44品目 病み上がりの「カレーうどん」

 今日は珍しくさと子がいない。私が一人でテーブルについていると、やがて一人の女子生徒が声をかけてきた。


「あの……1組の人見ひとみさん?」

「? はい……」


 その人は八城やぎと名乗り、さと子と同じ3組の生徒であることなどを簡単に自己紹介した。


「相原さんね、今日風邪でお休みなんですって」


 私は既にさと子とのLINEで知っていた事実だったが、彼女がここにいない訳を教えてくれた。それで私に声をかけてくれたのか……。


 たいした熱ではないそうだが、周りの生徒にうつさぬよう念のため欠席。週明けには復帰するだろうと、八城さんはさと子のことをよく知っている風な口ぶりで話していた。


「そうなんですね。どうもありがとうございます」


 むろん八城さんは、親切心から私に情報連絡を回してくれているだけだ。いつもさと子と相席している私が、彼女の不在に困惑しないようにと……。


 それでも、3組内でのさと子のことを知る八城さんに、私は小さな嫉妬心のようなものを芽生えさせていた。


「相原さんからよく聞いてます。人見さんのこと」

「え……?」


 さと子が? 私のことを、3組教室内などでよく話すというのだろうか……。


 八城さんは柔和な笑みでにこりと微笑んだ。


「ええ。毎日お昼の時間が楽しみなんだって、嬉しそうに話していますよ?」

「……そうなんですね」


 さと子って、私とのやり取りをそんな風に思っていてくれてたんだな……。本人からふざけた感じでラブコールを受けることはしばしばあったが、こうして第三者的目線から明らかにされるのは初めてだ。


 そこまで考えたところで、私はずっと八城さんを立たせていた状況にはっと気づく。慌てて向かいの席を勧めた。


「あの……もし良かったら相席しませんか?」

「え……。いいんですか?」


 八城さんは普段この席にさと子が座っているのをやはり知っているようで、そこに自分が腰を下ろして良いものか若干迷っている風でもあった。私とさと子の二人に気を遣ってくれているのだとしたら、とてもいい子だよな……。


 どうぞと再度促すと、上品な仕草で座ってくれた。「いただきます」と手を合わせたのち、自分のメニューに箸を入れている。


 私たちはその後も二三の雑談を交わしたが、やはり相手がさと子でないとどこかしっくりこない部分がある。決して八城さんとの会話が退屈な訳ではないのだが……。


 要はもうそれだけ、私がさと子のことを大切に思っているということだった。










 週が明けて、今日は月曜日。先週風邪で一日休んださと子が復帰した。


「お待たせしましたね純ちゃん! さと子、復活!」


 大げさな身振りでシャキーンと万全の体調をアピールしている。事実具合は良くなったようで、マスクを取るといい顔色をしていた。


「さぁて。今日は純ちゃんセレクトの『カレーうどん』ですね~」


 とろみのついた温かいカレー汁。それに具材のネギは病み上がりの体に効くと思って、私が品を選んでおいたのだ。


 いただきますをしたさと子は、制服に汁が跳ねないよう注意しながら食べている。太い麺をすすったところで、顔を上げて私に尋ねた。


「あたしがいなかった日、純ちゃん誰かと相席とかした?」

「ああ、3組の八城さんと」


 私がさと子以外の人物と食事していたと知って、さと子はやきもちを焼いたようだった。


「あたしがいない間に、純ちゃんときたら……。これはもう浮気ですよ浮気!」

「怒んなよ。ちょっとおしゃべりしただけだって」


 ぷんすかと頭から湯気でも噴きそうなさと子を見て、私は可愛らしいと感じる。改めて彼女が大切な存在であると実感した。







『12月18日 カレーうどん


 これで通常メニュー44品完食! あと5品で"裏メニュー"を拝めます!


                           純 & さと子』





「ああ、あったなそんな話……」


 確か"表メニュー"49品をコンプリートしたら、ラスボス的ポジションの50品目――。最後のひと品を開示することができるとか何とか。


「ここまで来たら全メニュー制覇しようぜい! 純ちゃんもそれでいいよね?」


 さと子はやる気満々のようだ。相変わらずだな……。


 まあ"幻"の隠しメニューとされていた『鯨の竜田揚げ』もいただいたし、あとは季節限定メニューとかを食べていけば、本当に全制覇できちゃいそうだよな……。


「そうだな……。せっかくだし拝んでみるか」


 それほど興味がある訳でもなかったが、とりあえず軽い気持ちでそう返事しておく。同時に、私は心の中であることを決めた。


(全部の品いただいたら……。その節目に、さと子への日頃の感謝を伝えるか……)


 普段は素直になれずありがとうなど口にできない私。いつも学食の時間を共にしてくれることに対して、改めてお礼とかが言いたいと思ったのだ。


「おっし! じゃあ今日もうひと品くらいおかわりいっちゃおうか!」

「一日ひと品で十分ですー。もうお腹がいっぱい」


 ペースを早めたがるさと子をいさめつつ、愛しい思いを胸に秘めて学食を後にした。










―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



【お知らせ】



 ここまで毎日投稿を続けて参りましたが、仕事の方でトラブルが発生しており、執筆時間を確保するのが難しくなってしまいました。


 たいへん申し訳ないのですが、これからは隔日でのお届けとなります。最終話までは必ず書き切りますので、ご理解いただければ幸いです。


 いつも応援ありがとうございます。失礼します。




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