39品目 庶民の「焼きそば」

 本日はB級グルメの代表格。ザ・焼きそばなスタイルのソース『焼きそば』だ。


「う~ん。ソースの濃ゆい味つけがたまらんねえ~」


 さと子はうまそうに炒められた中華麺をもしゃもしゃやっている。豚肉・キャベツなどの具材も気に入ったようだ。


「夏祭りの屋台でも食べたよね、焼きそば。純ちゃんと一緒に」

「ん? ああ……」


 お盆あたりにさと子とともに出かけた地元の夏祭り。焼きそばは屋台グルメの定番でもあるため、鉄板で焼かれたものを一緒にいただいたのだ。


「あったなそんなことも……」


 さと子は元々あまり焼きそばを食す機会がなかったようだが、あの日を境にプチブームが到来したのだという。


「なんかほかの焼きそばとかも気になっちゃってねー。今まで食べたことなかったけど、カップ焼きそばにも挑戦してみたんですよ」


 わりとお嬢さま育ちのさと子さん。私が庶民感覚を養う(?)ようになるまでは、カップ麺のたぐいなど試すことはほとんどなかったらしい。


「純ちゃんの言ってたことがわかった気がするね、食べてみて。カップ焼きそばはもはや焼きそばとは違った別の料理」


 そう、そうなのだ。実際カップそばっていってるのに焼く工程入ってないし、別の食べ物と考えた方が私はしっくりくる。


「そんなことも話したな……。懐かしい」


 さと子との思い出がどんどん増えていく……。一つひとつは他愛のないただの雑談かもしれなかったが、たまに振り返ってみると悪くない思いがするのだ。


「今では天体観測のお供って感じですよ。家のベランダから深夜に星見る時とかさ、そばにカップ焼きそば置いて補給するの」


 小腹が空いた時に、夜食としてつまむのだという。トッピングにマヨネーズをぶっかけることもあるそうだ。


「深夜にマヨネーズトッピング……」


 背徳の味だな……。やってることは天体観測なのに、もうロマンチックなのか何なのかわからん……。


「……ふうっ。ごちそうさまでした。あ、口に青のりついてるあたし?」

「ちょっと……。もうちょい右の辺」


 学食『焼きそば』を食べ終えたさと子が口をティッシュで拭く。私は向かいの席から方向などをディレクションしてやった。


「よっし! そんじゃ"まとめ"のノートいくぜい!」


 私も遅れて完食し、手を合わせてごちそうさま。返却口にトレーを戻してから、いつも通りさと子が『感想ノート』を書いた。







『11月9日 焼きそば


 湯切りのお湯でわかめスープを作っちゃいますよ最近は。あ、カップ焼きそばの話ね?


                               純 & さと子』





 カップ焼きそばのお湯を切る際、そのお湯で即席スープを作るまでに成長(?)していた。満足顔でふふんと胸を張るさと子に、なんだが私は申し訳ない気がしてくる。


 もしかしてさと子って、自分と交わらなければ妙な庶民感覚にも染まらず、絵に描いたようなお嬢さま生活を満喫できたのでは――? これで良かったのだろうか……。


「どったの純ちゃん? 昔治した虫歯がまたふいに痛み出してきたような顔して」

「してませんそんな顔。ただなあ……」


 さと子、お前は良かったのか? 私と一緒に屋台の焼きそば食べ歩いたり、カップ麺にハマるようになってしまったりして……。


 そう疑問を口にしようかと思ったが、結局できなかった。この場ではさと子の天真爛漫な笑顔に流されるようにして、学食タイムを終えてしまったのだ。


「東北の方ではデフォルトでスープの素ついてるらしいよ? カップ焼きそば」

「あー、北海道とかもそうだっけ……」


 さと子がどう思ってるのか知りたいな――。そう心のうちに感じる『焼きそば』の日であった。




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