22品目 あだ名の「ロコモコ丼」

「今日はちょっと変わり種を攻めてみたい気分だぜ!」


 とさと子が言うので、本日はあえて定番から外れたものを探す。券売機の隅の方にあったボタンを、さと子はていっと押した。


「……へえ。そんなのメニューにあったんだ」


 チョイスしたのは『ロコモコ丼』。確か、ご飯の上にハンバーグと目玉焼きをのっけたようなハワイ料理だったと思う。


「あたし初めて食べるかも。純ちゃんは?」

「私もだけど……」


 名前からは異国の香りを感じるが、料理を構成する要素それぞれに焦点を当ててみると、日本でも馴染み深いものだよな……。


「最近はファミレスのメニューとかでも見かけるな」


 日本国内でも普及しつつあるものなのだろう。子供が好きそうなエッセンスが盛り込まれているし、もしかしたらそのうち学校給食とかでも定番化するかもしれないな。


 学食版『ロコモコ丼』をさっそく受け取ってみると、予想通り物自体は日本でもよくある品で構成されていた。


 丼ご飯の上に、デミソースのハンバーグと目玉焼き。小脇に添えられているのは、レタスと小さめのカットトマトだ。


「ほうほう。ありそうでなかった不思議な組み合わせですねえ……」


 確かに、一緒の器に盛られた状態で食すのは初めてだ。「いただきます」して食べながら、いったいどんな起源でこの料理が成立したのか気になった。


「おっ、おいしい。普通にご飯に合うハンバーグって感じでいいですねえ~」


 いい意味でシンプルにうまい丼だった。デミグラスソースと生野菜の相性もいい。


 目玉焼きにもちょんとソースをつけてご飯と頬張ったさと子が、一度箸を置いてからスマホで検索した。


「……『ハワイ島のレストランで日系人が開発。少年客のリクエストから生まれた料理』だって」


 地元の少年がレストランのおかみに、安くてボリュームのある料理を求めたのだという。わんぱく少年が好きそうなメニューだなとは思っていたが、本当にそんな感じで成立していたとは……。


「その少年のあだ名が、スペイン語で"クレイジー"を意味する『ロコ』だったんで、"混ぜる"って意味のハワイ語『モコ』とくっついてメニュー名になった」


 そうですよ? と締めつつスマホをポケットにしまうさと子。ひと通りの解説を終えて、再びハンバーグへ箸を伸ばしていた。


「向こうでは混ぜて食べるメニューなんですねえ~」

「ていうか少年のあだ名がクレイジーって。どんなやつなんだ彼は……」


 自然話題はニックネームのことへと移った。


「純ちゃんはどんなのつけられるの? 中学ん時のニックネームとか」


 さと子とはこの高校で知り合ったので、彼女は中学までの私を知らない。


「んー……。名字が人見だから、『ヒート』とかって呼ばれてたな」


 懐かしいものだな。同じ部活だったあの子たちは、今頃他校でどうしているか……。


「ヒート? あったかそうでいいですねえ~」


 こちらに向けて手をかざしてくるさと子。そんなんしても暖はとれないぞ。


「さと子さんの方は? いま呼ばれてるのでも昔のとかでも」


 相原聡子だから……。さっちゃんとかだろうか。


 私は無難にそんなのを予想していたのだが、さと子の口から出たのはよくわからんワードだった。


「あたしは『こん』だったよ、中学時代のあだ名」

「こん……?」


 どうして相原聡子がこんになるのか……。


「なんか最初は糸こんにゃくからの派生でね~? 『さとこんにゃく』って呼ばれるようになりまして、『さと』と『にゃく』が省略される形となりましたね」


 理由を聞いても結局いまいちピンとこない。糸こんにゃくからの派生って……。なぜ糸こんから端を発するに至ったのか。


「『さとこんにゃく』→『さとこん』→『こん』ってな塩梅ですよ」


 より詳細な流れまで教えてくれる。最終的に本名一文字しか残ってないな……。


「そうなんだ……。こんにゃく好きなの?」

「ん? ふつー」


 じゃあなんでだよ。もうこの件について深く考えるのはよそう……。


「もしあたしがハワイのおかみにリクエストしてたら、料理名が『こんモコ』になってたね」


 なんかこんもりと盛られてそうな名前だ。ハワイのキラウエア火山を連想させる……。


「純ちゃんが頼んでたらヒートモコだよ。なんだかハワイの火山を連想させるね」

「それもうやった。なんか語呂悪いし、やっぱロコモコで正解だわ」

「それもうやったって何? 心の声を聞かせてくれよ純ちゃん」

「熱血心理カウンセラーか何かかお前は」


 私の心の内にグイグイ迫ろうとするさと子をいなしながら、食器を返していつもの"まとめ"に入った。







『9月11日 ロコモコ丼


 客のリクエストから生まれた料理って強いよね。純ちゃんもそう思わない?


                             純 & さと子』





「もう普通に私への質問になってる……」


 学食側への感想でも何でもないな。


「軍艦巻きとか中華丼とか。天津飯なんかもそうらしいですよ?」

「へえ……。詳しいなあさと子」

「あとあれ。青森の『みそカレー牛乳ラーメン』」


 何それ。初めて聞いたぞ。


「みそラーメンにカレーと牛乳がぶっこんであるんだよ。これも学生客のアイディアからできたメニューらしいよ?」


 今ではちょっとした青森名物なのだという。本当かよ……。


「それも食べに行きましょう。今度は冬休みあたりに」

「いや、それはいいわ。さと子さん一人で行ってきて」

「え~? 冬の青森とか寒そうでいや」

「そういう問題? いやだから、私に手をかざしても暖とれないから」


 手のひらを広げてこっちへ向けてくるさと子。何がそんなに楽しいのか、そのままのポーズでてててと私の背中を追いかけるのだった。




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