしまうと、千波も心底呆れた顔をして、溜息を付く。
最初は隠そうかと思ったけど、多分、麻衣先輩が口を滑らせそうなので、いっそ先手を打ってやることにした。
「まだ懲りてないんだ、このクソバカダメ彼氏は……今度は骨の一本でも折ってやろうかな……」
「い、いや。冗談だって」
「冗談じゃないでしょ! わざと私を怒らせようとして、言ったでしょ今のはっ! 何で断らないんだよおおお……」
「いてててえええっ!」
思いっきり首を絞められ、窒息しそうになる。
「はあ、はあ……何が痛いよ。私はもっと心を痛めているんだけど! ええ、どう責任を取る気よ?」
「埋め合わせはするからさ。本当、何も疚しい事はしないから。先輩にどうしてもって言われて」
「許すわけないでしょ、そんなこと。今からでも断れ」
「い、嫌って言ったら?」
「ここで骨でも折ろうかな。いや、それだと腕の一本、本当に差し出しそうで嫌かも。なんせ相手は人気アイドル様だし」
流石に腕の骨を折られてでも行く気はないが、この前みたいな寝技の練習ならしても良いかも。
そのくらいで浮気を許してくれるなら寛大も良い所じゃないか。
「タカちゃん、私の事、本当に好きなの?」
「好きだよ。千波は?」
「く、あっさりと……私もタカちゃんの事、好き……だし、どんなに屑でも嫌いになれないし、別れるのは絶対にしたくないのが悔しいけど、私を怒らせた報いは必ず受けてもらうよ。そのことを覚えておくことね」
「は、はい……いや、はは……愛されてるんだな俺、いててっ!」
「そう思っているなら、甘えるんじゃないっ! ほら、もう行くよ! 遅刻しちゃうじゃないっ! あんたの根性、本当根っこから叩き直してやるんだからねっ!」
そこまで俺の事、好きってのはちょっと異常に感じたが、千波も流石に怒っているようで、耳を思いっきり引っ張って学校まで連行していく。
すっかりダメな男になったなー……でも、千波に甘えるのも悪くないかも。
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