ショートショート 48音の物語

仁井 海夢

第1話 赤い靴の記憶

朝。目が覚めたら枕元にあった。

赤い靴。


家には私しか住んでいない。一人暮らし。

なぜここにあるのかまったくわからない。


昨日はどうやって布団に入ったかも思い出せない。

スマホを見る。高校の友達と偶然再会して、そのまま飲みに行ったらしい。


メッセージが一件。

「昨日は楽しかったね!また飲も~!あとおめでとう!」


……おめでとう?

祝われるようなことは何もなかったはずだ。


準備をしながら赤い靴に目をやる。

飲みの席でふざけて持ち帰った?それとも友達の忘れ物?

わからないまま電車に乗り、職場でLINEを返した。


「ごめ~ん!昨日楽しすぎて覚えてなくて。おめでとうって何だったっけ?」


すぐ既読がついた。数分後、返事。

「またまた~!また祝ってほしいのか?」


……ごまかしている? しつこくやり取りすると、とうとう返ってきた。


「ここまでしか言えない。赤い靴、選ばれてくれて。ありがとう」


その言葉の後、どれだけ問いかけても返信はなかった。


帰宅後、ふと、靴が目に入る。

不思議だ。

本当は問いただすべきなのに、なぜか「深く考えてはいけない」と思ってしまう。

触れてはいけないことに触れようとするような、そんな嫌な直感。


私はただ、赤い靴を見つめていた。

祝福のように。呪いのように。

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