再開とプチ騒動

 こう見えても八紘は成績優秀だ。

 中学生の頃から始まった中間、期末テストの点数は毎回90点以上を記録。七海とテスト勉強をして彼女の成績をグンと上げた実績だって持つ。

 ついでに言うと九朗の底辺滑り込みだった成績も中間程度にまで持ち直させた。

 そのため九朗の両親からは本当に感謝されたのだが……その話は割愛。

 つまるところ。

 

「高校の授業、難しすぎ……」

「お前なぁ……この程度中学に毛が生えた程度だぞ?」

「勉強ができるやつはそういうんだよ……っつーかお前、俺と夜中にゲームやってんのにどうしてそんなに成績がいいんだよ!? チートか!? チート使ってんな!?」

「ふっ。ココの違いだよ、九朗くん」

「むきゃちゅくぅ」


 高校の授業程度もある程度余裕である。

 流石に歴史の授業はダンジョン関連の事を新しく詰めなくてはならないため苦戦しているが、その程度。

 ビバ二週目。ビバ記憶持ち越し。

 社会人を経験したからか勉強の重要性も理解しているし、社会人になってからやる勉強よりも難易度は低いし。

 勉強ができる人の学生生活ってこんなにも輝いているんだぁ、なんて思える始末だ。

 ちなみに地頭はあんまりよくない。

 

「はぁ……あっ、八紘。この後俺、ちょっと席外すからさ。教室で待っててくれないか?」

「いいけど……どんくらいかかる?」

「分かんねぇ。けど、親からちょっと連絡が来てさ。電話するだけだけど、ちょっと時間かかるかも」

「りょーかい。まっ、俺の事は気にしないでくれ。あぁ、あと金渡すからジュース買ってきて」

「あいよ」


 九朗の家庭は問題があるわけではない。

 ないのだが……彼女の母は時折推しアイドルのライブやらイベントやらのために唐突に出かけるのだ。そのため、九朗は家から締め出されて晩飯が相当遅くなることがある。

 恐らくだが、今日もそれ関連だろう。

 時刻は既に1日の終わりのSHR。担任の最低限の連絡が終わり、九朗はスマホ片手に教室を出ていった。

 兼原高校は通話をするのであれば決められた場所に行かなければならない。そのルールを守りにわざわざ席を離れたのだ。

 一人残された八紘は暇になり、スマホを眺める。

 だが、どうにも気が乗らず、校庭の方を眺め始めた。

 既に他のクラスもSHRが終わり、外には部活動に明け暮れる生徒たちの姿が見える。


「元気だねぇ」


 そんなことを呟きながら校庭を見つめる。

 八紘は帰宅部。前世で部活動なんてやったところで意味はないと学んだため、迷わずに帰宅部を選択した。

 もしもエイダバトルがバトリング・オブ・エイダ並みに面白ければ話は変わっていただろうが……

 そんなことを思いながら校庭を眺めていると。

 

「ん? あれは……」


 比較的校舎に近い校庭の一角。そこに明らかに生徒じゃない何かがあった。

 何かというか、エイダだ。

 民間にも卸されている、エイダバトル用のエイダだ。

 確か機体名は。

 

「『雷光』、だな」


 バトリング・オブ・エイダにも出てきた機体だ。

 かなり初期も初期に使う低性能のエイダだったことは覚えている。

 この世界では日本製の、エイダバトル用のエイダとしてはメジャーなエイダだ。

 だが、よく見ると機体の各所にカスタマイズが施されている事が分かる。

 

「……センスは、いいな」


 武装のチョイス、機体各所に後付けされたパーツの数々。詳細は分からないが、機体の動きを見る限り機体のエネルギーよりも機体のスペック。それも、機動力を上げるカスタマイズが施されている。

 八紘好みのカスタマイズだ。

 その横には、エイダにはあまり詳しくないのだろう少女があたふたしているのが見える。

 というかあの少女。

 

「……えっ、七海?」


 七海だ。楠七海。幼馴染の。つい先月会ったばかりだから間違えるわけがない。

 何してるんだあんな所で。

 思わず、といった感じで八紘は立ち上がる。

 

「八紘、お待たせ。ったく、母ちゃんまーたおっかけの遠征で居ないから、親父が帰ってくるまで外に居ろって……うおっ、どうしたんだ八紘!?」

「悪い! ちょっと校庭に行く! ついて来ても来なくてもいい!」

「行くに決まってんだろ!? ちょ待てよ!」


 鞄を片手に誰も居なくなった廊下を走って校庭に向かう。

 九朗はその後を必死についてきた。

 向かう先は勿論、七海の所。

 今も尚初心者丸出しな動きをしているエイダの横であたふたしている彼女の所だ。

 

「ど、どうしよ……どうしたらいいんだろこれ……」

「おーい、七海! 何してんだそんなところで!」

「へ? あれ、やっくん!?」


 活発系……とは言えず、どちらかと言えばインドア系な印象を受ける少女。それが七海だ。

 くせっ毛でもふもふしている伸ばしっぱなしの髪も印象的で、ついでに言えば顔もいい。顔もとてもいい。合法ロリともいえる体型だが、そんな体型も実にいい。

 そんな八紘の幼馴染が七海なわけだが、彼女は何やら面白い動きをしているエイダの横であたふたしていた。


「た、助けてやっくん! 燕谷さんがエイダから出られないみたいなの!」

「はぁ!?」


 燕谷、というのは今エイダを操縦している人間か。

 出られない、というのはよく分からないが。

 だが、内側から出られない場合は外から動かしてやる必要がある。しかし、七海はそれがよく分からないのだろう。

 状況はよく分からないが、助けなければ。八紘は状況を聞き出す、と言うタスクの優先順位を下げ、目の前の状況を何とかする事にした。

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