英雄になるまでノイズつき ~勝ち気な冒険者、英雄目指して相棒とケンカ中~

@tutihugu

第1話 接触

 ((────お嬢!反応が遅い!!このままだといずれ押し潰されるぞ!))


 燃え上がる大地を駆けずり回っていると、頭の中の声が喚きたてる。こいつはいつもうるさい、私はいつも真剣にやっているでしょう!?


 視線を「ヤツ」に向ける。巨大な体躯、ドラゴンのような大顎、鋭く大きい鈎爪、長い尻尾、トカゲは地べたを這いずっていればいいものをご立派に二足歩行だ。


 大地を蹴り、飛び掛かりながら腹であろう部分に殴りかかる。


 「ヤァァァァーーーーー!!」 


 ガキン!と金属質な音がして拳が弾かれる。だが拳は無事だ。



 金色の長髪をなびかせぴっちりした銀色のスーツのような服を身にまとい、巨大なモンスターと戦う女性が一人。



 ((一発で止めるな!サイズで負けてるなら手数で攻めろ!オレの力を使ってその程度か!ほら一カ所を集中して殴れ!殴れ!殴れ!殴れ!))

 「あーー!もう、うるさい!!やってるでしょ!?それでアドバイスのつもり!?アンタは解決策が力押しなのよ!!」


 殴りながら頭に響く声に叫ぶ。危険な状況だが恐怖よりも不満が湧き出て止まらない。

 視線と熱を感じ飛びのく。今さっきいた場所を炎が飲み込む、ドラゴンブレスだ。


 周りを見やると一緒に戦っていた仲間達が倒れた者を引きずって退避しようとしている。


 (このまま時間を稼ぎたいけれどきっと長くは持たない!どうすれば……)


 思考を止め、なりふり構わず突っ込む。今一番戦えるのは自分だけだ。


 「ッどうして私がこんな目にーーーー!!」




 _____________________________________




 「────要は実力不足なのよ、あなた達」


 幾人かの後輩達を椅子に座らせ偉そうに説教をする、気が強く短気そうな女性が一人。


 彼女の名はソラリア。


 ここ多種族合同学園都市「デム=アルディア」で暮らすとある名家のご息女である。家の権威を盾に周りを振り回すのがご趣味のようだ。


 「特にエルモンド!」

 「ひゃいっ!?」


 気の弱そうな男の子の肩がビクッと跳ねる。


 「あなたねぇ、男のくせに剣もまともに振えないってどういう事なの!?ここで学ぶなら少しは武術を嗜んでいないとお話にならないのよ!?この!わたくしが訓練をしてあげているのよ!恥をかかせないで欲しいですわねぇ!!」

 「ぼ……僕はそのぅ商売人になりたくて……」


 可哀想なエルモンド君はボソボソ反論するが聞いて貰えないようだ。


 「ええ、ええ、もちろん分かっていますわ。あなたは、わたくしに教えを請うことがどれほど素晴らしいか理解できていませんものね。良いですこと?我が家は英雄の血筋なのです。今を遡ること5千年前────」


 聞いてもいない家自慢が始まった。ウキウキと語る姿は可愛らしいが聞かされる方はたまったもんじゃないだろう。

 こうなると長いようで座らされた犠牲者は顔を合わせボソボソ文句を言い合う。


 (また始まっちゃった!)

 (エルモンドくん元気だして……)

 (俺の昼飯が……)

 (魔法あるんだから商売人に剣なんていらねーでしょうに)


 「あーソラリア先輩、いいですかぁ?」

 琥珀色の細長い目に黒い毛皮のすらっとした女の子が長話を遮る。


 彼女はジャム。黒豹型の獣人だ。


 「そろそろ昼休み終わるんでー、ありがたいお話は一旦中断しませんか?」

 

 神聖な授業に遅れちゃうんでーとにこやかに付け足す。


 「……分かりました。 続きはまた後日にでもしましょうか」

 「さぁすが名家のご息女!勉学を疎かにしない勤勉家!文武両道の才女!」


 ジャムがみんなにウインクする。彼女がいると比較的ソラリアの機嫌が良いので訓練に巻き込まれる面子にはとてもありがたがられている。


 (ありがとうジャムさん!)

 (イケ女!)

 (昼飯が食える!)

 皆がそそくさと立ち去っていく。


 「ねね、ソラリア先輩。宣誓の儀式ってのそろそろなんでしょ?」


 すすっとソラリアのそばにより話題を振る。視界に皆を入れないためだ。鮮やかである。


 「あら……ご存じでしたのねジャムさん。そう、わたくしも今年で16歳。我が家のしきたりで各地の神殿に祈りを捧げに行くのですよ」


 彼女の一族、「ウカノミタリア家」はかつてこの世界の災厄を払い、未開の大地を切り開いたというありがたーい英雄の一族なのである。

 宣誓の儀式とは16歳を迎えた一族の子孫が、祖先が使用した神器を安置したと伝えられる神殿に赴き、神器から力を分けてもらい、世界に尽くす事を誓うという儀式だそうだ。


 「まぁ?わたくしは神器の力なんて興味はありませんが?祈っただけで力が貰えるなんて都合が良すぎますわよね?そもそもわたくしのお兄様は16歳になる前から精強であられましたし」


 うーんそうだねー、とジャムが適当に相づちを打つ。ソラリアの方は彼女に興味が無くなったようで視線を空へと移し、考え事を始める。

 この儀式は一人前の一族の仲間であると証明する意味合いもあるので気が気でないようだ。

 

