49品目 旬の「カキフライ定食」
「おおすごい! 『カキフライ定食』が点いてるよ純ちゃん!」
「何だって!」
券売機にお金を入れた私たちは、いつもは出せない状態の『カキフライ定食』が点灯しているのに気づく。
この品は冬季限定であるうえに、どうもカキが安く仕入れられた時にしか提供されないようなので、半ば食べるのを諦めていたところでもあったのだ。
この機を逃しては、次に邂逅できるのは来年の冬になってしまうかもしれない――。いやさ、卒業するまで拝めないかもな……。
実際そういう先輩たちもきっと数多くいるのだろう。彼らの未練を後輩である私たちが解消するという意味でも、ここは美味しくいただく一択だ。
という訳なので。
「はい! こちらが学食『カキフライ定食』となっております!」
店員風のさと子が、テーブルにのった品をフィーチャーしてくれる。多めのパン粉で揚がったサクサクカキフライと、あとはご飯とみそ汁が付いていた。
「純ちゃん何で食べる?」
「そうだなあ……」
そのままでもいいし……。醤油かウスターソースでもいいよなあ……。
私が迷っている間に、さと子さんは『調味料コーナー』から自分のちょい足しアイテムを持ってきた。
「あたしはこれ! カキフライにはタルタルソース~」
ご存じゆで卵とマヨネーズのもったりとしたソース。海鮮系フライとの相性は控えめにいって抜群だ。
「あっ、いいな。私もそれにしよう」
「うい」
二人して自分のカキフライにタルタルをかけていく。1個はそのままでいただきたかったので、あえて何もかけずにおいた。
「「いただきます」」
調味料コーナーにソースを戻したら、手を合わせて実食。何もかかっていないやつを箸で掴んで、ふーと軽く冷ましてからかじった。
……おお。さすが"海のミルク"。濃厚だ……。
サクッとした衣の中から、とろーりクリーミーな旨味が溢れてくる……。美味しさの海に溺れそうだった。
いやもう自分でも何言ってるかわからんが、とにかくそれだけカキフライは旨い。この高校に入って良かったと、私はこの学食『カキフライ』との出会いに感謝した。
「美味しいねえ~。タルタルソースとのコンビももはや殿堂入りだよ」
さと子も頬に手を当てながらで堪能している。見るからに幸せそうな顔で、ご飯と一緒に頬張っていた。
私も"タルタルバージョン"のやつをパクリと。揚げ物と濃厚ソースとのハーモニーが口の中で奏でられた。
「美味しい……」
この四文字以外に言葉が出ない……。本当に美味なものを目の前にしたら、培ってきた語彙力など無意味だ。
ひとしきりカキをありがたがったところで、さと子がこんなことを口にした。
「思い出すねえ~。タルタルソースといえば、純ちゃんと初めて出会った時のことをさ」
「ん? ああ……」
あの『エビフライ定食』の時の――。確か、さと子がタルタルソースについてスマホで検索をかけたんだよな……。
「お互い初対面で気まずかったからね。まあ話題作りですよ」
あれから色々なことがあったよなあ、と――。さと子と出会ってから今日までの学食生活に思いを馳せて、私は少々じんと来てしまった。
騒がしかったり、困らされたり、呆れさせられたりする毎日だが――。そんなさと子との日常が、私はもうはっきりと好きだ。
「どうしました純ちゃん? お箸が止まっておりますわよ?」
おっといけない……。今さと子に悟られる訳にはいかないな……。
今までの感謝をさと子に伝えるのは……最後のメニューを食べ終わってからと決めているのだ。
「うん……ちょっとあまりの美味しさにな」
「わかるよ~。相原家でもめったに出ない貴重なものだからねっ」
カキに関する雑学などスマホで調べつつ、今日も楽しい二人での食事を終えた。
『2月27日 カキフライ
これで"表メニュー"全49品をいただきました! 残りは50品目の"裏メニュー"ですっ!
純 & さと子』
しっかし、そんな"裏メニュー"なんて本当にあるのだろうか……。券売機にボタンが並んでいる通常メニューをすべて食べたら注文できるという噂だったが……。
さと子が「その辺ちょっと訊いてくるね!」と言って、学食カウンターへと駆けていった。
……何やらスタッフの一人と話し込んでいる。しばらくして、さと子はいい顔をして戻ってきた。
「出してくれるってさ! 特別なメニューだから、準備に時間がかかるとは言ってたけどね」
「へえ?」
ということは、本当に実在する品なんだな……。先輩たちがテキトーに流したデマとかではなかった訳だ。
品を出すタイミングについては、学食側が指定することになるらしい。きっと特殊な品なので急に言われても出せないとか……よくわからんがそういう事情なのだろう。
ちなみに私とさと子が通常メニューをコツコツ制覇していったことは、学食側は"まとめノート"を読むことで把握していたそうだ。
「ああ……。毎回『純 & さと子』って名前と、メニュー名も日付付きで書いてるからな……」
あれ読まれてたのか……。何気なく吊り下げられてる『感想ノート』だし、てっきり誰も読んじゃいないだろうなんて思っていたのだが……。
(さと子関連のこっぱずかしいこととかも書いてた気がするな……)
普段口では言えない友達への思いとか……そういうものも書いてしまっていた気がする。本人に直接読まれた訳ではないが、第三者に読まれるのもやはり少々恥ずかしい……。
などと考えていたところで、さと子さんがこんなこと言い出してきた。
「あたしもちょっと振り返りがてら読んでみようかな、自分が書いた"まとめ"」
『純 & さと子』と刻まれた項目をざっと読み返してみようかなとか呟いていた。私は「え゙っ」と苦い顔で反応する。
「や……やめた方がいいんじゃないかな? 思い出はあえて紐解かずに、そっと胸の中にしまっておこう」
「え~? たまには開放してやったっていいじゃんー」
吊り下げられたノートを取ろうとするさと子。私はマンツーマンディフェンスで取られまいと防いだ。
「なんで邪魔するのさ純ちゃんのいじわる~っ!」
「だって読まれたら恥ずかし……! あっ、ほらもうチャイム鳴ってる!」
授業開始5分前の合図。私にとっては歓喜をもたらす福音だ。
ノートを読み返すこと叶わずに、さと子は舌足らずな舌打ちをする。
「ちいっ! 次は移動教室か……。急がねばっ!」
助かった……。気恥ずかしいメッセージをさと子に暴露してしまうことなく、私も後を追って自分の教室へと戻った。
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