罪人の島
蒼葉 明
罪人の島【短編】
俺は一ヶ月前、罪を犯した。放火犯だった。
この国には死刑の代わりに島流し刑が存在している。俺は罪人の島へと流された。
揺蕩う雲を踏み、晴れ渡る空を見る。
罪人の島にしては、ここは案外居心地がよさそうに見えるだろう。ここは雲の上、空に存在する島だった。
俺や他の罪人はここに来る前に薬を飲まされ、「重力感」が無くなっている。雲の上を歩いても落ちることはない。
今日も俺はいつものように病院へと向かった。
「続いて1516番どうぞ」
囚人ナンバーで呼ばれ、俺は体重計に乗った。
メモリが指す数字を見て、慌てて口を開く。
「12ウォグしかない!俺、死にたくないです!」
「貴方みたいな人はみんなそう言うわ。次、886番どうぞ」
絶望し、俺は帰路についた。
ウォグというのはこの島での重さの単位らしい。数字が0になると消えてしまうという噂があるが、誰もその現場に立ち会ったことはない。
そして、いくら食事を摂っても俺のウォグが増えることはなかった。
「お兄さん、困ってるの?」
「君は……? 幼いのに、なぜこんなところにいるんだ?」
目の前に現れたのは、小学生くらいの子どもだった。
「ボクもお兄さんと同じ、犯罪をしたからここにいるに決まってるじゃん!」
「ま、まぁ、それはそうか……」
「ちなみに、お兄さんは何をしてここに来たの?」
今までのことが頭をよぎる。
「放火だよ。俺の両親は離婚してて、父親がとにかくクソみたいなやつでさ。突然来てお金をせびられて、許せなかったんだ」
父親からは虐待されていた。
あらゆる手段で虐げられ、児童相談所に何回も預けられた。何回も、というのはあまりいいことではなかった。
最終的には母親と共に家出することになったのだが、父親は一ヶ月前に急にまた姿を現した。
「金貸してくれ。貸さないと、どうなるか、教えただろ?」
後日俺は深夜に父親の家に行って火をつけた。
パチパチと木が燃える音が心地よかった。
「やっぱり! ボク、それ見てたよ! あの時のお兄さんだったんだ!」
目の前の子どもの声で我に返る。
今、なんで言った?
「ボクのお父さん、殺してくれた人だよね? ちょうどボクは家にいなかったの。ありがとう!」
透き通った瞳に、青空が反射していた。
声がうまく出なかった。
「え、じゃあ、君はなんでここにいるんだ……?」
「友だちとケンカしちゃったから、お家燃やしたの」
「あ、あああ……」
身体が急激に重くなった。
俺は足元の雲を突き抜けて落下していった。
弟と、最後に目が合った。
☆☆☆
病室には一人の青年の姿があった。
その横で看護師達が話す。
「あの島から人が落ちてくるなんて、めずらしいですよね」
「ここだけの秘密なんだけど、大半はウォグが無くなって消えちゃうらしいけど、稀にちゃんと反省する人がいるみたいで」
「ウォグってなんですか?」
「Weight of guilt、罪悪感の量を示す単位のことよ」
「ええ〜、なんか一方的ですね」
罪人の島 蒼葉 明 @akari_aoba
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