 「儀式は来月……一族の恥にならないよう努めなくては……」


 服の裾をぎゅっとつかみ決意を固める。まだ未熟な彼女が目指すべき一番最初の目標なのであった。






 時は流れ一月後


 「ではお母様、行って参ります」


 旅支度を整え、母親に軽く会釈をする。


 革製の大きなリュックを背負って胸を張るソラリア。どう見てもワクワクしており傍目から見ると遠足にでも行くかのようだ。腰に携えた剣を除けばだが。


 「アズン神殿はあまり離れていませんが気をつけるのですよ。くれぐれも我が家の権威を落とすことの無いように。くれぐれも」


 厳格な印象の婦人がメイドと共に娘を見送る。ソラリアの母、ヒカゲだ。雰囲気以外もあまりソラリアに似ていない。

 彼女はソラリアの普段の素行をたしなめているので此度の儀式が問題なく行われるか心配でしょうがないようであった。


 最寄りの神殿の名はアズン神殿。 


 学園都市からそれほど距離が離れていないので観光に訪れる者もたまにいる石造りの神殿である。神殿以外は管理をする守護者の詰め所くらいしか無いのは問題かもしれない。


 「やはりお供が必要では無いですか?身の回りの世話をする者がいないと不便でしょう?」

 「お母様は心配性でいらっしゃるのね。大丈夫です!私はお料理も出来ますし、お金もたくさん貯めてありますわ!ウカノミタリア家の一員として見事に務めを果たして参りますとも!」


 そうして鼻息も荒く彼女は旅だった。これからの自分の歴史に残るであろう第一歩を踏みしめた気分でルンルンと歩き出す。


 ……何事もありませんようにと天を仰ぐ母を残して。




 そして旅立ち大体一時間後、アズン神殿。

 ソラリアは詰め所に武器や荷物を預け、一人神殿内部に向かっていた。


 「……想像よりも閑散としていますわね。私の家より小さいんじゃないかしら」


 詰め所から伸びる階段を上り、広い空間にぽつんと黒い石で出来た神殿が建っている。入り口に警備も立っておらず不用心だ。

 まぁここで騒ぎを起こせば学園都市の強ーい守備隊がすっ飛んでくるので仕方ないことかもしれない。


 ソラリアは拍子抜けしながら歩みを進めていく。せっかくの第一歩なのに……とでも言いたげだ。

 難無く神殿内部に入ったソラリアはさらに眉をしかめる。


 広い空間の奥に祭壇があるだけでそれ以外は何も無い。奇妙な文様が床に描かれているくらいしか特徴が無い。


 「あれは……箱?神器が中に保管されているのかしら……」


 祭壇の中心には継ぎ目のない四角形の赤い箱のようなものに文字の書かれた紙が貼りつけられている。


 怪訝そうに箱を眺めるソラリア。


 (そういえば神器がどういうものか教科書には載っていませんでしたわね。お兄様に聞いておけば良かったですわ)


 祭壇まで来たソラリアは周りを見回す。本当に何も無い。

 無駄に広い空間で佇んでいると妙に落ち着かない。なんだか保管というより封印でもされているかのようで少し不安が湧いてくる。


 (いけないいけない、不安になってはダメよソラリア!この地は代々守護されてきた場所なんだから大丈夫。一族の務めを果たすのです!この日のために祈り文句もしっかり考えてきたじゃない!)


 頭を横に振り、その場にしゃがみ込み祈りを捧げる。


 (天にまします偉大なる我が一族よ、荘厳なる血統たるウカノミタリア家のソラリアが参りました。かつてこの世を平定し安寧をもたらしたる英雄よ、我を祝福し力をお貸しください────)


 半年前から考えていたかっこいい祈りを捧げていると、ふと声が聞こえたような気がした。


 「……ガ…シイカ……」


 (そうあれは忌々しい銀の大地での聖戦でのこと、我が一族の初代英雄タイヨウ様が────?)


 「チカラガホシイカ……ユウキアルモノヨ……」


 顔を上げ周りを見渡す。


 誰もいない。


 「気のせいかしら……?」


 祈りに戻ろうとすると今度はしっかりと声が聞こえた。箱の方からだ。


 「力が欲しいか……勇気ある者よ……封印を解くがいい……」

 「んひゅっ!?」


 思わずソラリアは飛び上がり後ずさる。箱がしゃべっている。ように見える。


 「ひょっとして……力を授けるってこういう事……?」


 逡巡するが考え直す。


 (いやそれはおかしい、封印って言ったもの。お父様やお兄様からそんな話は聞いたことが無い。教科書にも載ってなかったし)

 「臆したか臆病者め!一族の血が聞いて呆れる。タイヨウ様も嘆いておられるぞ」


 臆病者という言葉にむっとする。


 (タイヨウ様の名前を知っているなら一族の幽霊とか……?いやいや教科書にだって載ってるお名前ですし)

 「ノミのように飛び上がりおって!お前の一族は跳ねる事しか能が無いのか?空まで跳ねたからソラリアだなんて安直な名前であるんじゃ────」


 ソラリアが箱まで駆け寄り紙を力いっぱい剥がす。そのまま全力で箱を地面に叩きつけた。


 (ざまぁみろですわ)


 ……声が途切れ、神殿内が再び沈んだ空気で満たされる。が


 何も起こらない。


 ソラリアはやってしまった!と少し焦り始めていたが、胸をなで下ろす。


 「ふ……ふん!なんてことないじゃありま


 と、突然箱から眩い光が溢れだし────爆発!


 神殿も大爆発!!


 ソラリアの服も爆散!!!





 爆心地で全裸でたたずむソラリアの頭の中から呆れたような声が響くのであった。


((いやー自分で煽っといてなんだけど、こんなんで封印破ってくれるやつがいるとは思わなかったよ。ありがとね))


 これがオレ。ノイズとソラリアの出会いってわけさ。

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